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あのね。  作者: 原田楓香
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㊿決着


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもあり、同じ文芸部の部員でもある。

 ――今は。少なくとも、今は。



 1年だ。

 彼、藤澤 琉生と直接出会って1年になる。

 そう。わずかに一年だ。

 私としては、小5のときに彼の存在を知ったので、もう昔からの知り合いのように思ってしまっているが、彼にとっては、私はわずか1年の付き合いのクラスメートに過ぎない。

 さみしいけど、それが現実だ。

 



「グループ分けはくじ引きで決めます。窓側から順番に袋を回します。中から1枚取って、後ろの人に回してください。くじを引いても全員が引き終わるまで中を見ないでくださいね」

 倉内先生が言った。


「え? 何のグループ分け?」

 首をひねる私に、隣の席の佐藤くんが言った。

「学年集会で、日帰り学年キャンプの話してたろ? そのグループ分け」

「え? そんな話してたっけ?」

「あれ。聞いてなかったの? オリエンテーリングと飯ごう炊さんやるって」

「へ~……」

 そうか。

 そんな楽しげな話をしてたのか。

 てっきり、新学期の注意事項とか、そんな生徒指導上の、あまりテンションの上がらない話をしてたんだと思ってた。

 私がそう言うと、佐藤くんは笑って、

「もちろん、そういう話もしてたけどね。そんなのはみんなの耳を素通りじゃないかな」


 日帰り学年キャンプのグループか。

 もしも同じグループになったらどうしよう。

 すごく嬉しいだろうな。

 どきどきする。


 でも、期待してはいけない。

 基本、私にはくじ運がない。

 当たり付きのお菓子やアイスバーも、今までただの一度も当たったことがない。福引きは、いつも末等のティッシュかあめ玉1個だ。

 だから、願いはするけど期待はしない。

 もちろん、今回の当たりは、琉生と同じグループになることだ。


 神様。

 どうかどうか。

 琉生と同じグループになりますように……と祈りかけてハッとする。

(あ。私、もう願いごとはしませんって言うたんやった)

 

 彼が事故機に乗っているかもという情報を聞いたとき、私は必死で願ったのだ。

 日本中の、世界中の、神様達に。図書館の神様に。


(彼を守ってくれて、無事にここに帰らせてくれたら。 私は、これから先、もう何も自分の願いごとはしません。もう欲張って、いろんなお願いなんかしません)

 

 ああああ。

 そうや。

 一生分の願いごとをすでに使ってしまったんだ。

 秘かに頭を抱える。

 

 いや。でも。

 確かに彼は無事に帰ってきた。

 そう、願いはちゃんと叶っている。

 

 だから。

 私も、約束を守るのが筋だ。

 願いごとをしたくなる自分を必死に抑えて、淡々と回ってきた袋から、くじを引く。

 


 全員がくじを引き終え、倉内先生が言う。

「引いたくじを誰かと交換するのはナシですよ」

「グループが男子ばかりとか、女子ばかりとかになっても、ですか?」

 誰かが訊いた。

「そうです。オリエンテーリングと飯ごう炊さんのときのグループなので、特に問題はないでしょう。バスの席も、あとでくじ引きをします」


 なんていうか、めっちゃギャンブル。と思ったけど、先生の指示で、くじの紙を開く。


『A』と書いてある。


「同じアルファベットの書いてある紙の人が、同じグループです。今から2分以内でグループに分かれてください」


 教室のあちこちで、アルファベットを言い合う声がする。

 私が引いた『A』のメンバーは、私を含めて女子ばかり4人だ。吉井さんと田中さん、三浦さんの3人で、クラスの中では、よく話をする子達なので、ホッとする。

 横目で見ると、琉生は、佐藤くんを含め男ばかり4人のグループだ。想太は、女子2人男子2人のグループだ。同じグループになった女子たちが、めちゃくちゃ盛り上がっている。そりゃそうだろう。

 

「はい。では、各グループ、リーダーを決めてください。リーダーは、メンバーを記入する用紙を前に取りに来て」

 あちこちでジャンケンがはじまる。

 うちのグループは、吉井さんがジャンケンに勝って、リーダーを引き受けてくれた。

 負けた人が引き受けるのは、罰ゲームみたいでなんかいやだよね。それより、よし。勝ったからやるぞ、っていう方が気分いいよね、ということで、勝った人がやることにしたのだ。

 琉生たちは、佐藤くんが紙を取りに行っていたので、彼がリーダーなのだろう。


 全グループがメンバーを記入した紙を提出し終えると、先生は、

「続いて、バス座席のくじ引きです。往路と復路で席を変えます。これも、引いたくじは交換できませんよ。引き終えた人から、くじに名前を書き込んだら、それを私に提出してください」

 

 教室の各所に、熱い空気が流れる。

 みんなそれぞれに隣になりたい人がいるのだろう。そうだよな。

 

 ここでも、一瞬祈りそうになって、私はぐっとガマンする。

 私の願いはもう叶っている。だから……。


 回ってきた袋には、往路と書いてある。

 今度は数字で、『1』という文字が書かれている。私は、名前を書き込んで、先生に提出する。

 再び、今度は復路と書いた袋が回ってきた。

 なんと、くじを開くと、今度は『2』の文字が。

 覚えやすくて良いけど。

 それにたぶん、『1』とか『2』ってことは、前方で先生の席のそば、って感じがする。それなら誰が隣りに来ても、あまり無理してテンションあげなくても、普通に座っててよさそうだ。


「往路も復路も、両方、全員提出しましたか?」

 は~い。

 みんなが答える。

 

「先生、座席の発表は?」

「のちほど帰りのホームルームで。記入した座席表を掲示しますね」

 ちょうどロングホームルーム終わりのチャイムが鳴る。

 倉内先生は、くじの袋を持って、職員室に帰って行った。


 どきどき。

 ああ。神様。どうか……と願いかけて、あかんあかんと気を引き締め直す。


 そう。欲ばってはいけない。

 

 


 


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもあり、同じ文芸部の部員でもある。

 ――今は。少なくとも、今は。

 

 

 

 帰りのホームルームで、先生が掲示したバス座席表は――私は、秘かに、膝をつねってしまった。

 こういうのを、“無欲の勝利”とでもいうのだろうか。

 

 往路:1 織田 空、2 藤澤 琉生。

 復路:1 藤澤 琉生 2 織田 空。


 あああ。神様。神様。

 感謝します。

 願いごとはしないと言いながら、心の奥底では願いまくっていた私の気持ちを察してくださったのか。

 本当に、ありがとうございます。


 琉生が、その座席にどんなリアクションをするのか。琉生と想太は早退していたので、わからなかったけど。

 でも、ごめん。

 もし琉生が、往きも帰りも私で、がっかりしたとしても、私にとっては最後の幸運なので、許してほしい。

 そう思うことにした。


 2学期の、残りの日々、大切に過ごす。

 悲しんだり、怒ったりせずに。もちろん、泣いたりせずに。

 できるだけ笑って。

 

 彼と過ごす、1年と3ヶ月の締めくくり。

 この先、もう二度と会えなくなるとしても。

 もし、いつか遠い未来に、彼が私を思い出すことがあったとして。

 そのとき、素敵な印象で彼の記憶の中に残っていたい。


 そのために、自分に出来ることはなんだろう。

 私は、毎日、考えている。


 自分でなんとかできることは、簡単に神様に祈ったりしない。(というか、そもそも、もう祈らない約束だ)

 もちろん誰かをあてにしたりしない。

 努力でなんとかなることは、自分で努力するのだ。

 

 そうしたら、精一杯の、この『恋』に、私なりの決着をつけられる――そんな気がする。


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