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アラキナとの和解

更なるブックマークありがとうございます。


 後日。フェイの部屋の扉を叩く者がいた。


「フェイ、入りますわよ」


 部屋に入ってきたのはグリッティだった。フェイの寝ているベッドへと腰かける。


「そろそろアラキナを許してあげたらどうですか?」


 その言葉にどう答えていいのかわからず、フェイはうつむく。まだ心の整理ができていなかったからだ。アラキナが心配していたことはわかっていた。

 でも、それ以上に『くだらないこと』と言われたことがフェイの心を乱す。


 怒られるとは思っていたが、あんな言い方をされるとは思ってもみなかったのだ。

 その言葉は予想外であり心に突き刺さった。だからだろうか、感情では納得できていない。

 それに、そのことにもイラだってしまい訳もわからず落ち着かなかった。


「やっぱり難しそうですわね。ただ、思いは言葉にしなければ相手に伝わりませんわよ。もちろん、わたくしにもね。まずはお話いたしません?」

「でも、何を話せばいいのか、わからないんです……」


「そうですわね。まずは簡単なことからにしましょう。フェイはアラキナと仲直りしたいですか? したくないですか?」

「仲直りはしたい、です……」

「ではどうして仲直りできない、したくないと思うのですか?」

「それは――」


 それはアラキナから『くだらない』と言われたからだ。裏切られたと思った。

 いつまでもそのことにこだわる自分も嫌で、けれど譲りたくないという気持ちもあった。

 続きを言わないフェイにグリッティが話しかける。


「したくないという、その気持ちも大切ですわよ。フェイが納得できないものもあるのでしょう。そこは譲らなくてもいいのですわ」


 その言葉にフェイは戸惑う。


「だから、まずはわたくしに話してみてくださいませ」

「アラキナ姉さんに、その……」


 グリッティは話すのを待ってくれている。だからか、フェイは少し落ち着くことができた。


「くだらないことって、言われたのが、すごく悲しくて……」

「フェイの中では大切なことだったのですね?」


 フェイはこくりとうなずく。


「そうだったのですね。もし、フェイが良かったらなのですけど……今のことをアラキナに伝えてきてもいいでしょうか?」

「アラキナ姉さんが……また、怒らないですか……?」

「大丈夫ですわ。仮にそうなったとしても、わたくしがフェイのためにアラキナを怒ります。それはもう、ええ」


 そう言ってグリッティさんはふふっと微笑み、最後にフェイの頭をなでると立ちあがった。


「フェイは心配しなくてもいいのですよ」



 翌日もフェイの部屋にはグリッティがやって来ていた。その手には手紙がある。


「フェイ、これはアラキナからのお詫びの手紙です。読んでみてください」


 手紙を受け取り広げると――


 フェイへ


 まずは謝ります。ごめんなさい。

 フェイには、大切なことだったのですね。

 くだらない、という言葉はつい出てしまったと言っても、もう元には戻らないと思います。

 けれど、フェイにも大切なことがあるように、私にも大切なことがあります。

 私は、フェイに生きていてほしかった。それだけなんです。

 どうか、許してもらえないですか。


 アラキナより


 読み終わり、気づけばフェイのほおには涙が伝っていた。

 胸が締めつけられ息が苦しい。嗚咽おえつが漏れ、涙は止まるどころか溢れつづける。

 悲しいのか、嬉しいのかわからない。

 心のどこかでは安心しているのに、なぜこんなにも苦しいのか。

 ただひたすらに、うちから広がるこの勢いが枯れることはない。

 なんで、こんなにも体が震えているのか。


 そんなフェイを、グリッティは優しく抱きしめてくれた。背中をなでる手の熱が体へと染み渡り、心を、体をなだめてくれている。

 いつまでも泣き続けるフェイを、いつまでも包み込んでくれていた。



 いつの間にか寝てしまっていたフェイが目を覚ました。

 泣いたときに溜まっていたものが出ていったのか、不思議と体はスッキリしている。

 首を少し動かし横を見ると、グリッティが座っていた。


「あら、起きましたのね。気分はどう?」

「なんだかスッキリしてます……」

「良かったですわ。言ったとおり大丈夫だったでしょう?」

「はい」

「でしたら、もうアラキナとも仲直りできますね?」


 泣いたからなのか、気持ちが変化し過ぎてしまったからなのか、返事をすることが無性に恥ずかしく思ってしまう。それを誤魔化すために、フェイはこくりとうなずいた。



 季節は秋になり涼しく、今日はほかの人たちと一緒になって布に針を通している。

 傷跡は残ってしまったが怪我は痛みもなくなりすっかり良くなっていた。

 つくろいものでテューダーに感謝されていたことを知ったフェイは、かなりの勢いで作業を進めている。


 作っているものは売れそうなもの。フェイだけはシーツなどを補修をするよりも、お金になりそうな飾り布を作っている。

 あの麦粥だけはもう嫌だと思っていたが、傷も良くなり食べるものも周りと同じものとなった。


「相変わらずすごい速さね。い目も綺麗だわ。でも、無理してやらなくてもいいのですよ?」

「大丈夫です。これは、わたしがやりたいんです」


 フェイは一つでも多く作り、テューダーに喜んでもらいたかった。

 一心不乱いっしんふらんに作れば一日が終わる。

 部屋に戻ると、棚の上にある短剣がフェイの目にとまる。クリフォードに託された短剣だ。

 手に取り、鞘から少しだけ刃を出してみた。


(今はどうしているんだろう……)


 刃をしまえばかちっと音がした。

 短剣を棚に戻し、自分もベッドへと潜り込む。

 今日もいつもと同じ静かな夜だった。


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