少女の思い
翌日。
フェイはむくりと起きあがった。あくびを噛みころし服を着がえる。気絶してからはカルディンによって救出され、顔にはひっかき傷があるものの事なきを得た。
この日はほかの人と一緒に繕うことになった。売れれば屋敷の資金にもなるので、売れそうな飾り布を張りきって作り一日が終わる。
*
今日もフェイは飾り布を黙々と作っている。アンナが部屋へ来たのはそんなときだった。
「フェイ、テューダー様からお話があるので来てください」
「今行きます」
疑問に思いながらも手早く片づけ、アンナの後についていく。何か怒られることをしてしまったのだろうか。
「大丈夫よ、ちょっとした事前連絡だから安心して。失礼いたします。フェイを連れてきました」
「よく来たね、少し待っててくれるかな」
テューダーが書類にサインし、それらを一度束ねると机のすみへと移した。
「待たせてすまない」
「いえ……」
「実は、以前より要請していた討伐部隊についてなのだが。国王陛下の命により騎士による討伐が決まったと、先ほど手紙が届いたのだよ」
森の化け物に対しての討伐が決まったと、テューダーが嬉しそうに話した。
「そこでアラキナやグリッティにはもう話してあるのだが。稀有な生還者として、討伐の先駆けとなる偵察部隊に情報を提供してほしい」
*
後日。
フェイたちは騎士団との話しあいのために部屋へ集まっていた。緊張して座るフェイの前には紹介を終えた三人の人物がいる。
一人は一番隊の隊長かつ、総隊長でもあるドゥガルド。尊大さを隠さない偉丈夫だ。
その左にきっちりと座る硬い表情の者がジョンになる。反対側には足を組んで座っている、どこか横柄そうな者がアゼルだ。
しかし、フェイはアゼルから目が離せなかった。雰囲気がどこかクリフォードと似ていたからだ。声を掛けようか迷うが、それをドゥガルドが言葉を発することで阻害する。
「では必要な情報を教えてもらおうか」
「はい、まず見た目についてですが色は黒く、立つ背丈は馬車よりも大きかったですね。暗闇でよくはわからなかったのですが」
アラキナが答える。
「ほう、背が高いとなると急所の位置も高くなって厄介だな。ほかには何かあるかね?」
ドゥガルドが促したことでグリッティが続く。
「私たちのほかにも人が居ましたけれど、皆殺されてしまいましたわ。子供のいた馬車も壊されましたし、殿方もおりましたが握りつぶされた、と言ってよいのでしょうか。それと最後の……女性の方は切り裂かれたのか、跡形も無くなりましたわ……」
「夜にだけ出るというのはどういいうことだ?」
「それはわたくしにもわかりませんわ。夜になると突然目の前にいたのです。昼間に森の中を通ったときは出て来ませんでしたし、朝になれば見なくなりましたから。恐らくですが、夜にだけ出てくるのではないかと」
「ふん、夜にだけ現れるなど姑息だな。愚劣極まるというものだ。もう無いのか?」
「いえ、音にも敏感です。私たちが助かったのも動くな、音を立てるなという忠告をしてくれた人がいたからです。残念ですけどその人はもう、いなくなってしまったけれど……」
アラキナが答え残念そうにする。三人が今生きていられるのは亡きクリフォードのおかげだった。あの忠告がなければ死んでいた可能性が高い。
そのことがいまだにフェイの胸を締めつける。自分たちは生き残り、彼は帰ってこなかった。帰ると約束したが果たされなかった。そのことにもフェイは悲しみ、嘆いていた。
「あまり役に立ちそうに無いな」
その言葉にフェイは静かな怒りを覚えた。クリフォードが役に立たない、そう言われたように感じたからだ。
「ドゥガルド。そちらの譲ちゃんはフェイ、だったか? 些細なことでいい、何かないか?」
アゼルがドゥガルドを咎め、フェイを譲ちゃんと呼んだ。
「えっと……」
アゼルに聞かれたことによりフェイは戸惑った。そして、思い出すにはつらい出来事が多く、躊躇してしまう。
だがドゥガルドに言われたことを、そのままにできる筈もなかった。
フェイは手を握りこみ顔をあげる。あの化け物を倒す手助けをすることは、きっとテューダーへの恩返しになると。
思い出すのも嫌だったが、もう、逃げたくないと。そしてこの人の、クリフォードと似ている人の助けになりたいと思った。




