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謁見と褒賞


 意識が戻った今、フェイは不調ながらも国王との謁見に向けて準備をしていた。


「セリアさん……どうしても着ないとダメですか?」


 フェイは準備を手伝ってくれている女性メイド、セリアへと声をかけた。

 セリアはフェイの身のまわりの世話を任されたメイドだ。

当初こそフェイに対しても敬語を使っていたが、あまりにもいたたまれないのでフェイはやめるようお願いしていた。そのかいあって今は普通に話している。


「はい。陛下の御前に参じるには必要最低限の格があり、今着ている服では失礼に当たってしまいます。

 陛下は温厚なお方ですので、フェイが着ている服でもお許しくださるでしょう。

 しかし周りにいる方々が許されるとは限りませんので、やはり良くはありません」


「うぅ、やっぱり着ないとダメなんですね……」

「それに陛下がお呼びした者の服がみすぼらしいと、不敬ですが、周りの者が陛下のことを悪く言われるのはフェイも嫌でしょう?」


 それはすごく嫌だ。陛下がテューダー領の財政を支えていた、そう聞いていたからだ。

 テューダーはそれはもう誇らしく、そしてうれしそうにしていた。陛下を慕っていることがよくわかる。


 それからは綺麗な服を着せてもらい、髪も編んでもらった。香油をつけてもらったおかげで髪にはつやがあり、いい香りがしている。

 扉の向こうからテューダーの声がした。


「フェイ、入ってもいいかい?」

「はい」

「おや、見違えたね。とてもよく似合っているよ」


 その一言だけでフェイはこの服も悪くないと思った。

テューダーもいつもとは違い、黒を基調とした服を着ている。その胸にはバッジがつけられ貫禄があった。


「それと確認なのだが、謁見についてフェイへの指示はないのだね?」

「ございません」

「わかった。しかし陛下もたわむれが好きすぎる。いや、それほどまでに喜んでおられるということなのだろう。なのでフェイ、大変だと思うが頑張りなさい」

「はい、頑張ります?」


 フェイは基本的な受け応えを教えてもらう。そうして時は過ぎていった。



 フェイたちは謁見の間に続く通路にいた。

 豪華な扉が放つ威圧感はすさまじく、暴風を感じさせるほどだ。そのため、フェイの足はまったく進まなかった。

 横に立つ騎士が扉をひらく。その先には人の列があった。見るからに高そうな身なりをしている者たちだ。


 テューダーが進むが、フェイの足取りは重い。

 壁の装飾、吊り下がる硝子灯、玉座が目に入った。そして玉座の後ろにある垂れ幕は、薄い青色で輝いている。

 そのすべてがどれほどの価値があるのか、フェイには想像できなかった。


 絨毯じゅうたんも柔らかく、歩くときに不安になるほど。どうしてテューダーが平気なのかフェイにはわからない。テューダーが立ち止まり礼の姿勢をとると、フェイもあわててそれにつづいた。

 そのとき、


「平民は礼の仕方すらわからないと見える」

「そもそも爵位も無しに立礼では無礼ではないのか」

「服だけは着飾っておる姿はまことに滑稽こっけい

「身の程をわきまえたらどうなのだ」


 そんな声がそこかしこでささやかれた。


(ナンデ!?)

(言われたとおりにしたのに!?)


 だがすぐに国王陛下の入場が宣言され静かになる。

 しばらくは衣擦れの音だけが聞こえた。


おもてを上げよ」


 玉座に座る人物は、どこか柔和そうな顔をしていた。


「皆に集まってもらったのはほかでもない。古来よりの森に居座っていた者が倒された。まこと慶事けいじである。

 グリッヒダートの森は北との通行の要衝であるがゆえ、以前より討伐をこころみてきたが結果は知ってのとおりだ。

 多くの騎士と兵が討たれ、我らは辛酸しんさんを舐めさせられてきた。だが、悲願は達成されたのだ。アルダス」


「はっ。此度こたびの討伐において重要である情報をもたらした、グラディス・テューダー子爵。そなたの働きは陛下も大いに喜んでおられる。

 の地で耐え続け、よくぞ民を導いてくれた。本討伐と領地改革の功績をもって伯爵へと昇爵しょうしゃくし、不屈フォルティの称号を与える。前へ」


「御前、失礼いたします」


 テューダーが前へ進むと膝をつき、胸の青いバッジをアルダスへと差し出す。

 アルダスは受け取るとバッジを交換し、テューダーへと手渡した。


「四等聖銀色のバッジの名誉に恥じぬよう心得よ。これからはフォルティ・グラディス・テューダー伯爵を名乗るがいい」

つつしんで、拝命いたします」


 立ちあがり戻ってきたテューダーは誇らしそうだ。

 胸にある青いバッジは少し色が薄く、より澄んだ色をしていた。


「アルダス、ご苦労であった」

「はっ。勿体無きお言葉でございます」

「ときにフェイよ」

「ひゃい!?」

「ッ!? 無礼な――」

「よいのだアルダス。フェイよ、直答を許す」


 アルダスがすさまじい形相でフェイをにらんでいた。

 呼ばれるとは思っておらず、声が裏返ってしまったフェイを腹痛と吐き気が襲う。


「そう緊張せずともよい。其方そなたを呼んだのも余の意向であるのだからな。

 此度こたびの討伐において最大の功労者たる其方そなただ。二度も騎士団に動向した者がどのような姿をしているか、興味が沸くのも仕方あるまい。

 同行した理由を置いておくとしても、誰も止めはしなかったのか?」


「それは……一度目は勝手について行きました……。二回目は、テューダー様が許可してくださいました。けれど両方とも帰ってからすごく怒られました……」


「はっはっは。そうか、怒られたか。して、騎士団からの報告にも相当無茶をしたとある。化け物と相対し、矢の雨に飛び込むのは怖くはなかったのか?」


「最初は怖かったと思います。でも、途中から怖くなくなってしまったと思います。矢の雨は何も考えていなかった気がします……」


「くくく、そうか。精鋭たる騎士の中には不能になる者もおるというのに、なんといさましいことか。

 さて、フェイよ。愉快な話はここまでとしようか。余は其方そなたの働きを評価しておる。アルダス」


「本当によろしいので?」

「よい、余はそれほどのことを成したと思うておる」

「承知いたしました」


 アルダスが横にある台へと近づき、掛けられた布を取りはらった。台の上には薄い青色の鞘、それに収まった短剣が立てかけられていた。


「これはフェイが化け物の討伐を成した短剣である。その功績を称え、三等聖銀色の鞘を褒美として与える」


「三等聖銀色だと?」

「そんな馬鹿な、ありえない」

「過ぎた褒章ではないのか」


 周りからはそんなどよめきが聞こえた。


「名誉なことであるので誇りに思うがよい。前へ」


 フェイは重い足を引きずるようにしてようやくたどり着く。するとアルダスが小声で話しかけてきた。


「私はこのような重いもので倒せたとは思わないのだが……持てないのであればほかの者に運ばせることになっている。持てそうにないなら言え」


 フェイには何を言っているのかわからなかった。

 アルダスは短剣が重いと言っている。しかし、そんなはずはない。

 持ちあげればいつもどおりで、短剣としての重みはあるがそれだけだった。

 疑問に思いアルダスを見ればその顔は驚愕に満ちていた。


 それにしても鞘の色は綺麗だとフェイは思う。先ほどのテューダーのバッジよりも色が薄いだろうか。薄い青色をしており、流れるような装飾がある。

 見惚みとれていると陛下から声が掛かった。


「気に入ったようだな」

「はい、とてもきれいです。大事にいたします」


 国王が退室したことによって謁見は終了となった。


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