第860話、ズィーゲン会戦レポート
ズィーゲン平原の戦いは、ヴェリラルド王国北方軍が、かろうじて勝利を収めた。
しかし、その代償は大きかった。
ジャルジーの北方軍主力は、歩兵連隊の三割に損害が出て、戦車大隊は壊滅。AS大隊も六割、航空機大隊もおよそ半分を失った。
ウィリディス派遣軍も、アンバンサー戦役以来のアイゼンレーヴェ戦車大隊が半数を喪失、第七AS大隊も損傷、撃破された機体が多数。ワスプⅡ攻撃機も四割が撃墜され、陸上駆逐艦『ルーラー』が大破した。
アーリィーの第三艦隊から戦場に到着した航空隊も全体の一割を失い、また同数が被弾による修理を必要とした。
第五AS大隊スカイランサーズは、ベヒモスは被弾はあれど全機が帰還。ドラグーンは3機を失うも、損害は軽微といえる。ちなみに、ベールや元エツィオーグだった面々もそれぞれ無事生還したという。それには安堵である。
大帝国陸上部隊、ほぼ魔法文明戦車と例の半球体の移動砲台による被害だ。帝国が歩兵部隊を後続配置していなかったからよかったものの、もし普通に兵力があったら、防衛線は突破されていた可能性も……それはないか。
俺は思う。その時は、航空艦隊による艦砲射撃で阻止しただろう。
現在、ウィリディス航空艦隊がズィーゲン平原上空にあって、睨みをきかせている。
総旗艦『ディアマンテ』では艦隊戦、地上戦での損害を集計し、戦闘分析にかかっていた。
艦隊戦での損害は、第一艦隊が駆逐艦四隻、シズネ艇七隻を喪失。
駆逐艦『吹雪』は被弾により墜落したものの、回収、修理が可能。同じく被弾により戦線離脱したアンバル級巡洋艦『グラナテ』は修理は必要なものの生還を果たした。
第二艦隊は、神風級重駆逐艦『天津風』が、敵クルーザーとの衝突で大破、着底したが、こちらも大掛かりにはなるが修理可能。他、数隻が被弾、損傷したが撃沈された艦はなかった。
俺はディアマンテ、そしてジャルジーとレポートに目を通している。
「艦隊戦は制したが、報告を見る限り、決して楽観はできない」
「はい。特に魔法文明のヘビークルーザーが厄介です」
ディアマンテが、敵重巡洋艦のホログラフィックを表示させた。
全長200メートルほど、艦体の左右にシールド型の構造物があって、それを支える部分の後ろ側にエンジン噴射口を備える。防御力がありそうな上、足も速いときている。
「アンバル級巡洋艦以上の火力と装甲を持ち、一対一では我が方が不利」
「戦艦の主砲で簡単に沈んだがな」
ジャルジーが発言したが、俺は首を振った。
「その代わり、こっちの駆逐艦も重巡にやられた」
吹雪級駆逐艦のうち二隻は、ヘビークルーザーの砲撃で沈められ、『吹雪』が墜落させられたのもその艦砲にシールドを簡単に撃ち抜かれたせいだ。
「だが兄貴、カミカゼ級は衝突した艦以外は沈まなかったぞ?」
「純粋に敵フリゲートと殴り合っただけだったからな」
敵重巡洋艦は、こちらの戦艦がさっさと沈めていたからだ。もし重巡が健在だったら、神風級にも撃沈艦が出ていただろう。
敵フリゲートとの交戦で、シールドを突破された艦が相次いでいるから、今回はたまたまやられなかっただけともとれる。
「こちらの巡洋艦戦力を強化する必要があるな」
ウィリディス軍は、連合国向け巡洋艦を改装したアキリーズ級重巡洋艦を保有はしている。だが魔法文明ヘビークルーザーに決定的に優勢というわけではない。主砲の砲門数は同じだが、砲配置の関係上、正面火力はアキリーズ級が不利だったりする。
「連合国から追加の注文もあるが……。いよいよプラズマカノンを搭載してやらないと、敵重巡が出てきたら対抗できん」
連合国向けには、当初実弾系主砲を搭載した艦を提供したが、以前の帝国空中艦はともかく、魔法文明クルーザー相手では歯がたたない。……そちらの砲の換装もしてやらんといかんな。
デラ・フィデリティアの即席建造で作っているとはいえ、魔力を使って生成している。まったく役にたたず、無駄になるのは我慢ならないのだ。
「兄貴、連合国から追加の注文というのは?」
ジャルジーが聞いてきた。当然、彼も関心があるのだろう。
「以前、提供した艦艇じゃ足りないから、と追加で発注を受けている。もちろん有料なんだが、すでに戦艦六……七隻だったかな。巡洋艦、航空巡洋艦合わせて三十を超えていたような」
護衛艦も五十以上だったと記憶している。ちょっと曖昧なのは、連合国全体ではなく、それぞれの国ごとで追加数が違うためだ。連合国内でも裕福な国は、たくさん注文する一方、初期配分以降、まったく艦を発注しない国もあった。
「戦艦七隻か……」
むぅ、とジャルジーが唸った。その戦艦を連合国に輸出せず、王国に配備したい――たぶんそう考えているんじゃないかな、彼は。
「まあ、戦艦といっても、こちらのD級をより簡易にして、主砲もグレードを下げたものだけどね」
ドレッドノート級戦艦は量産も考えて設計されている。その基本設計をベースにした、廉価版を、他国向けとしている。
エマン王には話は通してあるが、彼は自国の戦艦と同レベルの性能の戦艦を外国に出すことに難色を示していた。
……まあ、この廉価ドレッドノート級は、改装キットで本家D級に作り替えることができるようになっている。
ヴェリラルド王国で輸出艦艇を徴用することがあった時とか、敵に戦艦があらわれて廉価版では対抗できない場合とかに備えてね。
「そうそう、ジャルジー。第二艦隊のドレッドノート級八隻な。今後、ヴェリラルド王国艦隊に配属させるから、よろしく」
「へ?」
キョトンとするジャルジー。俺の言った意味を理解できていないようだ。
「ウィリディス軍ではなく、ヴェリラルド王国軍という扱いだ。一応、今回、艦隊戦は経験したから、次は君が指揮をとれよ」
ま、しばらくはウィリディス軍で整備や管理はするけどね。今は青の艦隊カラーであるが、色を変えないといけないな。
「それと吹雪級の駆逐艦の改良型と、汎用空母も王国軍向けに用意しているからよろしくー」
「え、え、え?」
「あと君、大和級に匹敵する巨大戦艦を1隻、王国艦隊旗艦用にと、エマン王から依頼を受けたから、それもいずれは君が乗ることになるんだろうな」
名前は、どうしようか。未来の王にちなんで『キング・ジャルジー』級とか?
完全に呆けているジャルジーをよそに、俺はディアマンテと戦況分析に戻る。
「陸上兵力について大幅に見直しが必要だね」
「戦車の損害が大き過ぎるように思えます。ただ魔法文明戦車が、魔法系統兵器のみなので、その対策さえできれば損害は大きく減らせると推測します」
「戦車にも防御シールドを搭載させれば、それで改善になるか。……いいね!」
すぐに対抗策が出るのは素晴らしい。あとは実際にそれを装備できるように揃え、また改造することだが、それはまた別の話だ。
「連合国からはASの発注が多いと聞いています」
「うん。飛行機や戦車より分かりやすい形をしているからね」
貴族や騎士さんたちには、人型の巨人のほうが兵器として理解しやすいのだろう。廉価版で対応しているが、こちらは注文だけで千機に達したとSS外交部から報告がきていた。
「俺、人型兵器に盾って、いまいち信用していなかった口なんだけど」
北方軍AS部隊の損害レポートを俺は眺める。
「遮蔽の少ない場所だと、案外盾って効果あるんだな。背が高いから的になりやすいってデメリットがある人型兵器だけど、だからこそ盾で機体本体の被弾を減らせるっていうの」
「その盾にも魔法攻撃対策を施しておけば効果があるでしょう」
「うん、それは俺も考えていた」
某機動戦士では、ビームコーティングとか表面に対策していたからね。そういうのも参考にしないといけない。
そこへ、SS通信士がやってきた。
『閣下、「ブラックナイト」より通信です』
「ベルさんか? 何だって?」
相棒の黒猫、もとい魔王様がここにいない理由。それはある作戦を実行中だから。
『はっ、「トラ、トラ、トラ」です』
その意味するところ『我、奇襲に成功せり』――
通信士の報告に、俺は相好を崩す。やってくれたか!
明日も更新。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい1、2巻発売中。
どうぞよろしく。




