内門の中は
先ほどの門で見た兵よりも身なりが整っており、青い鞘の剣を腰に吊っていた。
兵は立ち止まるとよどみ無く用件を述べる。
「私は内門の警護を勤めている者です。名をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わないよ。私はテューダーという者だ」
「テューダー様ですね。伺っております。案内の者が待機していますので、幾ばくかお待ちいただけないでしょうか」
テューダーが了承すれば兵は門の横にある扉、詰め所へ駆けて行った。扉に入ってからそれほど掛からず再び扉が開く。
先ほどの兵ともう一人いる、騎士だ。腰には同じく青い鞘の剣を吊っているが、こちらは兵のものより少し色が薄かった。焦った様子で駆けてくる。
「お待ちしておりました、テューダー様。私は案内を任された騎士のウォルトと申します。気づくのが遅れ、まこと申し訳が無い」
騎士は見事な謝罪をした。なお申し訳なさそうに次の言葉を発する。
「それと不躾なうえ大変恐縮なのですが、馬車はどうされたのでしょうか」
「馬車はないよ。辻馬車では流石に入れないから帰らせた。招待されている邸宅の位置は手紙で大体わかっているから歩いていくつもりだが」
「ッ……!? 配慮が足りず申し訳ありません。すぐに手配いたします! それまでのあいだ、あまり綺麗なところではありませんが、あちらの詰め所でお待ちいただけないでしょうか」
「構わないよ」
「ありがとうございます! 用意された邸宅の位置は知っているか」
ウォルトが兵に確認する。
「申し訳ありません、存じあげないことです」
「そうか、では私が手配してこよう。それまでテューダー様のもてなしを頼みたい」
「はっ、お任せください」
「テューダー様。案内を任された私が離れる非礼をお許しください。可能な限り早く手配して参ります」
テューダーが了承すればウォルトは門へと走る。その姿が門の向こうへと消え、馬が駆けていく音が聞こえた。
フェイたちは残った兵に詰め所へと案内され、用意された椅子に座った。
出された紅茶に口をつけると、口に合わないかもしれないと恐縮していた。だが紅茶は美味しく、それどころかお菓子まで出してくれた。
サクサクとした焼き菓子で、フェイは美味しそうに味わって食べていた。
さほど時間もたたず馬車が到着したと知らされる。
「遅くなってしまい申し訳ありません」
ウォルトが手配した馬車の前で謝罪した。
「むしろ早いくらいだよ。また、斯様に見事な細工のほどこされた馬車を手配していただき感謝に絶えない。しかしこの紋章のある馬車に私などが乗ってよいものか」
「はい、問題ありません。ご許可は頂いております」
「ならば恐れ多いからと固辞するのも失礼に当たる。此度の名誉は永劫忘れはしないだろう。ウォルト、私は陛下と貴殿に深く感謝する」
「そう言っていただけると報われる思いです。では、どうぞこちらに」
ウォルトが馬車の扉を開き、フェイたちは中へと入る。
馬車の内装は外装に勝るとも劣らず、細かい彫刻や金属細工があった。
金属細工は淡い透き通るような青でとても綺麗な色だ。
見たこともない豪華なつくりに、フェイの体は緊張で強張り切っている。汗で服が張りつき先ほどから無言だった。
どれかひとつ、傷つけたり壊したらと思えばフェイは気が気でない。お仕着せをつかむ手に力が入る。
ここにいては、いけないのではないだろうか。場違いなところにいるとフェイは思っていた。
窓の外に佇む屋敷、その塀ひとつですらつくりの良さが伺える。
しかしテューダーは、そんな姿のフェイを見て笑っていた。
「いい土産話ができたね。今のフェイの様子を教えてあげたら喜ぶだろう。それにこの馬車に乗るということは、とても名誉なことなのだよ」
フェイはわからず首を傾げる。けれど一つだけわかったことがあった。それはお腹が痛くなるということだ。
クッションは体が沈むほどに柔らかく、馬車も豪奢という一言に尽きる。そして驚くほど揺れないのだ。だというのに、酔ってきたのか気分が悪くなってきた。
テューダーと一緒にお出かけができる、という軽い気持ちもあったが今は見る影もない。
まだなのか。威圧感すら放つ馬車にフェイの限界は近く、心は捕まったネズミのごとく暴れている。
ようやく、目的地にたどり着いたのか馬車が止まった。
「到着しました。失礼いたします」
ウォルトの声が聞こえ扉があけられた。テューダーにうながされフェイも馬車を降りる。
しかし、足掛けに立つ足は震え今にも踏み外しそうだった。その様子にウォルトがいぶかしむ。
「失礼、フェイ様でよろしいでしょうか。お顔が優れないご様子。怪我をなさったと聞いております。
いまだ回復しきっていないところを無理させてしまい申し訳ありません。すぐ屋敷に入り休養いたしましょう」
どうぞ、とウォルトが手を差し出しフェイを補助した。フェイが震える声でお礼を言い顔を上げる。
街が目に入った。おかしいと思いつつも、大きすぎるそれを前に硬直する。
ゆっくりと左を見れば、先が細くなるほどに建物が続いている。
どうにか右に振り向けば同じように建物の壁が続いていた。
フェイの意識は暗転する。




