少女は追走する
討伐へは翌日の午後に出発することが決まった。しかし、本当にあれで良かったのだろうか。心配事は尽きず思いなやむ。フェイはなかなか眠れない夜を過ごしていた。
翌日は布を縫う作業が遅々《ちち》として進まない。心ここにあらずといったフェイに声がかけられていた。
「――ィちゃん、フェイちゃん。さっきからずっとぼーっとしていますけど大丈夫? 調子が悪いのですか?」
調子は、悪いのかもしれない。だが、心配事で手がつかないのは違う気がした。もし、鎧を着なかった所為でたくさんの人が死んでしまったら……クリフォードのように帰ってこなかったら?
できることはもうないのかもしれない。だけどせめて、遠くからでいいから見守れたらと思う。
置いていかれるのはつらく、もう二度と知らずにいなくならないで欲しかった。
「やっぱり今日はもう無理せず休んだ方がいいのではないですか?」
「そう、ですね……」
これほど作業が進まないのではいなくても変わらないだろう。足取り重く自室へと向かった。
ベッドに倒れこみ深いため息をつく。なんとか付いて行けないだろうか。
勝手についていったら怒られるだろう。行きたいと言っても止められるのは明らかだ。
窓の外から声が聞こえベッドから起きあがる。外を見ると多くの人が見えた。人以外には馬車もいくつかあり近くに人が立っている。
(馬車にもぐりこめないかな?)
逡巡したがすぐに動きやすい服へと着がえる。棚に目を向ければ短剣があり、それに風邪のときにもらった笛もあった。
(何かに使えないかな?)
何しろ音に反応するくらいだ。役に立つかもしれないと思い胸ポケットに笛を入れた。もちろん短剣も持っていく。隠れるための布が必要だと思い倉庫へ向かった。
途中で誰かに見つかってしまったらと思うとドキドキしたが、部屋を出てからは物音を立てないようにして歩いていき、無事にたどり着くと安堵の息を吐いた。
フェイは自分がすっぽり入るほどの麻袋を見つけ、馬車へと向かった。
近くの草陰に隠れ見張りのようすを伺う。何かを話しているがここからは聞こえなかった。今馬車に近づけば見つかるだろう。
しかし、集合の号令が聞こえると見張りまでもが足早に馬車を離れてしまった。
チャンスだと思って周りを確認するが人影は見えない。見張りの人までいなくなっては駄目なのではと、フェイは疑問に思うが気にしないことにした。
馬車に忍びより、再び周囲を警戒したが反応はなかった。
しかし、今のうちに馬車の中へ入ってしまおうとしたとき、戻ってくる足音が聞こえた。
(どうしよう!?)
馬車に入り袋をかぶる時間はない。車輪の向こう側、車体の下へと急いで隠れるが――思い切り頭をぶつけてしまう。
震えながら頭を両手で押さえ、涙がにじむも声だけは意思で押さえ込んだ。
もだえていると足音が近づき、隙間から足が見えた。
「おい、何か音がしなかったか?」
「何かぶつかる音が聞こえたな」
まずい。なんとか誤魔化さなければ。
「にゃ……にゃあああん……」
頭を押さえながら猫の鳴き真似をする。
「ああ、なんだ猫か」
「この鳴き声、絶対かわいいぞ俺にはわかる」
「適当なこと言ってないで取るもん取ったらさっさと行くぞ。うちの隊長はほかより緩いがどやされんぞ」
「いや、絶対かわいい猫だって――」
遠ざかる足音に緊張が途切れ息を吐く。これ幸いと言わんばかりに、いそいそと馬車に転がりこんだ。
中には槍や弓、矢といろいろなものが積まれかなり狭い。わずかに空いた奥のすみっこで袋をかぶった。
今さらにバレないか心配になるが、その心配もよそに周りが騒がしくなると馬車が動き出した。
そして、誰に気づかれることもなく順調に進んでいく。
問題は無さそうだと判断したフェイは、戦うのは夜だろうと考え眠ることにした。
*
馬車が止まり、揺れがなくなったことで目が覚めた。袋の隙間からおそるおそる外のようすを見ると、夕暮れ時の赤色が目に入る。
クリフォードと話していたときもこんな夕暮れ時であった。別れたあと、約束した彼が帰って来ることはなかった。
(うそつき……)
(あんな奴のために、死ぬことなんてないのに……)
持ってきた短剣をきゅっと握り、寂しさを誤魔化せば少しだけ心が落ち着いた。
声が聞こえる。
「各自装備の点検後、森へと向かう!」
周りが慌しくなったことが、袋の中からでもわかった。武器などを運び出しているのか、ガシャガシャとした音が聞こえ、それもしばらくすると静かになった。
森に着いたと確信したフェイは袋を脱ぎはじめる。
「んしょ、んしょ……ぷはぁ」
視界がひらけると外にいる人物、アゼルと目が合った。
「は?」
「あ……」




