第605話、シップコア問題の解決策
ウィリディス軍は、アンバル級軽巡1、改アンバル級軽巡1、アンバル級改装強襲揚陸巡洋艦1、小型空母1、シズネ級ミサイル艇1を保有している。
これらは全てテラ・フィデリティア航空軍に所属した兵器系列であるが、純正のシップコアは二つしかなく、人工ダンジョンコアやそのコピーコアで動かしている艦もあった。
だから、俺としては、シップコアは浮遊石以上に欲しい。
「多くはありませんが、いくつかは保管されているはずです」
ディアマンテは答えた。
「あと空っぽのコアも。……中身のデータについては、私のデータをコピーして移植すればよいでしょう」
「え?」
データをコピーして移植――それはコピーコアのことか? 人工ダンジョンコアも、機能を限定して量産はしているが……。
「私は旗艦級の制御コアですから――」
笑みを浮かべるディアマンテ。
「入れ物さえあれば、シップコアを作れますよ」
それはただのコピーより上ではないか? シップコアを作れるというのなら。さすが艦隊旗艦! 他のコアとはひと味違うということだ。
「では、ぜひお願いしたい。何せ、アンバル級の一隻は、人工ダンジョンコアにやらせているくらいだから」
「人工ダンジョンコア……?」
銀髪軍人さんは首をかしげてみせた。
俺は人工コアの説明をする。人工ダンジョンコアとは、あくまで普通のダンジョンコアと区別するために俺が勝手に呼んでいるだけで、実際のところは名前が違うのだと思う。
古代機械文明時代の産だと推測できるが、俺は保有しているサフィロ、グラナテ、アグアマリナの名を明かした。
「アグアマリナ・シリーズは軍保有のコアですね」
ディアマンテが腕を組んで考える仕草。
「サフィロはシェルター管理型、グラナテは都市管理型のコアだったかと」
「ほぅ……」
単なる色違いではなかったということか。サイズが同じだから、外見の規格は同じなのだろう。
「シップコアの数が不足しているなら、それらの三つのコアに、シップコア機能をダウンロードしましょうか?」
そんなことができるのか? ディアマンテの思いがけない提案に目が丸くなる。
「共通規格ですから、余分なデータを付与されていなければ容量は足りるはずです」
実際に、グラナテにはすでにシップコア代理をさせている。この申し出は願ったり叶ったりだ。
・ ・ ・
仲間たちにディアマンテを紹介した。見目も麗しい銀髪美人の軍人姿に、みな一様に驚きつつも、そこまで劇的なリアクションはなかった。
すでに、ディーシーという天然ダンジョンコアが少女の姿をとったり、他のコアも人語を理解し、会話が可能なのを知っているからだ。慣れというのは恐ろしい。
何故か、そのディーシーが、ディアマンテに敵意にも似た視線を送っていたが。拗ねた子供のような態度から察するに、人型になれるダンジョンコアという唯一無二だと思われた特性を脅かされたからだろうか?
さて、ディアマンテの申し出にある、うちの人工ダンジョンコアたちの、シップコア機能アップデートを行う……前に、俺はウィリディスへと飛んだ。
今回の浮遊島の件をエマン王に報告するためだ。
テラ・フィデリティアの兵器が絡んでいるから、できれば秘密にしておきたかったのだが、最近、近衛にも王の手の者がいるかもしれないという話もある。隠そうとするのは、俺の身を危うくする。
ポータルでウィリディス屋敷につくと、ちょうど、ジャルジーと出くわした。
彼は忠臣であるフレック騎士長を連れていた。
「兄貴! そちらで戦車兵の砲術訓練をやっている時間だと思って、視察に行こうと思っていたところだ。ちょうどよかった、一緒に行かないか?」
公爵閣下の顔には、ピクニックに行く子供のような期待感がにじみ出ていた。
確かに、VT-1戦車の配備に向け、ケーニギンの兵士たちに野砲の操作と運用、戦車操縦の訓練を、トキトモ領で行っている。
なにせ、いまトキトモ領には人がノイ・アーベント以外にほぼいない。
派手な軍事演習をしても、よそ者に見られるとか騒ぎになることもないのだ。戦車だけでなく、戦闘機の訓練にも打って付けの環境である。
だが、タイミングが悪かったな。俺はこれでも急用なんだ。すっと視線を、ジャルジーの後ろに控える騎士長へと向ける。
「フレック、耳を塞げ」
「ハッ!」
騎士長は、何の疑いもなく素早く俺の指示を実行、自身の両耳を塞いだ。俺がこれから聞かれたくない話を彼の主人とするのを察したのだろう。
「……お前、オレが言うより反応が早くないか……うおっ!?」
腹心の部下に呆れるジャルジーの首に俺は腕をまわし、ホールド。そのまま彼を引きずるように移動する。
「な、あ、兄貴! いったい何だ――!?」
「いいか、ジャルジー。俺は今から王陛下に重要案件をご報告に行く。お前も興味あるだろう話だから、一緒に来い!」
「兄貴? 何があったというのだ? 重要案件?」
「聞いて驚け。伝説の浮遊島を発見したぞ!」
「なっ、ん、だと……?」
ジャルジーは面食らった。その間抜けな顔は、写真にとって残してやりたいと、ふと俺は思った。
・ ・ ・
エマン王は王城の執務を終え、ウィリディスの白亜屋敷にきていた。
ジャルジーを連れ、人払いをした会議室にて、俺は、浮遊島アリエスと、それに関する出来事を説明した。
伝説の浮遊島というワードは、ヴェリラルド王国の人間にとってなじみ深いが、あくまでおとぎ話として。実際に空に浮かぶ島など見たことはなかったから、エマン王にしろ、ジャルジーにしろビックリしていた。
「兄貴はずるい! 何故、行く前に誘ってくれなかったのだ!」
「話を聞いてなかったのか? 強力な対空砲火にさらされての強硬上陸だ。俺だって危険だから、無人機に突っ込ませたくらいだ」
「……」
「そんなぐぬぬって顔をしても、もう終わった話だからな」
俺は、ジャルジーを適当になだめ、エマン王に向き直る。
「残念ながら、ロマンチックな代物ではなく、浮遊島は古代機械文明時代の航空基地でした。伝説にあるような金銀財宝は確認できませんでした」
そして悪い知らせといえば――
「大帝国の空中艦が、我々より先に上陸していたこと。島を離れる前に撃沈したので、本土にこちらの存在が伝わることはないと思いますが……」
「大帝国は、我がヴェリラルド王国の空に侵入を果たした、そういうことだな?」
エマン王は何かに耐えるような目をしていた。敵がすでに侵入してきたことに、少々の怒りを感じている様子だ。
「由々しき事態だ」




