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フェイの恩返し


 領地へ戻る前日となる。

 襲ってきた者たちの領地は没収されたと教えられた。半分ずつをテューダーが、残りは周りの領主が管理することとなったらしい。そう、うれしそうに夕食の席で話してくれた。

 フェイは服を汚したらと思うと気が気ではなかったが。


 風呂を済まし、肌触りの良すぎる寝巻きを着せられベッドに入った。

 落ち着かないが明日になればこの緊張ともお別れだ。短剣はいつの間にか戻ってきており、今は青い鞘に収められクッションの上に置かれている。

 ここに来てからはあっという間で少し寂しいのかもしれない。それとは別に、こんな生活をずっとは耐えられないとも思った。

 それに気になることがあって眠れなかった。おそらくだが、あの化け物を倒してからというものの、体が変になってきてしまったことだ。


 今思えばものがゆっくり見えたり、重そうな椅子も持ちあげていた。よく聞こえることもそうだ。

 初めは少し耳が良くなったと思う程度だったが、最近では遠い音や小さな音、それらは意識すれば聞こえてしまう。

 今も外で誰かがくしゃみをした。それに片付けや歩いたりする物音も聞こえてしまうのだ。

気にはなるが、意識しないようにまぶたを閉じる。



 翌日。

 屋敷の玄関前にはここへ来るときに乗った馬車があった。

 目の前にあるということは、それに乗るということなのだろう。もはやあきらめるしかない。

 一方、服はいつものお仕着せでそれだけでもだいぶ気楽ではあった。テューダーと共に馬車へと乗り込む。



 フェイは馬車の中から流れる景色を眺めていた。。

 屋敷での日々は住む世界が違いすぎ、ある意味夢のようでもあった。


「フェイ、手に持っている短剣を落とさないようにね。落とすと馬車に穴が開くと思うから」

「……はい」


 やはりこの短剣は重いらしい。持っている限りではそう思わないのだが、置くだけで机がへこみ投げれば壁に穴が開く代物なのだ。

 この馬車に穴が開いたらと思うと恐怖しかない。短剣を握る手に力がこもる。


 すでに王都を出発してからはかなりの時間がたっていた。テューダーと向かい合って座る馬車の中は静かで、道に揺れる音だけが聞こえる。

 フェイには気になっていたことがあった。大事なことだ。思い切って、テューダーへと尋ねる。


「あの、テューダー様」

「なんだい?」

「わたし……は、テューダー様のお役に立てたでしょうか……? 恩返し、できたでしょうか……?」

「ああ、そのことか」


 もう十二分に返してもらったよ。


 そう、笑顔で答えてくれた。


(そっか……恩返し、できてたんだ……)


 心が、満たされていく。


 自分を救ってくれた人に、恩返しできたことがただただ嬉しく、涙が伝う。


 良かった――



 馬車が止まり目を覚ます。緊張の糸が途切れたからか、フェイは眠ってしまっていた。

 それでも、抱くようにして持っていた短剣は離さないでいた。


「着いたよ、フェイ」


 馬車の窓から見えるのは見知った屋敷の玄関だった。

 帰って来たのだと、そのことを思うと心が落ち着くのがわかった。

 アラキナとグリッティは心配しているだろうか。

 まさか陛下に呼ばれるとは思っておらず、また襲撃されるとも予想していなかった。


 王都に行く前に想像していたよりも、だいぶ日にちがたっていた。

 フェイは短剣を持ったまま馬車を降りる。外は寒く冷気が肌に突き刺さるようだ。

 玄関の前には戻って来たことがわかっていたのか、屋敷の人たちが並んでいた。右側辺りにアラキナとグリッティがいる。

 二人を見つけたフェイが走っていく。

 かがんで待ってくれている二人に、勢いよくぶつかり抱きついた。


「がっ!?」


「うぐ!?」


 暖かい……体温が伝わってくるのがよくわかった。その熱に安らぎ、ぎゅっと抱きしめた。


「ッ……!? フェ、フェイ!? く、苦しい……!」

「もう少し緩……めて、ください……」 


 あわてて力を緩めれば二人が咳き込んだ。フェイは少し離れて自分の、短剣を握っている手をまじまじと見つめる。

 そして短剣が重いことを思い出す。


(そっか、力が……)


 これでは抱きしめることもままならないと、気分が落ち込みうつむいた。だが、すぐにアラキナの声がする。


「フェイ、ずいぶん力が強くなったのね……」

「ご、ごめんなさい……なんか、あいつを倒してから体が変になっちゃって……」

「そうだったのね」


 フェイはうつむいたままだ。


「フェイ」


 呼びかけたのはグリッティだ。見上げればその顔は微笑んでいる。


「次はもう少し、優しくしてくださいね?」


 今度は力を抑えきゅっと抱きつけば、頭と背中をなでられた。


「おかえり」

「おかえりなさいませ」

「ただいま。アラキナ姉さん。グリッティさん」


これにて完結となります。

拙作ではありますが最後までお読みくださりありがとうございます。

物語の続編ですが、続きを作れるようにはなっていますが当分先になるか恐らくは書かない可能性が高いです。


また、長いですがあとがきを活動報告にあげていますので興味のある方はお越しください。

探しにくいかもしれませんのでURLを貼っておきます。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1311730/blogkey/2240268/

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