第793話、魔力吸収プラント
アリエス浮遊島に戻った俺は、さっそくスフェラを呼び出し、緊急会議を開いた。
SS諜報部は、アンバンサーの魔力吸収装置について掴んでいるのか。
イーリャン研究所から回収した資料と突き合わせ、その装置の名前を割り出し、これまでの収集記録から洗い出しを行った。
結果、現状で三カ所、魔力吸収プラントの名の施設でその装置が設置されていることがわかった。
「これらの施設は、地下に流れる魔力を吸い上げる施設という名目で作られていました」
スフェラが資料から視線を上げて報告した。
「その労働に多くの奴隷や犯罪者が駆り出されたために、一種の強制収容所と思われたのですが……」
「その実態は、人間を魔力に変換していた、ということだな」
俺は腕を組む。自然と鼻息も荒くなる。
「帝国の表資料の扱いから、おそらく人間を生贄にしていることを知っているのは、帝国でも限られた人間のみだと思われます」
「だろうね。もし、公表していたら、SS諜報部も人の噂から、もっと早く掴んでたはずだから」
「はい。現在、帝国本国に、魔力吸収プラントは五カ所あり、うち二カ所が、例の人間からの魔力吸収装置が置かれています」
純粋に大地から魔力を吸い上げる施設もあるということか。
「一カ所は国外に。あと大帝国は占領地にも同様の魔力吸収プラントを複数建造中です。そのうち半数が人間素材の魔力吸収プラント装置を設置予定となっています」
「本当にそれだけか?」
俺は指摘する。
「もし、装置がないと思われる場所でも、大勢の現地民を徴用したり、犯罪者、奴隷が集められているプラントがあれば、そこにも装置がある可能性がある。君らSS諜報部が掴みきれていないルートを経由していることも考えて、SS工作員にはその目で確認させるんだ」
「承知しました、主様」
スフェラが頭を下げた。
「報告を続けますが、現在のところ、旧連合のクーカペンテ、プロヴィア、カリマトリア、トレイス、そして西方諸国ではシェーヴィル、シャマリラにて完成が近く、ノベルシオンにおいても建造が始まっています」
明らかに征服した国の人間を材料にしようとしているな……。ディグラートル皇帝、なんたる外道だ。忌まわしきアンバンサーの技術というだけで腹が立つ。
かつて、マッドと、人間を魔力にしてしまうこのアンバンサーの装置のことを話した。俺もマッドも存在してはいけないものという認識だったが、この世で一番渡してはいけない奴が、手にしてしまっているわけだ。
「とりあえず、この装置のあるプラントは破壊する。早急に、確実にだ」
俺は、スフェラ、そしてディアマンテを見た。
「シャドウ・フリート、ファントム・アンガーで攻撃する。SS諜報部は、吸収装置の所在の確認を急ぎ進めてくれ」
・ ・ ・
エマン王が俺を呼んでいる――ディアマンテから伝言を受けた。俺はアリエス浮遊島からウィリディス屋敷へとポータル移動。そこから王のいる白亜屋敷へ行こうとしたら、王が俺の屋敷にいた。
今まで、うちのメイドであるクロハとたわいのないお喋りをしているようだった。……ダイニングテーブルでくつろいでいる姿を見ると、一国の王というより、親戚の叔父か父親のように映った。公式の場ではないので「お義父さん」と呼んでおく。
「おう、来たか、ジン」
キッチンカウンターのミニケーキをつまんで、テーブルに俺を導くさまは、本当に王様らしくない。すっかり馴染んでるなぁ。
「まずはご苦労だった。聞けば、また戦地だって?」
「ええ、帝国がまたろくでもないことを考えていたので、研究所のひとつを潰してきました」
俺がエマン王の向かいの席につくと、クロハがお茶を運んできた。ありがとう。
「その話はまた後で聞かせてくれ。それで、よくない話だ」
できれば聞きたくないが、王がよくない話をする時というのは大抵、王国の安全が絡む重大事だから無視するわけにはいかない。
「リヴィエル王国だ。王都が陥落したと知らせが入った」
「……帝国派ですか」
まあ、時間の問題だと思っていた。ヴェリラルド王国の西に面するエール川を挟んだ向こう側の国、それがリヴィエル王国である。
帝国容認派――帝国派と、パッセ王ら独自派――王国派が対立し、内戦状態となっていた。
「大帝国の支援を受け、帝国派が王国派を蹴散らした。王は王都から逃れ、東――つまり我が国西部方面へと向かっている」
「こちらとの同盟はまだだったと記憶していますが」
「正式な同盟はまだだ。なにぶん我が国にもリヴィエルは見捨てるべきだ、という意見もあって、意思統一に手間取ってな」
エマン王は顎に手を当てる。
「まだ、まとまっていないのですか?」
「いや、パッセを見捨てたとして、どのみちこのまま行けば西部での衝突も避けられない。帝国派となったリヴィエル王国は、東のノベルシオン同様、我が国に攻めてくるのは時間の問題だろう。故に、同盟を結ぶということで一致となった。というか、させた」
国王である。そのあたり、キチンとまとめたらしい。
「先は長くないにしろ、パッセ王ら王国派を利用する、と」
「うむ。だがリヴィエル王国の王都は陥落してしまった。帝国派に王を討たれては、こちらの行動も遅きに失したと言わざるを得ない」
エマン王は眉間にしわを寄せた。
「我が国に隣接するエール川周辺には、リヴィエル王国にもそれなりの戦力がある。これらは王国派なのはわかっている。これとパッセが合流できれば、防波堤として時間稼ぎくらいはできようものだが……」
「……とはいえ、同盟前にこちらが軍を動かせば、その王国派とも衝突してしまうことになりますね」
「そう。手を差し伸べようにも、難しい……不可能という状況だ」
ため息をつくエマン王。
「リヴィエル王国も敵に落ちた。問題になるのは我が国の防衛だが、王国西部の諸侯には、敵の侵攻に備えさせるべく戦闘準備を命じている。もっとも、北部ズィーゲン平原に押し寄せた帝国軍が来れば、心許ないのだが」
「まだ王国派を見捨てるのは早いかもしれません」
俺は思ったことを口に出した。
「例えば、我々の手で、パッセ王を救出し、正式に同盟締結をさせることができたら……どうです?」
エール川周辺の王国派リヴィエル軍も、まだ利用できるのではないか?
「できるのなら、な」
エマン王の目が光った。
「軍は動かせないだろう。だが、可能なのか? パッセを救出することが?」
「使者としてリヴィエル王国に入れば、あとはうちの諜報部にサポートさせれば可能かと」
俺はそう口にして、ふと、やってしまったな、と思った。案の定、エマン王は頷く。
「任せられるか、ジン? おそらく、お前をおいて、他にできる者はおらん」
「承知しました」
まあ、大帝国戦は俺の管轄でもある。こちらにとってもリヴィエルの王国派は捨てるには惜しい駒とも言える。言い出しっぺとしての責任はとらないとね。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい2巻、4月10日発売予定。
特典SSなど製作中。




