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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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799/2027

第792話、災厄の種


 イーリャン研究所地下ドック――渓谷の壁面をくり抜いて作られた大規模な施設で、クルーザー級の収容が可能な大きさがある。


 元は古代魔法文明時代の研究施設であり、その技術力の高さに大帝国の人間は驚いていた。ただの古びた遺跡と化していたそれを、改装して使っている魔法軍特殊開発団であるが、ここ最近、その研究対象が変化していた。


 本来は魔法文明時代の魔法を研究していたのだが、ここ最近の反逆者――シャドウ・フリートの攻撃で、キメラ・ウェポン関連施設がことごとく破壊されたため、その研究所部門が移ってきたのだ。


 大帝国としては、いまだキメラ・ウェポンの研究を捨てられずにいたのである。

 そして今日、キメラ・ウェポンの新たな素材として、飛行魔術師の生き残りが送られてくる。


 実戦ではそこそこの活躍を見せたこの飛行魔術師であるが、すでに半数以上を失ったことで、費用対効果に疑問の声が上がり、キメラ・ウェポンの素材に降格された。研究者たちは、レアな素材が送られてくることに喜々としたのだった。


 素材を載せたクルーザー『トリィウー』がドックに入港すると、兵士らが整列し、また研究者たちも待ちきれないとばかりにその列に加わった。

 飛行魔術師を回収したヴィスリィー大佐もいるから、迎えに整列するのは当然だった。


 だが、そこから起きたのは大惨事にして、悪夢であった。


 まず、大惨事。トリィウー号がドックに突っ込んだ。


 浮遊石による浮遊効果をキャンセルしたのか、事故としか思えないようにドックの床面に船体下部を押しつけ、こすり、めくり、艦首から奥の壁面に衝突して止まった。


 それからは蜂の巣を突いたような大騒ぎだった。兵士らが慌てて右往左往し、救助隊が目まぐるしく動く。研究者たちは、ある者は尻もちをつき、またある者は腰を抜かして立てず、またある者は呆然と周囲の光景を眺めていた。


 悪夢は始まった。


 大破したクルーザーから、黒い装備をまとった帝国兵の一団が現れると、武器を手に攻撃――いや、殺戮を開始したのだ。

 その中心にいたのは漆黒の甲冑をまとう暗黒騎士。赤い大剣を手に、見えない力――魔法で施設の兵を跳ね飛ばし、叩き伏せる。


 天変地異を目の当たりにしているようだった。

 床がバリバリと引き剥がされ、宙を舞ったそれが兵士たちを薙ぎ倒し、弾薬補給車――初歩的な魔力動力車を浮かべると、砲弾のごとき勢いで投げつけた。激しくクラッシュし、バウンドしながら補給車は兵士や物資を潰し、吹き飛ばし、やがて爆発した。


 あれは人間なのか?


 目にした研究者たちは、暗黒騎士へと視線を向ける。常人離れした魔法の力――それは、研究者がキメラ・ウェポンの中で作りたかったものだった。破壊の嵐を生み出しているそれこそ、彼らの理想が形となったもの。


 災厄をまき散らしてながら、ゆっくりとした歩調で進む暗黒騎士。その禍々しい姿は、歩く鬼神、はたまた悪魔か。それが研究者たちのそばまで迫っていても、なお自分たちは安全なガラス越しに見ているかのようにその場に立ち尽くしていた。


 いよいよ危ないと、本能が正気を取り戻させた頃には、ある者は全身の震えで動けず、またある者は後ずさり、逃げようとした。


 だが逃げられなかった。暗黒騎士は研究者たちを次々に切り捨てていく。守備隊の魔術師がファイアボールやライトニングの魔法を暗黒騎士に放ったが、それらは大剣の前に容易く弾かれてしまう。割り込んだ守備隊兵士も、瞬く間に一刀両断され、屍と化す。


 漆黒の一団は、ドックから研究所へと踏み込む。立ち塞がる敵を容赦なく葬り去る。彼らに慈悲はなかった。



  ・  ・  ・



 時同じくして、シャドウ・フリートから飛び立った航空隊が、ジャハダ渓谷に侵入。その底にある、イーリャン研究所の地表施設への攻撃を開始した。


 警報が響き渡り、対空用の魔力式砲塔が、侵入する漆黒の機体へと砲身を掲げる。しかし予め位置を掴んでいたシャドウ・フリート、ゴースト戦闘攻撃機が先制の対地噴進弾を発射した。


 魔力砲の射程外から飛来した誘導弾を防ぐ手立てなどなく、研究所の空の守りは沈黙した。タロン艦爆、イールⅡB攻撃機が渓谷に沿って雪崩れ込み、爆弾やミサイルを流し込むように投下、地上施設を爆砕し、火の海へと変えた。



  ・  ・  ・



『キアルヴァル改二』艦橋。俺は戦況を見守っていた。

 航空隊は地上施設を完膚無きまでに破壊。残るは、潜入隊――ベルさんとシェイプシフター兵らの地下研究所の制圧である。


「エスメラルダ、揚陸戦隊に指令。地上掃討と、施設制圧の増援部隊を送れ」

「はい、閣下。……『トライアンフ』『コロッサス』、施設に陸戦隊を送れ。『ハーミズ』は待機せよ」


 シャドウ・フリートに所属するⅠ型改強襲揚陸艦は三隻。そのうちの二隻が、地上近くまで降下を開始する。


 Ⅰ型ライトクルーザーの船体を基本としつつ、後部に飛行甲板、艦の両舷に陸戦隊を収容する格納庫を有する。

 格納庫にはASないし戦車、陸戦歩兵隊を収容。改装した艦後部には少数の航空機や戦闘ヘリの収容、整備区画がある。

 一方で、艦首から艦の前部にある艦橋まではクルーザー型と同じため、プラズマカノンを装備し、こと前方から側面にかけては砲撃も可能となっている。


 陸戦隊を載せた揚陸艦が移動するのを、俺はじっと見やる。


 正直、緊張していた。先のオルドーク研究所を攻撃した際に、帝国がアンバル級を差し向けて、シャドウ・フリートを壊滅に追いやったのが思考の裏でちらつく。


 今のところ新手の気配はない。……来るなら来い。今回は例えアンバル級巡洋艦を差し向けられても、新生シャドウ・フリートのクルーザー群なら互角以上に渡り合える!


 その主砲であるプラズマカノンは、テラ・フィデリティアの標準型――すなわち、アンバル級と同じ威力のものだ。Ⅰ型クルーザーで、アンバル級と砲門数は同じ。Ⅱ型クルーザー二隻と、キアルヴァル改二は、三連装四基十二門と、アンバル級の八門を上回っているのだ。


 後は、こちらのクルーザーの数を上回る隻数か、アンバンサー母艦やテラ・フィデリティアの戦艦級が出てこないことを祈るくらいか。

 じりじりと経過する時間。座っているだけなのに、緊張感に苛まれる。俺は『その時』に備え、静かに待った。



  ・  ・  ・



 結果的に、ベルさんたち潜入隊が作戦を終えて撤退するまで、大帝国の増援は現れなかった。


 魔法軍特殊開発団の資料を回収し、施設を破壊。エツィオーグを移送したことになっている帝国クルーザーも派手に吹き飛ばした。

 エツィオーグたちは全滅した――そう判断させる偽装を済ませ、シャドウ・フリートは戦線を離脱した。


 さて、帰還したベルさんは、研究所で大暴れだったそうだが、彼はそこで気になるものを目撃した。


「アンバンサーの魔力吸収装置だって?」

「あぁ、キャスリング領のアンバンサーの地下基地で見ただろう? あれによく似た大型装置が、イーリャンの研究所にあった」

「……」


 古代機械文明時代に襲来した異星人。人間を糧にする天敵のような連中。その遺産が、帝国の研究所にあった。もっとも、帝国が使う魔器だって、元はアンバンサーの兵器を参考に作り出したもので、彼らが他にもアンバンサー技術を持っていても不思議ではない。


「だが問題は、そこじゃない」


 ベルさんは声を落とした。


「大帝国は、遺産を流用しているのではなく、自分たちでそれを作ったってことだ。……この意味がわかるか?」


 連中は、大勢の人間からまとめて魔力を吸収する装置を、自力で作り上げることができる。もし、それが量産化されたら……? 

 そこから起こるだろう、悪夢に思いを馳せ、俺は口を閉ざすのだった。

Ⅰ級改軽空母

全長:155メートル

武装:15.2センチ連装プラズマカノン×1

   8.8センチ単装光線両用砲×6

   単装ミサイル発射管×2

艦載機:48機(甲板駐機含む)

艦名:『セイバー』『トレイター』『ファナティック』



Ⅰ級改強襲揚陸艦

全長:150メートル

武装:15.2センチ連装プラズマカノン×2

   8.8センチ単装光線両用砲×6

   単装ミサイル発射管×2

艦載機:AS30機、ないし、戦車20両(甲板に同数搭載可能)

    航空機(または戦闘ヘリ)24機

艦名:『トライアンフ』『コロッサス』『ハーミズ』

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