泣いた先には
夜になり、フェイはベッドでぐったりとしていた。
「――ィ、フェイ、今日は夕飯どうする? もう寝ちゃう?」
「うぅん、起きる……」
寝ているフェイを起こしに来たのはアラキナだった。
「疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫……」
起きあがると不調を感じ、フェイはため息をついた。すぐに疲れきってしまうことに嫌気がさす。
「ちょっと体拭いてから行こっか。少しは目が覚めるんじゃない? 私も手伝うからすぐだよ」
「じゃあ、お願いします……」
体を拭かれながらフェイが疑問を口にする。
「ねぇアラキナ姉さん……わたしってすぐに、疲れてしまいますよね」
「そうね」
「わたしがもし、ここに住まわせてもらえてなかったら、死んでますよね」
「……そうかもしれないわね」
「今生きてるのはテューダー様のおかげなのに、全然お返しできなくて、やっと少しだけ返せたと思ったらこんな調子で……。
アラキナ姉さんみたいに働けないし、わたし、要らない子ですよね……助かる価値なんか、無かったですよね……」
フェイは目に涙を湛えながら思いを独白していく。
恵まれた環境にいながらもろくに働けず、あまつさえ弱音を吐いて泣いてしまった。そんな自分に後悔しても遅く、そのことを思うと吐き気がした。
「うーん、テューダー様はそんなこと思わないと思うんだけどね。それにグリッティも言っていたわ。
認められたいという思い、それを満たしてくれるのはほかの人だけど、自分の価値を決めるのは自分自身だってね。だから、つらいのならもう少し力を抜きましょう?」
フェイはアラキナを涙目ながらに見あげる。
「わからないって顔をしてるわね。じゃあ今から食堂に行きましょうか。時間もそろそろいいしね」
フェイは首を振る、こんな泣き顔をほか人に見せたくないと。しかし、アラキナに抱えられてしまい部屋を出る。
フェイには信じられなかった。どうしてこんなことをするのか。アラキナはフェイの心境もお構いなしに抱え歩いていく。
「それにフェイ、今日は私たちがここに来てからちょうど一年だって知ってた?」
「知らない……」
抵抗する気力もなく連行されていき、食堂の前に着いてしまう。
本当にこのまま入るのかとアラキナを見あげるが、アラキナはいつもどおり笑っているだけだった。
フェイは諦めその体から力が抜ける。
「それにね、私は今日がいい日になるって信じているから」
言うや否や扉を開けて中へと入ってしまう。
…………。
部屋の中のいるすべての人が唖然としていた。フェイが泣きながら連れて来られ驚いたからだ。
完全に凍りついた空気のなか、フェイの嗚咽だけが聞こえる。目からは大粒の涙がぼろぼろと流れつづけていた。
場を見かねたアンナが問いただす。
「アラキナ、フェイはなぜ泣いているのかしら」
「迎えに行ったら泣き出してしまったので、そのまま連れてきちゃいました」
「何でそのまま連れてきちゃうのよあなたは、少しは落ち着くまで待つなりしなさいよ……」
アンナが目元を覆い嘆いた。フェイは降ろされ、背中を押し出されてしまう。俯き立ち尽くしていると、アンナが目線の高さを合わせ話しかけた。
「フェイ、今ここに来るのはさぞかし嫌だったでしょう? でも、ごめんなさいね。私はフェイに来てくれて嬉しいわ」
なぜ嬉しいのかフェイにはわからなかった。
「アラキナから聞いたかも知れないけれど、今日はあなたたちがこの屋敷に来て、ちょうど一年になるのよ。
それで今日はみんなでお祝いをしようということになったの。それと、少し元気になるかもしれない話をしましょう」
ポンと手を合わせアンナが続ける。
「以前よりあなたはテューダー様の恩に報えず、自分を攻めていると聞いていました。ですが、そのことを気にする必要はないのですよ。
テューダー様はこの領地の惨状に苦心しておられ、何もできないご自分を責めておられました。今のあなたと同じですね。
ですので、ご自身のお心を守るためにと、身寄りのない私と同じような境遇の者たちが生活していけるようにされています。
本当はこの屋敷の維持だけで言えば、半分でも多いくらいですのにね」
最後にふふっとアンナさんが微笑み、テューダーのほうを見た。
「アンナ、そういう話は私のいないところでしてくれないか……」
「テューダー様がご自身の心ばかり気になさってフェイのことを放っておくからですよ」
「ぐ……」
フェイが見つめるとテューダーが顔を逸らした。
「テューダー様」
「わかっている」
テューダーはフェイの頭をなでながら語りだした。
「すまない。私が不甲斐ないばかりに、フェイにはつらい思いをさせてしまったね。
私の領地は小さいうえに農地も少ない貧乏領地だ。しかもあの森があるから交易路にもできないのだよ。私が無能なばかりに領の皆にはつらい思いをさせている」
フェイは涙に濡れる顔でテューダーを見あげる。
「気にすることは無いのだ。君たちを屋敷に置いているのも、全ては私の自己満足のためなのだからね。そして自責の念を少しでも払拭できるように手助けさせてほしい。
難しいことは考えなくていいよ。皆が救われれば私も救われるだけの話だ。それとそろそろ羞恥心が限界に達してきたので私は失礼するよ」
足早にテューダーが部屋を出ていってしまう。その姿が妙に印象に残った。




