第七話 いざヒメシオン ①
日差しがさす中二人が振り返ると、三人の子供たちはまだ元気に小さな手を振っていた。セーラは病弱と聞いていたが、やんちゃな友達二人と比べて、という枕詞が付きそうなほどの血色だった。
「良い魔法使いの師匠に出会えるか、そうじゃなくても身体をつかう基礎を教えられる人がハイルにとって良い人だといいなあ」
村人が見えなくなった頃、なおもひそめて呟いたリゼの声には実感が伴っていた。
魔法が使えるといっても、基礎の身体が弱ければ話にならない。例えばノアは魔法が使えるがノア自体は貧弱なため、仮にリゼと同じだけの身体強化を使えても身体強化していないリゼと腕相撲してかろうじて勝てるかどうかと言うほどだ。魔法使いといえど必ずしも魔獣を倒せるわけではないのだ。
「まだハイルが魔法を使えるってことは周りには言ってないんだろ?」
「うん。変に言いふらさないでね、とは教えておいたんだ。そのほうがハイルのためでもあるし」
魔法使いという存在は魔獣によって困窮している村にとっては眩しすぎる希望の光だ。魔法について誰もよく知らないままハイルは魔獣と戦うことを強要されることもあるかもしれない。
仮にそうなるとしても、なんとか身を守る方法だけでも教えてくれる指導者がいるだけでハイルの身の回りは随分と楽になるだろう。ノアたちも念のため自分たちが今までに見聞きした魔獣の生態を村人に伝えてきたが、あれもどこまで活用できるかは分からない。猟師あたりが魔獣の特徴について理解して助言でもあると良いが。
「リゼみたいに身体強化できるなら五感強化ができるだろうし、倒せなくても耳と鼻が良ければ魔獣との遭遇が回避できるんじゃない」
「あ!! そうじゃん、それ言ってなかった。今からちょっと伝えに戻っていい? すぐ追いつくから」
「もう言ったよ」
今回のように賢い魔獣もいるし、たらふく餌を蓄えた想定より強い魔獣だっている。そんな魔獣に出会った時に、彼我の実力差を見て逃げる選択肢を取る冷静さも魔法使いには求められる。魔法使いが無駄死にするのは同じ魔法使いとして放って置けないからノアは助言しただけだ。
そう思っているのに、リゼはニヤニヤと笑い赤髪を垂れてノアを覗き込む。
「やるじゃんノア〜! 子供嫌いのくせに〜!」
「リゼのこと話して聞かせろって鬱陶しかったら言っただけだって」
リゼの勇姿を小説にしようとまで言っている男にしては随分と無理のある言い訳だった。ノアは脇腹をつつかれながらバツが悪そうに、しかしいつものおちゃらけた表情とは違う少し真剣な表情で小さく呟いた。
「……無謀は善ではないから」
「? なんか言った?」
「昨日のハイルって子が纏わり付いて来るのが本当に困ったなって思い出してただけ」
願わくば力を手に入れたからといって、『自分は無敵』などという思い込みか祀り上げで無駄死にしないことだ。
振り返って村を一瞥したノアは、リゼに追いつくべく足を動かし始めてもう振り返らなかった。




