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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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608/1976

第606話、浮遊島の視察


 浮遊島アリエスに、大帝国の空中艦。白亜屋敷の会議室にて、俺、エマン王、ジャルジーは密室会議中。

 俺は言った。


「ケーニギン領をはじめ、北方には警戒網を敷いていました。これは昨年の飛竜の飛来に対抗するために張られたものですが――」

「敵は東から来た」

「はい、陛下。といっても、今回の侵入は、浮遊島が王国に流れてきたので、そのまま越境してしまったものだと思われます。おそらく彼らは、侵入の意図はなかったでしょう」


 ただ――


「北方以外にも、目を光らせる必要はあると思います。現状の大帝国のヴェリラルド王国侵攻作戦は、北部侵攻案で決定していますが、警戒は必要です」

「王国の国境線を治める各伯爵、貴族たちに通達しておこう。他国からの不審な動きに警戒せよと」


 エマン王の決定に、俺とジャルジーは頷いた。


「大帝国に関して、ひとつ報告が。――敵は新型の魔獣を運用しています」


 物理攻撃も魔法もほぼ効かなかった漆黒の異形生物。そして無数に湧いた、四足魔獣の大群。


「これらが大挙攻めてくることがあれば、野戦においては苦戦は必至。新たに配備した75ミリ野砲や、VT-1戦車を集団運用したとしても、防ぎきれないかもしれません」

「なんと! そんなに敵の魔獣は強いのか!?」


 ジャルジーが驚愕した。


「四足魔獣に関しては、強い、というより数で攻めてくる。流れてくる水を手で押し止められるか? そういうことだ」

「むぅ……」

「ジンよ、対抗策はあるか?」


 エマン王は深刻な口調で問うた。当然だ。現状の軍備で阻止できない手段を敵が用いてくるならば、戦う前から負けが決まっているようなものだ。


「掃射魔法や、大規模爆弾……とにかく、面で掃討できる魔法や武器が必要でしょう」

「兄貴は、ズィーゲン平原で二〇万を超える敵の亜人を一掃した」


 ジャルジーは腕を組んだ。


「そういう魔法か武器が必要、ということだな」

「そうなるな」

「準備はできそうか?」

「できなければ、私が出張るしかないでしょうな。まあ、用意はしておきます」


 エクスプロード爆弾の強化版……燃料気化爆弾とか、ルプトゥラの杖とかな。


 さて、大帝国の脅威を煽ったところで、本題に話を戻そう。


「アリエスの制御コアは残念ながらロストしましたが、収穫もありました。テラ・フィデリティア航空軍の大型艦を確保、現在、制御下にあります」

「大型艦! それは、あのアンバルより大きい(ふね)か!?」


 ジャルジーが食いつく。


「本人は巡洋戦艦と名乗っている。まあ、戦艦といって火力は最強クラスといっていい」

「それは凄い! ぜひオレに欲しいものだ……!」


 はい、やっぱりというか未来の王様は自分のものにしたいようだ。使い方さえ誤らなければ、いいんだけどさ。十分使い方を学んでからだよ、ジャルジーよ。


「大帝国の脅威が迫っている今、王国を守る盾、いや剣として存分に働いてくれるでしょう」


 うむ、とエマン王も期待の眼差しを向けた。だがすぐに首をひねる。


「しかし、ジンよ。いま『本人は』と言ったか?」

「ええ、ディアマンテという名の制御コアがこの艦には存在するのですが、古代機械文明に刻まれた命令に従わないと力を発揮できないことが判明しました」


 俺は虚実交えて説明を行う。


 交戦規定というものがあり、それを破るような戦い方をすると、ディアマンテはその力を失ってしまう。その規定のひとつに、非武装の人間を襲わないという項目があり、彼女とその艦は防衛に本領を発揮するが、侵略には役に立たない。


 なにより一番の問題は――


「彼女を動かすには膨大な魔力を消費します。古代機械文明には、その供給する術があったのですが、現在はその技術がなく、一度戦闘を行うと、しばらく魔力回復のために戦線を離脱せざるを得ないという欠点を持っています」

「文字通り、切り札としてしか使えない、と?」


 エマン王もジャルジーも眉をひそめた。


「残念ながら、常時使っていたら、王国中の魔石を与えてもすぐに使い潰してしまうでしょう。できれば大帝国戦にその力を多用したかったのですが、それで王国が疲弊し戦えなくなっては本末転倒です」


 はい、誇張しています。


「諸刃の剣、ということか……」


 瞑目するエマン王。俺は同意した。


「はい。ただし、使いどころを見誤らない程度でしたら、この上ない戦力かと――あ!」

「どうした?」


 俺が唐突に声をあげたので、王と公爵は怪訝な顔をした。いや、俺も肝心なことを忘れていた。


「失念しておりましたが、いまディアマンテは長年の劣化により、戦闘不可能な状態。まずは艦を再生させる必要があります」

「……すぐには使えないと?」

「はい。春の敵の攻勢前までには、何とか戦線に出られるようにしたいと思っていますが……」


 そこを解決してから、というのをマジで忘れていた。気まずくて、俺は髪をかいた。

 エマン王は苦笑する。


「まずは、再生処理をするところからだな。任せられるか、ジン?」

「はい、陛下」


 アリエスの施設の再生を含めて、問題は山積みではあるが、ぼちぼちやっていかねばなるまい。


「では、浮遊島ならびにディアマンテと言ったか、その管理をトキトモ候に一任する。責任をもって管理せよ」

「承知しました」


 まずは、俺の手元に置くということになった。まあ、再生処置は、今のところ俺たちにしかできないから、仕方ないといったところか。

 ジャルジーがとても恨めしそう目を向けてくる。そうそう――


「それで、もしお時間がありましたら、浮遊島をご覧になられますか? 現在、ウィリディス軍により、安全を確保してありますが」

「うむ」


 エマン王が首肯すると、ジャルジーも席を立った。


「それを待ってた! 早くその島を見たいぞ、兄貴!」


 もうすぐ晩ご飯のお時間ですよ、というのは野暮というものだろう。結構、長く話し込んだな。


 その後、俺は、エマン王とジャルジー、彼らの護衛と共に、浮遊島アリエスに移動。万が一の敵残党の捜索と警戒をウィリディス軍が行う中、アリエス基地内を案内した。


 ディアマンテの言うとおり、中は相当傷んでいたりする箇所があり、遺跡じみた雰囲気をまとう。一方でドックや格納庫など、未来チックな姿を保ったままの場所もあって、とてもミスマッチだった。


 終始驚いていた王と公爵だが、俺の導きでディアマンテとも対面を果たしたのだった。

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