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少女と騎士

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 フェイはアゼルたちを見すえ、小さいがしっかりとした声で語りはじめる。


「わたしは、あの森で悪意を感じました」

「悪意だと?」

「はい。あの森を馬車で通るとき、車輪が溝にとられて止まりました。けど、その溝が落ち葉で隠されてました。その後も道に木が倒れてましたけど、根元から切られていて、その切り口もツルツルしていて、折り重なるように道をふさいでました」


 フェイは腕を広げ木の太さを伝えた。


「その太さの木が切断されてたってのか……? 冗談だろ」

「確かにその話を聞く限りでは、ただ暴れてるだけではなさそうだ。知能があるとしたら厄介だぞ。アゼル、お前はどう考える」

「どうもこうもない、最悪じゃねぇか」

「切り捨てるまでだ」


 アゼルとジョンが震撼しんかんするが、やはりドゥガルドは気にも留めなかった。


「それに騎士の人たちは鎧、着ていきますよね? 音が出て、逆に危ないかもです……」

「確かに。木を切り倒すほどならば鎧は邪魔になるかも知れん」

「騎士の誇りなんざ犬にでも食わせちまえよ。俺は鎧と一緒にくたばるなんてごめんこうむる」

「騎士が鎧を脱ぐなど論外だ。有用な情報も集まった。失礼する」


 ドゥガルドは立ちあがり退室していった。


「うちの総隊長がすまない」

「いえ……」

「あの者は可愛い娘がおらぬからああなのだ。私にも君と同じ年頃の可愛い娘がいてね」

「おい、ジョン。ここでは惚気のろけないでくれ」

「可愛い娘の自慢をして何が悪いのだ」

「いや、空気読んでくれよ。それに時間は有限なんだよ」

「いやしかし、娘が可愛いのは――」

「おい」

「――なんだが! それすら可愛くて――」

「黙らないとあんたの娘に仕事の失態吹き込むぞ」


「鎧を着ていかないほうがいという話だったな。しかし、我が隊の者は鎧を脱ぐことを良しとはしないだろう。鎧と剣は騎士の誇りでもあるからな」

「あんたほんと調子いいよな。だが俺の部隊は鎧を着ていかないで行こうと思う」


「なに? いや、それがいいかもしれん。私も部下との打ち合わせを行おうと思うがアゼル、お前はどうする」

「俺はもう少しいようかな。まだ聞きたいこともあるし」

「わかった。君たちには感謝している。貴重な情報だった」


 ジョンも立ちあがり退室していった。


「あの、そんなに簡単に決めていいのですか?」

「鎧のことか。そっちが提案したことだろう?」

「まさか、そうされるなんて思ってなかったんです……」

「有用そうなら採用するし、そうでなかったら採用しないだけの話だ」


 アゼルはフェイの懸念けねん一蹴いっしゅうした。

 だがもし、鎧を着ていないことで死人が出てしまったとしたら、そう思うとフェイは気が気でなかった。


「部下たちも同じだ。誇りだけで生きていけるなら苦労はしない。必要があれば鎧なんぞ喜んで脱ぐだろうな」

「そう、なんですか……」

「ほかにも何かないか?」

「鎧を着る着ない以前に、あまり近づかないほうがいいと思いますわ」

「確かに。剣は予備に槍か弓を持っていったほうが良さそうだ。ほかにはあるか?」

「あるには、あるのだけれど……」


 アラキナが悩むそ素振そぶりでフェイのようすをうかがう。


「些細な事でもいい、教えてくれないか」


 アラキナは一度目を伏せ、迷いを断つようにして目を開いた。


「わかったわ。これはフェイには教えてないのだけど、夜は森の中だけでなく周辺も危険よ」

「なに?」

「あの化け物は森の周辺、それもかなり遠い所まで人をさらっているわ。だから森の外でも危険かもしれない」

「それってもしかして……屋敷にいる身寄りのない人たちは……」

「……そうよ」


 自分が悲しい訳でもないのに、フェイは涙が溢れそうになった。白くなるほどに手を握りしめ呟く。


「どうして……そんなことするのかな……」

「わからないわ。もしかしたら食べる為かもしれないし、ちがうかもしれない」


 ここにいる人はつらい者が多すぎた。自分は両親に売られた、それだけでもひどく悲しいのに。家族を奪われた人たちはどれほどそう思っているのか。

 そう思うと息が苦しくなる。それなのに、ずっと優しくしてくれたと思うと切なくなり、どうしていいかわからなくなる。


「そんな顔をするな、えーと」

「フェイ、です……」

「ああ、フェイだったな。名前を覚えるのは苦手なんだ。すまんな。まぁあれだ、その化け物を倒すために俺たちが来たんだ」


 アゼルは不適に笑う。


「グリッヒダートの森のことは、陛下も長いこと憂慮ゆうりょしておられた。それに、最初に出てったムカつくおっさんも腕だけなら俺よりもはるかにいい。部下は俺のほうが優秀だがな」


 アゼルが立ちあがり出口へと歩き出す。


「大体の方針は決まった。後は俺たちに任せておけ」


 退室していくその後姿は、先ほど見た二人よりも遥かに騎士らしく、こんな人がいてくれると思うだけで安心できた。そして、だからこそ死んでほしくないと、フェイは思った。


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