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ノア(救い)

初のブックマークありがとうございます。


「だから言ったでしょう。気にする必要はないと。それに、フェイに感謝してる人はほかにもいるのよ?」


 女性が胸に手を当て、おずおずと進みでてきた。だが、フェイはその女性の名前がわからなかった。


「フェイはあまり覚えていないかも知れないですけど……私はヘティーと言います。あまり接点がありませんでしたから」

「ごめんなさい……」

「それはいいのです。アラキナから、フェイは私たちに嫌われているかも知れないと聞きました」


 フェイは振りかえりアラキナを抗議の目でにらむが、アラキナは笑顔で見守るばかりだった。


「ですが、少なくとも私は嫌ったりしていませんよ。むしろとても感謝しているくらいですから……。

 テューダー様が大切になさっていた布絵がありましたでしょう?」

「はい……」

「以前その布絵を不注意で破いてしまったのは私なのです……。そのときはテューダー様に顔向けができないと、とても落ち込みました」

「そうだったんですね……」

「はい。ですがフェイがその布絵を直してくださったのでとても嬉しかったのです。心に掛かっていた霧が晴れたようでした」


 ヘティーが涙をにじませフェイを抱きしめた。その体温がフェイへと伝わっていく。

 テューダーの言っていた彼女がヘティーだと、フェイは気づいた。


「ありがとう……」


 ヘティーは呟く。そして、思いをぶつけるかのように抱きしめる力を強くしていった。フェイの顔が苦しみにゆがみ、ぐったりとし始める。


「ヘティー、嬉しいのはわかりますけど。そのまま締め続けるとフェイが気を失うわ」

「え!?」


 ヘティーがあわてて力を緩めるが、フェイは息もたえだえだった。


「大丈夫ですか?」


 心配そうに声をかけたのはロレンシアだ。彼女は以前、フェイから飾り布をもらっていた。そのときに困ったような顔をした人だったと、フェイは覚えていた。


「あの、誤解があるようなので訂正ていせいいたしますと……頂いた飾り布は娘が好きだったがらに、すごく良く似ていたのです。

 もう、娘にも会えませんが、すぐそこにいるような気がしたのです。そのときはどうしたらいいのかわからなくて……。ですが、すごく嬉しかったのは確かです」

「これでもまだ疎まれてる、なんて思う? 少なくとも、二人も感謝してるわ」


 アラキナが勝ち誇ったように言い放つ。

 それからいろいろな言葉が投げかれられた。統一されていることはどれも肯定的な言葉ばかり。アラキナの言ったとおり、疎んでいる人などいなかった。

 しかし、フェイにはひとつ引っかかっていたことがあった。


「どこか、よそよそしかったのは……?」

「それは違いますよ」

「アンナさん……」

「あなたが倒れたり途中で寝てしまうのを、心配して見守っていたのですよ」


 フェイには思い当たるふしがあった。眠くなり気づけば自室のベッドに寝かされている、なんてことがあったからだ。

 本人は仕事の途中に寝てしまったと落ち込んでいた。

 そしてもうひとつ、フェイは疑問を投げかける。


「わたし、みなさんと同じように働けないじゃないですか……すごく、迷惑かけてると思うんです……」


 だが、フェイの問いかけに多くが目配せし合い、なんとも言えない空気がただよう。

 何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。フェイが不安そうにうかがっているとアンナが沈黙を破った。


「だってフェイ、あなた……」


 フェイは息を飲み込む。


「まだ子供じゃない」


 呆然ぼうぜんとする。


「フェイくらいの年齢だと、普通は家や仕事の手伝いを少しずつして慣らしているところよ」


 フェイの中で何かが崩れさる音が聞こえた。あまりの衝撃に放心していると、横でアラキナが笑いをこらえているのが見えた。


「子供、働かないんですか……?」

「そうですよ。ですからフェイが気にする必要などないのです。これでもまだ、疎まれてると思いますか?」


 フェイは首を振る。


「では、誤解も解けたようですし、フェイにはみんなからのプレゼントを渡しますね」


 アンナの言葉により、ヘティーが大きな包みを持ってきた。おそるおそる受け取ればそれなりに重みがあった。


「これはみんなで少しずつお金を出し合って買ったものです。気に入るとよいのですが。良かったら開けてみてください」


 フェイは自身の身長近い包みを、一度床に置いてから開いた。苦労して中に入っていたものを取り出すと、中に入っていたのは大きなぬいぐるみだった。


「夜に怖い夢を見るそうですね。みんなで話し合って決めたものです」

「皆ってオーソンさんもですか?」

「はい」

「テューダー様もですか?」

「そうですよ」


 フェイはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。流れる涙は止まらない。

 腕で何回拭おうとも、収まるどころか溢れるばかりだった。

 疎まれてると思った。役立たずだと思ってた。


 でも――違った。


 アンナが優しく語りかける。


「フェイ。子供の仕事は、育つことですよ」


 フェイは泣きつづけた。悲しいのではない。心の底から沸きあがる感情、その全てを懸け泣いていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 泣きつかれたのか、すぐに眠ってしまう。

 フェイはぬいぐるみに救い(ノア)と名づけた。そしてこの日以来、あの悪夢を見なくなった。


ぬいぐるみは皆さんのご想像にお任せします。フェイに可愛いぬいぐるみを抱かせてあげてください。

作者は白いアザラシになってしまいました。


0pt 0ブックマークを脱し作者も救われる思いです。

本日の投稿はここまでとなります。明日以降は一日1話、19時くらいに更新していく予定です。

話の進みはゆっくりですがお付き合いいただければ幸いです。

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