後悔と葛藤
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アゼルは信じられないものを見たかのように、口を開けた状態で固まっていた。フェイがいることは予想外だったが、すぐに笑顔になり手招きをする。
フェイはその笑みが怒りのサインであると瞬時に理解し首を振る。
ちょいちょいちょいちょい。
ぶんぶんぶんぶん。
――瞬間、ギリィという荷台の縁を握り潰さんばかりの音が鳴った。
外を指差されたフェイは抵抗をあきらめ、すごすごと馬車から降りる。
「フェイの譲ちゃん? 何でこんなところにいるのかな?」
笑顔だが、視線で物が切れそうなほどに目が据わっている。
「あ、あぅ……」
「これから死ぬかもしれないところに行くのはわかってんのか」
「はぃ……」
「なんで来た?」
フェイは鎧を着なかった人が気になり見にきた。アゼルに死なないでほしかったと正直に伝えるか迷った。したがって、やはり誤魔化そうかと思うがいい方法は浮かばない。
「アゼル隊長どうしたんすか。全員準備できてますよってあれ、隊長が仕事場に幼女連れてきグボァ!?」
アゼルは振り向きもせず、その肘で部下の鳩尾を打ち抜いた。痙攣し崩れ落ちる。
「はぁぁぁ……何か理由があって来たんだろ。ほら、言ってみろ。時間がない」
「えっと、その……わたし、わたしの所為で鎧を着ていない人が死んでしまったらと思って……。それに、アゼルさんにも死んでほしくなくって……」
「馬鹿か、死ぬかもしれないのはここに居るやつら全員が百も承知だぞ。それに、俺に死んでほしくないというのもわからん」
フェイは一蹴されうな垂れる。少し考えればわかることだった。
けれど、置いていかれたくない、あんな思いをするのは嫌だと思うと涙が足元へ流れ落ちる。
「そう、ですよね……やっぱり、ばかなことですよね……」
なにをしているのだろうか。何かが、変わると思ったのに。溢れる涙は止まらない。
「もう……置いていかないでほしいんです……」
あのときもっと引き止めていたら、そう思うと悔やんでも悔やみきれなかった。
ついてきてしまったのはクリフォードとアゼルが似ているからか。もう、身近な人にいなくなってほしくない。
「何を言ってるんだ。置いていくのは当たり前だろう」
「ちがう、ちがうんです……前に、クリフォードさんが行ったきり戻ってこなかったんです……それとアゼルさんが重なっちゃったんです……」
アゼルが頭をがしがしとかき、大きいため息をついた。
「そのクリフォードっていう奴はよくわからんが、俺とそいつは違う」
フェイは泣き止まず、俯いたままだ。
「あーもうめんどくせぇ、俺は絶対に死なんし死ぬ気もない、これでいいだろう」
面倒くさそうに言い放つが、フェイは首を振るばかり。
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
「わたしも……つれて、行ってください……」
顔をあげ、服の裾をつまみ懇願する。頬には涙が伝い嗚咽と共にすがりつく。
「本気なのか……? 死ぬかもしれないんだぞ」
「構いません。死ぬより残されるほうが、つらいです……」
「そうかもしれん。だがお前が死んだとき、残される者のことはどうする?」
「ッ……!?」
考えたこともなかった。いや、考えないようにしていたのか。
置いていかれるのは嫌だという気持ちと、アラキナたちを悲しませたくないという気持ち、その狭間で喘ぎ葛藤する。
「う、うぅ……」
「はぁぁ、考え無しに来たのか……」
「もうなにもわからないんです……」
「ああもうわかった、わかったから。だから泣くな鬱陶しい。要は様子を見に行って生き残ればいいんだろ。どうなっても知らんぞ」
「ついて行っても、いいんですか……?」
「いいと言ってるだろう」
「ありがとう、ございます……」
「いいか、絶対に俺のそばを離れるなよ。グレン!」
「はっ!」
倒れていた人物がすぐさま起きあがり敬礼した。
「当初の予定どおり森へ向かう。音に反応し夜という条件では、まともに指揮ができるのは最初のうちだけだろう。
格分隊は生き残ることを最優先とし、できうる限りの情報を収集せよ。かつて討伐に向かった騎士と兵が全滅している。用心するに越したことはない」
「はっ、お任せくださいアゼル隊長!」
かくして、アゼルはフェイを連れ森へ向かうこととなった。




