少女は王都へ
夜に目を覚ませば自分の部屋だった。
フェイは大いに怒られた。そして絶対安静を言い渡される。
糊のような麦粥再び。早くも白パンとスープが恋しくなった。
話を聞くと今回も怪我人の治療が大変だったらしい。それと血に塗れ気絶したフェイが運び込まれた際に、アラキナが凄まじく叫んだと言われた。
オーソンいわく『ありゃ動物を絞めるときの声だ』とのこと。
テューダーからはグリッヒダートの森についても知らされた。
騎士団が捜索したところ、森に化け物の姿は確認できなかったそうだ。
肩も怪我してしまったので裁縫もできず、フェイは暇を持てあます。
暇な日々を過ごすフェイに、テューダーが尋ねてきた。
陛下からのお言葉があるらしく、召集命令があったとテューダーが教えてくれた。
自分が迷惑をかけたのではないかと危惧する。
「逆だよ、むしろ褒めてくださる。実はフェイにも来るように伝えられているから、怪我が治ったら一緒に行こうか。
ああ、それともう一つ。陛下がフェイの短剣を見てみたいと仰っていたとのことなので、しばらくのあいだ借りてもいいかい?」
「構いません」
*
怪我が治った。周りの人に言ったが信じてもらえなかった。
フェイ自身十日もせずに治るとは思っていなかったのだ。だが腕は動くし歩くこともでき、傷も綺麗に消えている。
久々に体を動かせばとても軽かっが療養生活は続いた。
暇なのでこっそり裁縫道具と、材料一式を持ち出し縫っていると取りあげられた。ひどい。フェイはそう思った。
しかたなく窓から見え近くにある木、その葉を数えるがすぐに飽きてしまう。
ベッドの上で足をバタつかせるが意味はない。暇だ、なんて暇なのだ。そう思う日々が続いた。
そうして月日は流れ季節は冬。
空は灰色で鈍く、日の光が乏しくなっている。
テューダーがフェイの部屋へと来たのは、そんな日だった。
「フェイ、陛下へお伝えした日時まで残りわずかになってしまった。まだ怪我がつらいかもしれないが、王都へ向かいたいと思う。
もし無理ならば怪我の状態をご報告し、フェイの面会を免除していただくか、期日を延ばしていただけないか、お伺いを立てることになる」
「行きます」
「大丈夫なのかい?」
「大丈夫です」
「そうか、だがあまり無理はしないように。明後日にここを出立するよ」
フェイはこの暇な生活から開放されることを喜んでいた。初めての王都、話に聞くだけだったのでとても楽しみにしていた。
*
出立の日。
久しぶりにお風呂に入ったフェイはご機嫌だった。
寒い中、お湯を布に染み込ませ体を拭くのはつらかったからだ。
玄関へ向かう。テューダーが手配した馬車に乗り王都へと出発した。
王都はテューダー領に隣接しており距離も近い。二日も走れば王都へと着いてしまった。
王都には周りを囲む大城壁があり、門が八つある。
その内のひとつに馬車は向かうが、門の前には長い行列があった。
「すごい大きな城壁ですね! それに門、でしょうか? 長い行列があります」
「そういえばフェイは来るのが初めてだったかな?」
「はい、すごく楽しみにしてました」
「そうか、なら中に入ったらもっと驚くかもしれないね」
「そうなのですか? とても楽しみです。でも、人の列が長いので中に入るのには時間がかかりそうです……」
「それは大丈夫。貴族用の門から入るから待ち時間はないよ。これでも一応貴族だからね」
その貴族用の門に向かえば兵がいた。簡単なやり取りのあとに門を通される。
城壁の中に入ると建物が目に入った。石造りを基本としたものが数多くあり、建物からは棒が張り出している。その棒からは布が垂れ下がり、道の奥まで続いていた。
その先にはまた壁があり、城の一部が見えている。
「すごい、こんなにたくさんの建物見たことがないです! それに一番奥にあるのはお城ですか!?」
「そうだよ、これから私たちが行くところだ。城には国王陛下が住んでおられる」
褒められると聞いていても、偉い人と会うことにフェイは今から緊張していた。
馬車がゆっくりと走りはじめる。
今いる道は王都に八本ある大通りのひとつで、それぞれの門から王都の中心まで続いていた。
道行く周りにある店はとても綺麗で、フェイは夢中で見ている。テューダー領の街とはまるで違い、その風景に心を躍らせた。
右を向けば大きな硝子でできた窓があり、見るからに高そうな店だった。
次に左を見れば、大通りを見下ろせる二階建てのカフェがある。
そして行きかう人と人。溢れんばかりの波のようで、その喧騒に圧倒されるばかりだ。
周りを見ていればいつの間にか、奥の門に着いていた。
「では降りようか」
「ここで降りるのですか?」
先に飛び降りたテューダーが、フェイを持ちあげ降ろした。
「ここから先は貴族街だからね。流石にこの馬車では入れないよ。面倒だから私はこのまま行きたいのだが」
「わ、わたしなんかが入って大丈夫なのでしょうか……?」
「フェイは陛下から呼び出されているからね。中へ入る正当な理由がある。問題ないよ」
罰せられないかと心配になるが、大丈夫だと聞きフェイは安心する。
門の前で待機していた者が気づき、こちらに歩いてくるところだった。




