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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第ニ章 動き出した歯車

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第九話 交わった運命

「危険です!」


凛とした声が、大通りに響き渡る。


その声とほぼ同時に、一人の騎士が人混みを駆け抜けた。


迷いのない足取り。

鍛えられた身体が、一瞬で距離を詰める。


「お嬢様!」


護衛もリシェルの前へ出ようとする。


しかし、それより早く――。


騎士は逃走していた男とリシェルたちの間へ、滑り込んだ。


男は舌打ちすると、進路を変えようと身をひるがえす。


「逃がすな!」


騎士の声に応じ、後方から追っていた騎士たちが、一斉に動いた。


逃げ場を失った男は、路地へ飛び込もうとする。


だが、その一歩先には別の騎士が立ちはだかっていた。


「観念しろ。」


短く告げられた声に、男は足を止める。


周囲から、小さなどよめきが起こった。


「助かった……。」


「さすが、騎士団だ。」


安堵した声が、あちこちから聞こえてくる。


騎士は周囲を見渡し、人々に怪我人がいないことを確かめると、ようやくリシェルたちへ視線を向けた。


「お怪我は、ございませんか。」


落ち着いた、よく通る声だった。

リシェルは一礼する。


「はい。おかげさまで。」


「それなら、安心しました。」


騎士は、穏やかに頷く。


その横顔を見た瞬間、リシェルは思い出した。


(あの方は……。)


以前、王城で一度だけ見かけた騎士。

そして、エルネストが屋敷で話していた人物。


王国騎士団長――レオン・ヴァルフォード。


だが、名乗る時間はなかった。


「団長!」


部下の騎士が駆け寄る。


「男を確保しました。」


「分かった。」


レオンは短く応じると、再びリシェルへ向き直った。


「失礼いたします。」


それだけ告げて一礼し、部下たちのもとへ歩き出す。


その背中には、一切の無駄がなかった。

リシェルは、去っていく姿を静かに見送る。


(噂どおりの方なのね……。)


人々を守ることを、何よりも優先する騎士。

その姿は、自然と胸に残っていた。


男が連行されていくのを見届けると、大通りにも、少しずつ日常が戻り始めた。


「びっくり、いたしましたわね。」


マリアが胸を撫で下ろす。


「ええ。」


リシェルも静かに頷いた。


幸い、怪我人は出なかったようだ。


露店の店主たちも、倒れた品を並べ直しながら、安堵の笑みを浮かべている。


「お嬢様、お怪我がなくて何よりでした。」


護衛の一人が頭を下げる。


「皆さんが、守ってくださったおかげです。ありがとうございます。」


リシェルが礼を告げると、護衛たちはどこか照れくさそうに目を伏せた。


その様子に、自然と頬が緩む。


先ほどまで、張りつめていた空気が、少しずつ和らいでいく。


けれど――。


(あの方……。)


先ほどの騎士の姿が、ふと脳裏をよぎった。


迷いのない判断。

人々を守るため、一瞬もためらわず前へ出た姿。


そして、自分が礼を言うより先に、任務へ戻っていった背中。


噂で聞いていた人物像と、目の前で見た姿は、少しも違わなかった。


(本当に……騎士団長なのね。)


その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。


レオンの背中は、人混みの向こうへと消えていく。


誰かに、礼を求めることもなく、立ち止まることもなく。

ただ、自らの務めを果たすために。


その姿を見送りながら、リシェルは静かに息をついた。


「お嬢様、参りましょうか。」


マリアの声に、ゆっくりと頷く。


「ええ。」


二人は、再び歩き出す。

先ほどと同じ、王都の景色。


行き交う人々。

露店の賑わい。

子どもたちの笑い声。


けれど、リシェルの胸には一つだけ、新しい記憶が刻まれていた。


――王国騎士団長、レオン・ヴァルフォード。


その名はもう、噂の中の人物ではなかった。

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