第5話 宮野争奪戦争
「宮野君は私と一緒に行くのー!」
「かなめ、仕事行くぞ」
「私の家に行きましょう、宮野君」
俺は今、十五年の人生で一番の修羅場を迎えている。誰か助けて。
***
話は今日の朝に遡る。家を出ようというところで、一件のメッセージが届く。
『今日の放課後、空いてる?』
メッセージの送り主は悠月だ。
今日は帰りに本屋に行こうと思っている。俺の好きな大人気小説「正妻ポジの幼馴染は、負けヒロインにその座を奪われます。」の発売日なのだ。初版厨の俺としては発売日に買わないわけにはいかないのである。通販で買えばいいと言ったか?書店限定特典を忘れてはいけないぞ。
ここで簡単に空いていると返すとロクなことにならないことを、三年かけてじっくり教え込まれている。何が起きたかはまた別の機会に話すとしよう。とにかく、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんである。
『内容による』
『空いてるってことね』
『内容による』
『昨日、先生から仕事を頼まれたの。中学にお届け物。私だけじゃ不安だなー。重くて運べないかもなー。女の子一人に任せちゃっていいのかなー。』
『わざわざ俺でなくたって、友達でも連れていきゃいいだろう』
『男手があると安心だなー』
『まあ考えておくよ、行くとは言ってねえぞ』
可愛い了解スタンプが送られてきた。めんどくさそうだったらすぐに逃げさせてもらう。俺は行くとは言ってない。
***
次は朝の教室だ。俺が席に着いたところで。風香さんが話しかけてきた。
「おはよう宮野君」
「おはよう風香さん」
「宮野君にちょっと聞きたいことがあるんだけど、、良いかな?」
「ん?どうした?」
「今日の放課後って空いてる?」
デジャヴである。
「内容による」
「一緒に本屋に行ってほしいの。私、親におつかいを頼まれちゃって。一人で本屋さんに行ったことがなくって、少し不安なの」
なんと風香さんも本屋に行きたいらしい。目的が合致しているのであれば断る理由は無い。
「俺も今日本屋に行こうと思っていたんだ。一緒に行こう」
「ほんと?良かったあ」
であれば、悠月の頼み事は丁重にお断りしよう。
***
そして、放課後。教室でスマホをいじっていると
「宮野君、ちょっといい?」
と、塩塚さんが話しかけてきた。
「ん?どうした?」
「今から私の家、来ない?」
一瞬何を言われたか分からなかった。家?塩塚さんの?どうして。
「ど、どうして塩塚さんの家に」
「昨日コレが届いたんだ」
と言って塩塚さんはスマホの画面を見せてきた。それを見た俺は衝撃を受けた。
「ええマジで!これ当たったの?」
「そうなの。この前のツアー映像に加えて密着映像と限定グッズ付きの特装版」
「まじかよ羨ましー」
「よかったら一緒に観ない?」
「いいのか?観たい観たい!」
「じゃあ来る?」
ここで隣人からの強烈な視線により、俺はいったん冷静になる。今日は先約がいたのだ。でも観たい。すごく観たい。悩んでいると俺が返事をする前に風香さんが割り込んでくる。
「残念ですが塩塚さん。宮野君は私との予定があるの。今日のところはお引き取り願うわ」
「えー、観ようよ宮野君」
「ダメよ宮野君」
「今日来ないなら観せてあげないよー」
「えっ」
「ダメよ宮野君!私と一緒に本屋に行くの!」
「私の家に行こうよー」
風香さんと塩塚さんが俺を取り合っているところに、奴が来る。
「かなめー、迎えに来たよー」
「「は??」」
悠月だ。逃げ遅れたちくしょう。
「どういうことなの宮野君!私と約束してたんじゃないの!」
「トリプルブッキングかい、宮野君」
「いや、その、違うんだよみんな」
「さあ仕事に行くぞ、かなめ」
「ダメ!宮野君は私と本屋に行くのー!」
「いーや、私の家に来るんだ宮野君」
さあ俺よ、この状況を一体どうやって切り抜ける。




