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大穴と惨状


 まだ足音は聞こえそこまで来ている。次に現れた者もやはり弓を構えており、矢が放たれれば同じように弾く。

 襲撃者が驚き逃げようとしたのか背中を向けた。

 今の矢もテューダーを狙っていた。

 そんなやつを逃がすわけがない。死んでしまえばいい。

 短剣を思い切り投げればその背中に当たり、吹っ飛んでいった。勢いは止まらず壁を破り、そのまま落ちていく。


 …………。


 壁に開いた大穴に、弁償という言葉が頭をよぎる。

 不可抗力だ。まさか短剣を投げて穴が開くなどとは思わなかった。

 落ち込む間もなく新たな足音が近づいてくる。今度はかなりうるさい足音だった。

 複数人分の足音だ。短剣を投げなければよかったと思ったがもう遅い。

 何かないかと見渡せば椅子があった。重厚な装飾があり、色合いから何まで立派で重そうな椅子だ。

 なりふり構ってはいられない。襲撃者がすべて悪いのだ。


 入り口の横で椅子を振りあげて待機する。来たら振り下ろす算段だ。

 横を見ればテューダーの前にナイフを構えたセリアがいる。矢からかばうようにして立っていた。

 足音はそこまで来ている。

 白刃が見え椅子を振り下ろせば剣が折れた。

 同時に椅子の足と床が破砕される。


「なッ!?」


 再び椅子を振りかぶる。両手を突き出し椅子を防ごうとする姿もよく見えていた。

 構わず振り抜く。腕を弾き鎧に当たれば木屑が舞い散った。その者は勢いのまま壁に叩きつけられ動かなくなる。


(来るなら来い)

(次は頭から振り下ろしてやる)


 テューダーには指一本触れさせない。身構えていると二つの声が聞こえた。


「待て!」

「待ちなさいフェイ」


 振り向けばテューダーが首を振っていた。


「その者たちは違うよ。屋敷を警護する騎士の者たちだ」


 壁に叩きつけられた者と、入り口付近にいる者を見れば確かに鎧を着ていた。


「はい。この屋敷の警護をしておりますアリックと申します。こちらの不手際によりテューダー様を危険にさらしてしまったこと、お詫び申し上げます」

「いや、こうして無事なのだ。謝罪は不要だよ」


 ということは本当に騎士だということだろう。

 倒れた騎士、折れた剣、壊れた椅子と穴の開いた床、それと先ほどの大穴が目に入る。

 フェイの手にはまだ椅子が握られていた。誰がやったかは一目瞭然いちもくりょうぜんだろう。


 やってしまった。平民たるフェイが騎士を殴り飛ばしてしまったのだ。不敬どころではない。

 後悔しても遅く、罪に問われることだろう。処刑されるとしても痛くない方法がいいと、フェイはぼんやり考えていた。

 そんなフェイの考えをよそに、騎士の一人が倒れた者を介抱しはじめていた。


「ご、ごめんなさい……」

「いや、緊急時とはいえ抜剣したまま部屋に入ったのだ。襲撃者と間違えられても仕方あるまい。

 当然、間違えられることを考慮して対処すべきだったのだ」

「わたしの罰は、どうなりますか……?」

「なぜだ?」

「えっと、倒れてる人を椅子で叩いたのはわたしです……」

「だろうな、なんともいさましいことだ」

「それにこの椅子、高いですよね……」


 今は床に置かれている半壊した椅子を見る。


「……生憎あいにく、物の価値にうといのでわからないな」

「それに、壁にいた穴なのですけど……」


 目を向けた壁には大穴があいており、外の景色が見えていた。


「……あれは、何があったのだ?」

「襲ってきた人が逃げようとして、短剣を投げたんですけど……その……それで穴が開いて、しまったんです……」

「なに? いや、もしかして噂の短剣か?」

「噂のかどうかはわからないですけど、短剣です……」

「ふむ。状況を確認してきてくれないか。それとこの穴の向こうも確認してきてくれ」


 アリックの指示を受けた者たちが駆けていった。


「壁の穴については私とセリアが見ていたから間違いないよ。まさかあんな大穴が開くとはね」


 テューダーが楽しそうに話す。フェイもあんな大穴が開くとは思っていなかったのだ。


「であれば、先ほどの話のとおりなのだろう。それで罰がどうだという話だったな」

「はい」


「おそらくは無いだろう。騎士への攻撃はテューダー様を守ろうとしたものであり、正当防衛が認められる。

 物損については、賠償が必要となれば襲撃を指示した者が払うことになるだろう。現に襲撃犯を複数捕らえ背後関係を洗っているところだ」


 どうやらおとがめはなさそうであった。


「これもフェイには言っていなかったけど、周囲の領主から恨まれるのは目に見えてたからね。さらに言えば領主らの人柄を陛下は良くは思っていなかったのだ。

 私をおとりに領主たちを激発させ捕らえるのが陛下のご意向なのだよ。

 それともうひとつ、陛下は今回の通商路改革による不利益で自制できない、そんな者たちは不要だとのお考えだったようだ。

 今後の懸念けねんとなることがなくなるように尽力されたのだよ。激発した者たちは大金に目が眩んだんだろうけどね」


 最後にそう悪戯っぽく笑う。

 テューダーが言うと説得力があった。お金に目が眩むところをフェイはまったく想像できなかったからだ。

 それからは部屋を移動し、セリアが淹れなおしてくれたお茶を飲んでいた。

 相変わらずカチカチと鳴っているが気にしてはいけない。気にしてはいけないのだ。


「捕らえた者の背後関係の洗い出しが終わり次第、今後の領地について話し合いがあるよ。だからもうしばらくは滞在することになるね」


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