第861話、スパイトフル = 意地悪
旧シェーヴィル王国。王都近郊のマキシモ軍港は、一大空中艦隊用の巨大軍港だった。
大帝国西方方面軍の拠点であり、ヴェリラルド王国侵攻のための空中艦隊の整備、補給を担っていた。
新生第一空中艦隊と西方方面軍空中艦隊が戦地へ赴いた際、この軍港には空中艦と補給船が数隻あった。
シェード将軍が不在で、どこか弛緩した空気に満たされた軍港は、その日、襲撃を受けることになる。
漆黒塗装のTF-4ゴースト、TF-5ストームダガーによる空襲。投下された誘導噴進弾や爆弾が、軍港や軍関係施設に炸裂した。
まったくの無警戒だった。
戦場は遠く、ヴェリラルド王国である。そこへ向かった主力艦隊を差し置いて、敵が後方のシェーヴィルを攻撃する余裕などないと思い込んでいたのだ。
確かに、ヴェリラルド王国の艦隊ではない。
大帝国に反逆し、その拠点を攻撃する反乱者――シャドウフリートは、帝国施設や軍とあれば、所構わず襲撃する。
高速クルーザー『キアルヴァル』改二を旗艦とする黒の艦隊は、その兵力を持って旧シェーヴィルに現れたのだ。
旗艦『キアルヴァル』艦橋では、暗黒騎士姿のベルさんが仁王立ちしていた。
『航空隊、襲撃に成功! 敵の迎撃なし!』
SS通信士の報告に、シップコアのエスメラルダは頷いた。
「司令」
「ようし! 空母と護衛を残して艦隊は突撃だ!」
ベルさんの命令は、直ちにエスメラルダのスレーブサーキットにより、全艦に通達される。
巡洋艦6、軽空母3、強襲揚陸艦3、護衛コルベット8のシャドウ・フリート本隊に、今回はレントゥス級中型空母3隻からなる第五航空戦隊(旧二航戦)と、戦艦四隻、ゴーレムエスコート8隻が加わっている。
Ⅰ型クルーザーを護衛に残し、『キアルヴァル』を先頭に、Ⅱ型クルーザー2隻、コルベット8隻が単縦陣で、マキシモ軍港上空へ侵入を果たした。
100隻近い空中艦を係留できる超巨大軍港。そのドックや空中艦用桟橋などが多数あるその施設は、城塞を思わす塔や防壁もあって都市ひとつが巨大な城のようでもある。
すでに航空隊が先行し、防空砲台は沈黙している。『キアルヴァル』は艦体を傾け、全プラズマカノンを右舷方向へ指向させた。
「撃ちまくれ!」
15.2センチ三連装プラズマカノンが閃光を放つ。後続のⅡ型クルーザーも三連装砲、大帝国コルベット姿のウィリディス・コルベットも12.7センチプラズマカノンを地上の施設へと発射する。
吹き飛ぶ桟橋、工場や監視塔などが粉々に爆砕されていく。時々、生き残っていた砲台が火を噴いたが、高速の航空艦隊にはかすりもしない。逆に反撃の火線が集中し、砲台も沈黙した。
シャドウフリートのクルーザー群が通過する。だが軍港全体をまだ叩いたとは言い切れない。
そこに今回、艦隊に臨時編成された戦艦4隻が突入する。
八八八艦隊計画案で建造されたスーパードレッドノート級戦艦『土佐』『加賀』『長門』『陸奥』である。
全長275メートル。主砲となるプラズマカノンは、40.6センチ連装砲塔。その数は16基、32門に達する。
艦首から背負い式に上下に2基ずつ、左右両舷に1基。艦中央両舷に同じく1基ずつ、艦尾の回転式甲板に4基が2セットである。
これらは全砲塔が仰角90度の超高角射撃が可能。特筆すべきは、前方に全砲門16基をすべて向けることができるという、突撃戦艦であることである。
それを可能としているのが艦尾の回転式甲板だ。これは砲塔基部ごとスライドすることが可能。さらにユニコーン級機動巡洋艦に採用された異空間収納砲塔を採用したことで、砲塔の高さを変更して、前方の主砲とぶつからずに射線を確保できるのだ。
その結果、艦尾側主砲も艦首方向の構造物に射線を遮られることなく砲撃ができるようになった。
これらの着想はユニコーン級であるが、同級でさえ全砲塔を向けられないから、こと前方に限られるが、土佐級はユニコーン級を凌駕していると言える。
ジン・トキトモの弁を借りるなら、本来は二隻のみを建造するつもりだったという。名前も『長門』と『陸奥』にするつもりだったが、あまりの多砲塔なシルエットが、旧海軍の八八艦隊計画の土佐型や天城型を連想させたから、長門級とするのに違和感を抱いた。
かくて予定されていた大和級2隻の代わりに、こちらの突撃戦艦を2隻追加した格好となった。
そして、この土佐級四隻は、その40.6センチ(16インチ)砲による猛火力を発揮。マキシモ軍港に徹底的な艦砲射撃を見舞った。
旧シェーヴィルにおける大軍港は、無慈悲な破壊の渦に飲まれ、廃墟と化した。
その様子を『キアルヴァル』から見守ったベルさんは、兜の裏で笑みを浮かべる。
「なるほど、ジンが言っていた通り、戦艦の艦砲射撃は基地を吹き飛ばすに打ってつけだな」
「司令、航空隊より入電。王都、シガルラ宮殿ほか、西方方面軍司令部ならびに軍施設の空爆完了しました」
エスメラルダの報告に、暗黒騎士は頷いた。
「ようし、全艦に離脱を命令しろ。それとヴェリラルド王国のジンに報せろ。『トラ、トラ、トラ』だ!」
何でも、ジンのいた世界の、とある有名な軍事作戦における暗号なのだそうだ。何でトラなのかさっぱりだが、暗号とはそういうものなのだろう。
かくて、シャドウフリートは、鬼の居ぬ間にマキシモ軍港と司令部を奇襲するスパイトフル作戦を完遂し、撤退した。
・ ・ ・
スパイトフル作戦の第一報を受けた俺だが、傍らで聞いていたジャルジーは初耳だった。
「そんな作戦を実行していたのか……」
「せっかくお留守なんだ。手すきの戦力は有効活用しないとね」
いわゆる空き巣狙いである。
シャドウフリートやファントムアンガー、……まあ、ファントムアンガーは連合国の支援や訓練で頑張っているので動けないが、比較的フリーだったシャドウフリートはせっかくなので使わせてさせてもらった。
敵司令部とその重要拠点を奇襲する。敵の戦力がいるうちに叩ければ一番楽ではあるが、その戦力が出払っているうちに、その拠点を潰してしまうというのが要諦だ。
「ちなみに、スパイトフル作戦はノベルシオン国にも仕掛けていてね……」
「何だって?」
ジャルジーは目を丸くする。俺は皮肉っぽく笑う。
「もっとも、こっちは通商破壊フリゲート戦隊を送って、ミドス王のいる王城にミサイルを一発ぶち込むことになっている」
「たった一発だけ?」
「そう一発だけ。ただし、あの国では効果は絶大だと思うよ」
最近王になったミドスが爆死するか、あるいは重傷だったとしても、あの国には激震となって、しばしヴェリラルド王国侵攻など考えられない状態になると思われる。
今後の状況判断や、あるいは次の攻勢までの時間稼ぎとしては、費用対効果が凄まじいだろう。何せあの国、いま大帝国の傀儡だからね。事と次第によっては……ねぇ。
俺が、ジャルジーにスパイトフル作戦の全容を語っている頃、同作戦の第二報が届いた。
ノベルシオン国に潜入させた第14雷撃隊(通商破壊フリゲート戦隊)が、同国王都クルナートの王城へ接近。フリゲート『早波』からのミサイル攻撃は、ノベルシオンの若き国王ミドスに瀕死の傷を負わせたとのことだった。
第14雷撃隊は、そのまま魔力遮蔽により姿を消したまま、王都領空を離脱。同地潜入しているSS諜報員によれば、現地は大混乱に陥っているという。
そりゃあ、見えないまま攻撃されてはね……。そもそも攻撃かどうかすら、わからない者もいるんじゃないかな。……例えば、王を亡き者にしようとしている帝国による仕業だったり、とかね。
土佐級突撃戦艦:『土佐』
全長:275メートル
機関:インフィニーエンジンMk-11
武装:16インチ連装プラズマカノン×16基(32門)
4インチ光線機銃×20基(40門)
5連装ミサイルランチャー×4
8連装ミサイルランチャー×2
収束魔導放射砲×2
姉妹艦:『加賀』『長門』『陸奥』
・八八八艦隊計画で、ウィリディスで建造された超弩級戦艦。16インチ(40.6センチ)連装砲を搭載。特筆すべきは、艦後部の回転式甲板により主砲を左右にスライドさせることで、艦橋などの構造物に遮られることなく、前方に指向することが可能なこと。全砲門を前方に向けた突撃時の砲撃能力は凄まじいが、主砲は90度直角の高角射撃が可能で、前方以外にも広い射界を有する。




