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フェイの決意


 翌日もいつものように飾り布を作っていた。


「フェイ、テューダー様が呼んでいるわ」


 アンナに呼ばれ作業を中断した。手早く片づけテューダーの元へと向かう。

 部屋には厳しい顔をしたテューダーがいた。


「フェイ」

「はい」

「騎士団の再遠征が決まった。三日後だ」

「え、え? それって……」

「私は、できれば行ってほしくはないのだが。これが最後の確認だ、どうする?」

「行きます」

「そうか、アラキナが悲しむだろうな。だが、これだけは約束してほしい。アゼル隊長の指示をよく聞き、決して無理だけはしないように。必要なものがあれば準備しておきなさい」

「はい」


 先ほどの部屋に戻り作業の続きをする。だが、頭の中はすでに遠征のことでいっぱいだった。

 期日は三日後、ついにこのときが来たのだと。

 自分が行かなくても、アゼルたちならきっと倒せるのだと思う。


 けれど、テューダーと屋敷の人たちと、領地に住む人たちのためにフェイは行きたかった。

 そして――何よりも自分のために、立ち向かうのだ。

 最後に糸を切れば飾り布は完成した。



 遠征当日。

 フェイは夜明けと共に目を覚ました。起きてからはベルトポーチに小石が入っているかを確認する。短剣は腰の後ろに挿せるようにしてあった。

 ベッドの上にはノアが置かれ、その下にはもしもの時のための手紙が隠してある。


 短剣を手に持ち引き抜けば、白いにフェイの顔が映る。

 刃を鞘に納めればキンというかん高い音が響く。短剣を腰に挿し部屋を後にした。


 階段を下り一階の玄関ホールを歩いていく。玄関口を抜けると、そこにはたくさんの人がいた。

 アラキナがいた。グリッティがいた。テューダーと屋敷の人たちもいる。

 いつもならまだ寝ている時間のはずなのに。


「フェイ、やっぱり行っちゃうのね」

「アラキナ姉さん……」

「ごめんなさい」


 アラキナがフェイを寂しそうに見ている。そして悲しげに目を伏せ、フェイを抱きしめた。


「絶対に、無事に帰ってきてね」


 アラキナが離れ、グリッティが同じようにフェイを抱きしめる。


「無理だけはしないようにしてくださいね」


 絶対にしないとは約束できないが、できる限りはそうしようとフェイは思った。

 オーソンが、無事に帰ってきたら美味しいものを作ってくれると言ってくれた。屋敷の人たちも気づかってくれた。


 フェイは決意する。


 テューダーに救われた。こんなにも優しくしてくれる人たちがいるのだ。

 すべてを失った自分に、手を差し伸べてくれたこの人たちに、恩返しがしたいとフェイ思った。

 恩すら返せない自分を嫌いにならないために。


「フェイ、どうか無事に帰って来るんだよ。もし帰ってこなかったら、私はとても悲しむよ。本当は大人しくしていてほしいが、それは嫌なんだろう。だからせめて、無事に帰ってくることだけは約束してほしい。」

「はい、テューダー様」


 フェイは腰に挿してある短剣を取りだし、少しだけ刃を引き抜く。

 なんとなくそうしようと思った。クリフォードが約束を破った方法で、自分は約束を守ってやるのだ。

 そしてクリフォードに向かって言ってやる。自分はクリフォードと違って嘘つきじゃないのだと。約束を守らなかったことを、一生許さないと。


「必ず、帰ってきます」


 ――キンッという音が響いた。


「騎士の誓い……」


 呟いたのはテューダーだ。


「騎士の誓いですか?」

「ああ、そうだ。しかし随分ずいぶんと古めかしいものを知っているね」

「これは、クリフォードさんが教えてくれたものです……」

「そうか……私は、帰りを待っているよ」

「はい!」



 あのあと、馬に乗れないフェイは森へと向かう馬車に乗っていた。

 揺られながら、先日のアゼルたちとの話しあいを思い出していた。



 テューダーの許可が下り、早速フェイはアゼルたちの元に向かう。


「テューダー様の許可が下りました。私も一緒に行きます」


 部屋の中にはアゼルとジョンがおり、なぜか二人とも唖然あぜんとしていた。よく聞こえなかったのだろうか。


「私も一緒に行きます」

「いや、聞こえてるから言い直さなくていい」

「テューダー様の許可が下りました」

「そこも聞こえている」


 アゼルが二つとも答えた。


「俺は今、信じられないものを見ている気がする」

「私も同感だ」


 アゼルが首を振りフェイを見た。


「まじ?」


 うたぐるように見てから放たれた言葉は短い。


「死ぬかも知れないんだぞ? 実際に一回死にかけたよな?」

「はい」

「普通来ようと思わないだろ」

「そうですか?」

「それになんで許可が下りるのかもわからん」

「そこはテューダー様ですから」

「なぜそこで顔を赤らめる」


 テューダーだからこそ、許可を出してくれたとフェイは思っていた。ほかの者ではこうはいかなかっただろう。許可が無くともフェイはついて行ったと思われるが。


「ジョン、どう思う?」

「どう思うと言われてもな……どうしようもないと思うのだが」

「しかしなぁ……」

「単純に戦力が増えたと思うしかあるまい。実際に人数は少ないのだ。それにちょうどいいだろう」

「ちょうどいいのですか?」

「ああ、話していいのかはわからないが。今回の遠征で志願者をつのるときに、フェイ、君が前回の遠征で同行したことを美談にして集めたのだ」


「同行したのは確かだしなぁ。いきなり剣の破片が刺さって死にかけるとは思わなかったが」

「今回も同行すれば士気も上がるのではないか」

「それはあるだろうな」

「本音では、決して来てほしくはないのだが……娘を死地に送るような気がしてならないのだ」


「俺もできれば連れて行きたくはないな。前の偵察のときに教えてくれた、あの黒い心臓については感謝している。

 その情報によって陛下もご決断下さった。だが、本当にその黒い心臓が弱点かどうかもわからない。本当に来るのか?」

「行きます」

「そうか……まぁ、わかってはいたが」


 まず、夜明け前までは可能な限り隠れるということ。次に鳴子なりこを持っていくこと。

 鳴子なりことは、揺らすと木板同士がぶつかり音が出る道具だ。

 そして早めにグリッヒダートの森へと行き、糸を引けば音が出るよう鳴子を設置する。それと一部の者にも持たせて囮にするらしい。


「そして譲ちゃんは木の上で待機だ。絶対に降りるなよ。鳴子なりこを鳴らしてもらうが、それ以外はなるべく動くな」


 そう釘を刺されてしまう。前回は離れていたにもかかわらず、剣の破片が当たり死にかけた。だから今度は木の上ということらしい。


「いいか。くれぐれも、くれぐれも勝手な行動はするなよ」

「…………」

「一人が勝手な行動を取ったら部隊全体が危険にさらされる。何かあれば事前に言ってくれ」

「なら、ベルトポーチに石を入れて持っていきたいのですけどいいですか?」

「見せてみろ」


 部屋から持ってきたベルトポーチを見せると、これなら音も立たないしいいだろうと許可が出た。

 それと、使うのはなるべく緊急時にしてほしいとも言われた。鳴子と違い投げる場所がわからないからだ。

 こうして、フェイがグリッヒダートの森へ同行することが決まった。



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