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あのね。  作者: 原田楓香
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㊼祈る。


 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもあり、同じ文芸部の部員でもある。

 

 


「乗ってないって」

 その日の夜、佐藤くんから電話が入った。

「事故に遭った便に、琉生たちは乗ってなかったって」

「え? ほんと?」

 全身の力が抜ける。

 はあ~……心底ホッとして、凍りついていた全身の血が一気に体中を巡り出す。体温が戻った気がする。

「うん。琉生たちが乗ったのは、事故に遭った便の一つ前だったらしい。それで、ロスで順調に乗り継ぎ便に乗れたから、明日、日本に着くって」

 佐藤くんもホッとした明るい声で話す。

 想太を送っていったときは、まだ事務所も正確な情報を得ておらず、混乱している様子だったらしい。

 そのあと、ずっと事務所に詰めて情報を待っていた想太から、佐藤くんに連絡があったらしい。


「想太がさ、泣きながら笑ってた。琉生のヤツ、心配かけやがってって。でも、ほんまにほんまによかった……って」

 わかる。

 ほんとに。

 私も、ホッとして嬉しくて、一気に涙があふれてくる。

 力が抜けて、言葉が出ない。

 ただただ涙があふれる。

(よかった……よかった……)

 

「……大丈夫? 織田さん。でも、ほんとよかった。ホッとした」

 労るような佐藤くんの声がしみる。

「……よかった……ホッとした……」

 泣きながら、やっとそれだけ口にする。

 お互いに、よかった、ホッとした、その言葉しか出てこない。

「教室出るとき、織田さんが無茶苦茶不安そうな顔してたから。ちゃんとした情報が入ったら、真っ先に知らせようって思ってた」

「ありがとう。ほんとにありがとう……」

「じゃあ。オレ、他の奴らにも電話するから。また明日」

 電話は、明るい声で切れた。



 神様。

 全国、世界各地の、図書館の神様。

 ありがとうございます。

 本当にありがとうございます。


 彼を守ってくれて。


 何度もお礼を言う。

 何度だって言いたい。

 そして、祈る。


 あとは、明日無事に彼が日本に着くまで、どうかよろしくお願いします。




 藤澤 琉生。

 

 彼は、私の推しだ。

 そして、クラスメートでもあり、同じ文芸部の部員でもある。


 彼は、今、日本に向かう飛行機の中だ。

 彼は、今のところ、無事だ。

 まだ日本に到着するまで、気を抜けない。

 だから、私は祈る。

 祈りながらも、心に安堵が広がる。


 

「あのね。」

 そう呼びかけると。

 目元を少し和ませ、くちびるの両端をそっと上げてほほ笑み、

「ん?」

 そう言って、私の目をのぞきこむ、きれいに透きとおった瞳。


 その瞳の持ち主はこの世にいる。ちゃんと、いる。

 同じ地球上に。(あ。今は空中か?)

 

 

 翌朝、彼の乗っていなかった事故機も、不時着した場所で乗員乗客全員が無事発見救出されたという情報が入ってきた。奇跡的。という文字がニュースの見出しに躍る。

 

 奇跡でもなんでも。

 よかった。

 みんなが無事で。


 琉生の無事も嬉しいけど、知らない誰かの無事も、すごくすごく嬉しくて。

 

 この世のみんなが無事で暮らせたらいい。

 誰かを傷つけたり傷つけられたりすることなく。

 心からそう思う。願う。

 それが困難なことであっても、祈らずにいられない。


 私は、なんだか自分が九死に一生を得て帰還した人のような気分になっていた。


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