第38話 危機
今日は文化祭三日目!最終日!なのだが。
「あーキッツ。クラクラする」
昨日働きすぎたからか、朝から熱と頭痛がする。
「帰りてえ…」
生徒会室のソファでそう呟く。
しかし、俺には帰ることの出来ない理由がある。
◇◇◇
昨日の帰宅後、すぐに自分の部屋に行きベッドへ。そのまま寝落ちした。
その後、二十二時頃に目を覚ますと目の前には天使がいた。
「あ、お兄ちゃん起きた。お風呂入りなよー」
「ん…めい…」
「明日もあるでしょ。早く寝て備えないとだよ」
「うん…眠い…」
「ちょっとお兄ちゃん!起きて!」
もう一度寝落ちしそうなところを何とか芽衣に起こしてもらう。
「ありがとな芽衣。じゃあ風呂入ってくるわ。おやすみ」
「あ、あの、お兄ちゃん!」
「ん?どうした?」
「明日もキャバクラやる?」
「どうかなあ…本当は明日やる予定だったのを急遽やったから分かんないかなあ」
「そっか…見たかったなあ…」
「もちろん明日もやるさ」
「え!本当!やったー!」
「可愛い妹のためならなんだってやるさ。多分混むから即来てね」
「分かった!おやすみ、お兄ちゃん!」
芽衣が見たがってるなら「やる」以外の選択肢は俺には存在しない。よーし、気合入れていくぞー!
◇◇◇
「おーい宮野君!大丈夫?顔色悪いけど」
「ああ…大丈夫だ…心配ありがとう風香さん」
心配されるレベルで顔に出てたか。
お客さんの前、特に芽衣の前では全力でお兄ちゃんを…って違う違う、キャバ嬢を遂行する!!
とりあえず、着替えるか。
「にしてもこの衣装、我ながらよく似合ってるなあ」
着替えた自分の姿を鏡で見ながら俺は呟く。
「でも、みんなの方が似合ってるね!」
これは間違いない事実である。風香さん、塩塚さん、ひよりさん、それぞれの魅力が引き出された素晴らしい衣装だ。
女装の俺なんかよりよっぽど魅力的だ。
「え、えへ、えへへ…」
「ありがとねぇ」
「別に宮野に褒められても嬉しくなんか無いから」
三者三様の反応が返ってきた。
ひよりさんだけ教科書に出てきそうなツンデレだな。
「じゃあ今日も頑張ろうぜー!」
「「「おー!」」」
***
「かなこちゃん、ご指名でーす!」
「はーい!」
開店から一時間。
昨日の評判が広まったのか、今日のキャバクラは昨日以上の混雑を見せていた。
「昨日の女装男子ってこの子?」
「ほんとだ、かわいいー!」
「チェキ撮ろ!」
ちょ、なんで俺目当ての客こんな多いんだよ。
おかしいだろ。
他に美少女三人いるぞ。なぜ俺のような野郎を指名する。
「かなこちゃん、ドリンク二杯!」
「ありがとうございます!」
「チェキも!」
「はいよろこんでー!」
まあ、売り上げになるなら良いか。
昨日は恥ずかしかった接客も、二日目ともなれば板についてくる。
「お姉さん、今日はどこ回ってきたんですかー?」
「二年の劇見てきたよ」
「へえ!どうでした?」
「結構面白かった!かなこちゃんは見た?」
「残念ながら仕事中でーす。俺の分まで楽しんできてくださいね」
「えー、一緒に回りたーい」
「あはは。予約は受け付けておりませーん」
昨日より口が回る。我ながら成長したものだ。
ただ問題がある。
さっきから異様に身体が熱い。体調が悪化している気がする。
お客さんと喋っている間は勢いで何とかなっているけど、席を立つたびに若干視界が揺れる。
「宮野君」
「ん、風香さん。どうした?」
「ちょっとこっち来て」
「今から次の指名が」
「いいから」
「あっ、はい」
風香さんの圧に負けた。昨日から何回連行されてるんだ俺。
生徒会室へ入ると、風香さんは俺の額に手を当ててきた。
「きゃっ」
「動かないで」
風香さんの手、冷たくて気持ちいい~。癒される~。
ずっとこのままでいてほしい。
「……やっぱり熱いよ」
「衣装のせいじゃない?」
「絶対違う!」
「そうかなあ」
「体調悪いなら無理しないで休んでね」
「ああ、心配ありがとう」
「絶対だからね!約束!」
「分かったよ。約束約束」
「それで良し。じゃ、頑張ってね!」
「風香さんも頑張ってね」
「うん!」
***
「かなこちゃん、ご指名でーす!」
「あいよー!」
そしてついに、神は顕現した。
「おお芽衣…芽衣よ…」
「お兄ちゃんもっとしっかりしたほうが良いんじゃない?仕事中でしょ?」
「おっと、すまないね」
仕事中なのについやってしまった。あんまり見られてなかったから大丈夫だろう。
「時間いっぱい話そうな、芽衣」
「うん!」
「フハハ!最高の気分だなあ!」
時間いっぱいまで芽衣と話した。
文化祭で巡った場所や出店など思い出をたくさん話してくれた。
芽衣が楽しそうで良かった。俺はそれだけで満足だ。
「お兄ちゃんとたくさん話せて楽しかった!ありがとう!」
「俺のほうこそ来てくれてありがとう。とっても嬉しいよ」
「その服、似合ってるね。かわいい」
「本当か?じゃあ家でも着るよ」
「それはやめてほしいかも」
「そうか。じゃあやめとくよ」
「うんうん。じゃあ、チェキ撮ろ!」
「ああもちろんだ!」
姉の時とは大違いの笑顔で芽衣とチェキを撮る。
スマホカバーに挟みたいほど素晴らしいチェキであるが、自分の女装姿をも映っているため断念した。
妹は見せびらかしても良いが同時に自分も見せびらかさないといけないのは嫌だ。
大人しく自分の部屋に飾ろう。
「またねー!お兄ちゃーん!」
「またなー芽衣!」
芽衣を送り出す。神の背中が見えなくなるまで手を振る。
「やり切った。やり切ったぞ。後は頼んだ…」
芽衣が見えなくなった途端力が切れ、俺はその場に倒れた。




