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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第四章 結ばれ始める縁

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第一話 課せられた役目

セドリックは静かに父を見つめていた。


書斎には重苦しい沈黙が流れている。


先ほどまで聞かされていた現実は、どれも想像を超えるものだった。


共同事業の中止。

出資の見直し。

契約の再協議。


婚約解消は、一人の令嬢との別れだけでは終わらなかった。


家と家が長い年月をかけて築いてきた、信頼まで失わせていたのだ。

侯爵は、息子をまっすぐ見つめる。


「セドリック。」


静かな声が、書斎に響く。


「お前は、ランベール侯爵家の次男だ。本来であれば、お前は家督を継ぐ立場ではない。」


セドリックは、小さく頷いた。

それは幼い頃から、理解していたことだった。


侯爵は一度、言葉を切る。

そして、ゆっくりと続けた。


「だからこそ、お前には家のために果たすべき役目がある。」


その一言に、セドリックの表情がわずかに強張る。

セドリックは、父の言葉を静かに待った。


侯爵は窓の外へ、視線を向ける。

春の陽射しは穏やかなのに、その横顔だけはどこか厳しかった。


「貴族には、それぞれ果たすべき役目がある。家督を継ぐ者。領地を守る者。王家へ仕える者。そして、婚姻によって家と家を結ぶ者。」


静かな声が、書斎に響く。


「お前の婚約も、その一つだった。」


セドリックは、ゆっくりと拳を握り締める。

その意味は、今なら理解できる。


「私は、お前の気持ちを尊重した。だから、婚約解消を認めた。」


侯爵は振り返り、まっすぐ息子を見つめた。


「だが、その結果として失われたものまで、なかったことにはできない。」


その言葉は、責めるものではなかった。

ただ、貴族としての現実を告げているだけだった。


書斎には、再び静かな沈黙が流れる。

やがて侯爵は、小さく息を吐いた。


「セドリック。家は、お前にも新たな役目を託すことになる。」


セドリックは、静かに息を呑んだ。


「……新たな役目、ですか。」


侯爵は小さく頷く。


「すでに、いくつか縁談の話が届いている。」


「縁談……。」


思わず漏れたその一言は、自分でも驚くほど小さかった。

侯爵は執務机の引き出しから、一通の書類を取り出す。


「いずれも、家を継ぐ者を失った家。あるいは、後継者を必要としている家だ。」


セドリックは、書類へ視線を落とした。

そこには、伯爵家や子爵家の名が並んでいる。


「……婿養子。」


思わず零れた呟きに、侯爵は静かに頷いた。


「そうだ。お前には、いずれ婿として家を支えてもらうことになる。それが、ランベール侯爵家の次男として生まれた、お前の役目だ。」


書斎に、長い沈黙が流れた。


セドリックは、書類から目を離せない。

そこへ並ぶ家名を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。


自分が望んだ未来。

自分が選んだ道。

その代償が、今ようやく形となって、目の前へ差し出されていた。


侯爵は静かに、息子を見つめる。


「すぐに、返事を求めるつもりはない。だが、よく考えなさい。お前一人の人生ではない。家を背負うということは、そういうことだ。」


セドリックは、静かに目を閉じた。

しばらくして、小さく頷く。


「……承知しました。」


その声は、これまでになく重かった。


侯爵は何も言わない。

ただ、静かに頷くだけだった。


春風が、窓辺のカーテンを優しく揺らす。


その穏やかな景色とは裏腹に、セドリックの未来は、大きく動き始めようとしていた。


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