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襲撃者


 屋敷に戻りフェイは一息つく。最大の腹痛の原因たる謁見も終わり、あとは帰るだけだと安心していた。


「陛下がしばらくゆっくりしていきなさいとおっしゃっていたと、言伝ことづてを聞いたよ」

「…………」


 フェイは数秒ほど放心した。この腹痛と頭痛、吐き気と緊張感はまだ続くようだ。

 しかし、そんな様子をテューダーは楽しそうに見ていた。

 顔色が悪くなりフェイはセリアに連れられていく。



 謁見が終わってからは二日ほどたっていた。

 フェイも少しはなれたのか、高級そうなティーカップで紅茶を飲めるようになっていた。

 手が震え、受け皿とカップがカチャカチャ鳴っているのを気にしてはいけない。

 普段なら今はもう寝ている時間だったが、陛下に頂いた鞘をテューダーに見せていた。


「それにしても、見事な装飾で何度見ても綺麗だね。私もいつか、この三等聖銀色のバッジが欲しいものだ」

「テューダー様。その、三等聖銀色とはなんですか?」

「ああ、フェイは知らないのだね。さて、どこから話そうか」


 何をどう話そうか迷いながらも、テューダーはうれしそうだ。


「この聖銀色は厳密には九色あってね。ひとつは神様の色で教会や神殿でしか使われていないから八色になる。上から順に一等から八等まであり、一等は陛下の色だ。二等は王族と王族に連なる方々の色だね。

 そして三等から下りていくにつれて、侯爵、伯爵と順に下がっていき、色は一等になるほど薄く澄んだ青色になる。簡単に言えば薄い色のほうがより位が高く、神様に近しい色になり名誉なことなのだよ」


 途中からわからなくなり首を傾げる。それを見たテューダーがより簡潔に教えてくれた。


「フェイの頂いた色は、王族たち以外では一番いい色だよ。爵位もないのに三等聖銀色を頂くのは前例がないね。嫉妬しっと羨望せんぼうの目で見られちゃうかもしれないね」


 瞬間、その青い鞘が不幸を呼ぶ何かに見えた。嫌がるフェイを見るテューダーが楽しそうだ。

 陛下はなぜこんなものを、そう思わずにはいられなかった。

 それとここでの滞在日数が伸びたとも教えられた。

 ここまで来ると腹痛やら何やらなれたもので、今は元気に動きまわっている。訳もなく、つらい日々が続いていた。



「セリアさん、楽しいですか?」

「はい、楽しいですよ」


 翌日。フェイは着せ替え人形となっていた。

 高そうな服を次へ次へと着せかえ、これまた高そうな装飾品をつけられるフェイ。可愛いと持てはされ、されるがままとなっていた。


 今日もテューダーと夜のお茶を鳴らして楽しんでいる。テューダーは日中出かけており、帰ってから一緒にお茶をすることが定番になりつつあった。

 相変わらずテューダーは青い鞘を見ることが好きで、今日も持ってきている。

 フェイは忘れていたかったが、短剣をてきとうに置いたら机がへこんだことを思い出した。


 隠しようもなくセリアへと泣きつき謝ったが、なぜかすごく笑われてしまう。

 釈然しゃくぜんとしないものがあるが、そうして笑われながらも大丈夫だと言われて安心した経緯があった。

 なので今はテーブルに敷かれたクッションの上に短剣が置かれている。


 何か物音が聞こえたのは、セリアが淹れてくれたお茶を飲んでいる、そんなときだった。

 この屋敷にはたくさんの人がいる。だが普段はこんなにうるさくないはずだ。

 何者かが走り、倒れ、それにかん高い音まで聞こえはじめた。


「テューダー様、何か騒がしくないですか?」

「うん? 私には何も聞こえないが……いや、そうか。フェイ、ここから動いてはいけないよ。セリアは知っているね?」

「存じております」

「テューダー様は何かご存知なのですね?」

「ああ、陛下の依頼で今回の襲撃のおとりを引き受けたからね」


(え……?)


 フェイは何も聞いていなかった。しかし、そういうことならばこの騒ぎは襲撃されていることとなる。


「なぜ、襲撃されるのですか?」

「グリッヒダートの森が通れるようになると、山を迂回してほかの領地を通る必要がなくなるからね。周囲の領主から恨まれるだろうと、陛下は憂慮ゆうりょしておられた」


 フェイはますますわからなかった。だが理由はどうあれ、危険が迫っていることに変わりはない。

 こんなに音がするのに聞こえないものだろうか。今も近くの廊下を走る音、それに何か硬いものが当たる音も聞こえるというのに――


 扉があけ放たれた。そこには弓を構えた者がおり矢が放たれる。

 フェイには不思議と矢がはっきりと見えていた。明らかにテューダーを狙ったものだ。テーブルの上にある短剣を鞘から引き抜くと同時に振り、やじり部分に当て弾き飛ばす。

 矢を放った者が驚愕する。だがすぐに弓を捨て剣を抜き放つ。瞬時に間合いを詰め剣を振り下ろしてきた。やはり動きはよく見え、合わせるように短剣を振りあげた。


 交差する。


 振り下ろされた剣が中ほどから真っ二つとなった。破片が天井に突き刺さる。

 相手の足を蹴れば骨が折れ体制が崩れる。

 腹を蹴れば壁に叩きつけられ動かなくなった。


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