第七話 迫る刃
男が動いた。
角を曲がった瞬間、それまで周囲へ紛れていた気配が、一変する。
後方を歩いていた男が、一気に距離を詰めた。
同時に、通りの反対側にいたもう一人の男も歩みを速める。
二人の狙いは、一人の令嬢。
「お嬢様……?」
何かを感じ取ったのか、マリアが小さく振り返る。
その時だった。
「動くな!」
鋭い声が、静かな通りへ響く。
男の一人が、外套の内側へ手を伸ばす。
短剣が陽光を受け、一瞬だけ鈍く光った。
「きゃっ――!」
マリアが、息を呑む。
だが、その悲鳴よりも早く。
「伏せてください!」
低く響いた声とともに、一人の男が、二人の前へ躍り出た。
銀色の剣が、一閃する。
甲高い金属音が、通りへ響き渡った。
短剣は弾かれ、男は大きく体勢を崩す。
「何だとっ!?」
男が目を見開く。
レオンは、一歩も引かない。
静かに剣を構え、男たちを見据えた。
「王都騎士団だ。」
その一言だけで、場の空気が一変した。
男は舌打ちすると、素早く体勢を立て直した。
「邪魔をするな!」
短剣が、鋭く突き出される。
しかし、レオンは慌てることなく半歩だけ身を引いた。
刃は空を切る。
次の瞬間。
鋭い一閃が、男の手首をかすめた。
「ぐっ……!」
短剣が、乾いた音を立てて石畳へ転がる。
その一方で、もう一人の男が進路を変えた。
狙いはリシェルだった。
「お嬢様!」
マリアが、咄嗟に前へ出ようとする。
「マリア、下がって!」
リシェルはマリアの腕を引き寄せ、自らが一歩前へ出た。
突然の動きに、男の足が一瞬だけ止まる。
その隙を逃さなかった。
「そこまでだ!」
通りの反対側から、若い騎士が駆け込んでくる。
抜き放たれた剣が、男の行く手を遮った。
「くっ……!」
男は咄嗟に向きを変え、逃走を図る。
しかし、その先にも巡回中の騎士たちが、駆けつけていた。
「包囲しろ!」
ノアの声に応じ、騎士たちが一斉に動く。
逃げ道は、もう残されていなかった。
男は歯を食いしばり、なおも突破しようと踏み込む。
だが、その前へ静かに立ちはだかったのは――。
レオンだった。
「終わりだ。」
低く告げられた一言には、不思議なほどの、重みがあった。
男はなおも抵抗しようとした。
しかし、その腕は巡回騎士によって、素早く取り押さえられる。
「確保しました!」
ノアの声が、通りに響く。
二人の男は、その場で拘束された。
静寂が戻った。
レオンは剣を収めると、ゆっくりと、リシェルへ向き直った。




