第604話、アリエス駐留艦隊
古代機械文明時代の遺産ともいうべき、テラ・フィデリティア航空軍の巡洋戦艦ディアマンテ。
その制御コアを名乗る銀髪の美女軍人さんから、『私たちをどうするのか?』と問われた。
それに対する俺の答えは――
「正直に言えば、大陸征服を目論む大帝国との戦争に、あなたの力を使いたい、と思っていました」
「いました、ということは、今は思っていらっしゃらないのですか?」
微妙な言い回しも指摘できるんだな、この制御コアは。
「今も思っています。ただ、ディアマンテ。あなたのように自らの存在理由を理解し、与えられたプロトコルを遵守しようとしているものに、戦いを強要はできません。……できないのではないですか? 人間同士の戦いに介入するのは」
人類の守護者であるテラ・フィデリティア、その人工知能である。俺の元の世界にあったロボット工学三原則みたいな縛りがあるのではないか……?
「いえ、我々にそのような原則はありません。私たち兵器は、それを使う主人の命じるまま敵を殺すのですから」
……ないそうだ。
「ただ、テラ・フィデリティア航空軍の軍規には、非武装の民間人は攻撃してはならない、というのはあります。これは人間、兵器問わず、守らねばならない規則です」
つまり、ディアマンテの言い分からすると、人間同士の戦争に参加可能。ただし、武器を持たない一般人は攻撃しない。……気に入った。
「では、大帝国との戦争には、あなたと艦を使う。私がそう宣言したら、参戦していただけますか?」
「それが、新たな主人である、あなたのご命令とあらば」
ディアマンテは、自らの胸もとに手を当てた。
「所有者あっての兵器。テラ・フィデリティアなき今、我々にその存在価値をお与えください」
「期待に添えるよう頑張ります」
結局のところ、俺が思い描いていたとおりの結末である。テラ・フィデリティアの巡洋戦艦、ゲットだぜ! ……と、素直に喜べればよかったのだが、これはこれでひとつの問題発生なんだよなぁ。
……エマン王にどう報告しようか。
ただでさえオーパーツの巡洋艦二隻その他をウィリディス軍が保有しているのに、ここにきて、さらに強力な戦艦まで入手したとあれば……そろそろ「よこせ」とか言われそうで怖い。
いちおう王国貴族になってしまった俺だから、国王陛下の威光に逆らい難くなっているんだよな……。
いまは良好な関係とはいえ、何かの弾みで軍や領地没収とか最悪な展開もないとも言い切れない。連合国で裏切られた過去があるから、どうしても不安になるんだよなぁ。
「トキトモ閣下」
「……ん? 何でしょう、ディアマンテ?」
「我々は兵器です。主人の命令に従い、敵を撃ちます。ですが、テラ・フィデリティアの軍規は私たちの行動を縛っています。つまり、非武装民間人への攻撃は行いません。その意味は、理解していただけますでしょうか?」
さっきもそんなことを言っていたな。この部分、かなりこだわりがあるのだろうか。
「……侵略はしない、ということでしょうか?」
俺が言えば、ディアマンテは薄く笑みを浮かべた。
「人類を守る、というルールは厳守します。その点、大帝国に砲を向けることは、そのルールと矛盾しているようですが、その大帝国の侵略行為が、多くの民間人への攻撃、暴力を繰り返すことは人類を守護するという見地から見過ごすことはできない事態と言えます」
「非武装民間人を攻撃する大帝国に対しては、ディアマンテ、あなたの参戦は正当化される……?」
「その通りです、閣下」
ディアマンテの目が光る。
「閣下のもとで全力で働くためにも、くれぐれも、民間人への攻撃などをお命じくださらぬよう願います。……もちろん、それを決めるのは、閣下ご自身ではあるのですが」
命令には従う。けれど本来できないことを無理にさせて、負荷をかけないでね、という解釈でいいかな? バグって後ろからあなたを撃つかもしれないよ――と、までは言っていないが、まあ、その心配は無用だ。
「私は多忙だが、本当なら、田舎でのんびり暮らしたいと思っている。よそからの侵略には断固立ち向かうが、自ら侵略者になるつもりはありません」
自信を込めて宣言しておく。
すると、ディアマンテはクスリと笑った。
「いえ、失礼。私の歴代の艦長の中に、あなたと同じようなことを言った方がいましたので――。トキトモ閣下、あなたはテラ・フィデリティアの正当な後継者かもしれませんね」
侵略者と断固戦い、人類を守る。それがテラ・フィデリティア航空軍である――と、ディアマンテは席を立つと、踵を鳴らし、俺に敬礼をした。
・ ・ ・
その後、俺はディアマンテに連れられて、航海艦橋へと上がった。
「見た目は綺麗ですが、艦体各部の劣化が激しく、即時の作戦行動は不可能な状態です」
「外から見たときは、そのようには見えませんでしたが……」
あと艦内も俺たちが通った場所は、清掃が行き届いているかのように綺麗だった。
「これでも元艦隊旗艦ですから。お客様をお迎えするのに、だらしのないところを見せるわけにもいきません」
ディアマンテは、まことに女性らしく言った。本当に制御コアなのかね。ダンジョンコアから擬人化するディーシーも、このあたりは見習ってほしいものだ。
「現在の状況は、閣下のお話から確認いたしました。アリエスの制御コアは、敵に奪われ、この基地は漂流状態。そちらは私のほうでバックアップできますので、アリエスの高度を上げ、さらに擬装モードを起動させます」
「大帝国の艦艇は、高高度に上がってこれない」
それだけで、この浮遊島を守ることができる。頷くディアマンテ。
「私は艦隊旗艦ですが、手元に艦隊は残っておりません。私のテラ・フィデリティアでの最後の記録は、戦闘による損傷の修理のため、アリエスへ寄港したところで止まっていますから」
その後のことは記録に残っていないと言う。テラ・フィデリティアとアンバンサーの大戦がどのように決着がついたのかは知らないらしい。
「アリエスに残っている艦艇は、私を除けば、中型空母が一隻。それとタイプの異なる二隻の輸送艦のみとなります」
「空母……! あるのですか?」
それは大収穫と言えるのではないか。航空機を運用できる移動基地。ウィリディス軍にも小型空母があるが手作り。中型というのが気にはなるが、本格的な空母が手に入るのは嬉しい。
「アンバル級の船体を利用した改装空母です。残念ながら艦載機搭載数は、正規の母艦の中では最小部類に入りますが……」
……うん、さすがに空母としては、そこまで優れたものではなさそうだ。空母は空母だが、そう何もかも都合よくはいかないということだろう。……大型空母、欲しかったな。
ディアマンテの話では、これらの残存艦も再生処理を施さないと使えないらしい。魔力を大量に調達しないと、春までには間に合わなさそうだ。
アリエス基地には、他にテラ・フィデリティア航空軍の戦闘機やその他航空機が数機、基地守備のガードメカらが残っていたが、これらも整備しないと使えないという。稼働状態のガードゴーレムは、大帝国の調査隊と交戦し破壊された。
「それで、このアリエスには、シップコアの余剰はありますか?」
俺は問うた。浮遊石でもいいのだが、とくにシップコアが所有艦船の数より少ないため、その能力が大きく制限されているのだ。




