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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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605/1975

第603話、巡洋戦艦ディアマンテ


 ポカーン……。


 俺は、目の前の光景が信じられなかった。

 アリエス一番ドック。グレーの艦体色の巨艦が鎮座している。

 アンバル級と同様、全体的に細長い艦体。だがその大きさは、余裕の250メートル超えで、さすが戦艦と言わしめる迫力があった。


 背負い式の連装砲塔が艦首方向、上下に二基ずつ。艦尾側にも上下に一基ずつ備え、その口径もおそらくアンバル級の二、三倍くらいはあるだろう。


 と、実際のところ、巡洋戦艦の外観に驚いたわけではない。いや、少しは驚いたのだが、それよりもさらにびっくりしたのは、艦に乗り込むための舷梯(げんてい)に、人が立っていたことだ。


 銀色の長い髪を後ろに流した女性。二十代半ばから三十代、怜悧な雰囲気をまとうその人物は、士官用軍帽をかぶり、灰色の軍服を身につけていた。どこから見ても、近代の軍人さんだった。


 その女性士官は、俺のほうをじっと見ている。こちらへ来いということで間違っていないだろうか。

 俺は、護衛のシェイプシフター兵と共に舷梯へと向かう。……それにしても、やはり大きな(ふね)だ。


 ちなみにこの場にアーリィーたちはいない。罠ではないと思うが、何かあった時に上の人間が揃っていなくなったりすると面倒なので、アリエスの司令部にてこちらの様子をモニターしている。


 舷梯を登り、いよいよ巡洋戦艦に乗艦――の前に、出迎えの女性士官の前へ。さっと彼女が敬礼をしたので、俺もとっさに答礼。よくある軍隊式の、挙手の敬礼というやつだ。世界は違っても、人間の考えることって似るんだな。


「テラ・フィデリティア航空軍、第二艦隊旗艦『ディアマンテ』へようこそ」


 女性士官は精悍な表情を崩すことなく、ハキハキと告げた。

 どこからどう見ても、人間だよな……? 古代機械文明時代の人間、その子孫か。いや、もしかしたらアンバンサーの時のように、コールドスリープか何かで生き長らえていた人かもしれない。


 と、俺も突っ立っているわけにもいかない。


「出迎え、感謝いたします。私はヴェリラルド王国、トキトモ侯爵領領主、ジン・トキトモと申します。ウィリディス軍の司令官を務めています。……乗艦を許可していただけますか?」


 一瞬、女性士官の目が宙をさまようように動いた。だがそれも刹那だった。


「侯爵閣下であらせられますね。失礼いたしました。私は当艦の制御コア、『ディアマンテ』。もちろん、閣下の乗艦を許可いたします」


 そこでディアマンテと名乗った女性……いや制御コアは小さく微笑んだ。


「ご覧のとおりの人間ではありませんので、申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします、トキトモ閣下」


 ……人間にしか見えないんだが。ダンジョンコアが擬人化したディーシーという例があるとはいえ、コアを名乗る存在が人型というのは、やはり驚くしかない。

 こちらへ――と、ディアマンテは俺を艦内へと(いざな)った。 



  ・  ・  ・



 巡洋戦艦『ディアマンテ』号の艦長室。歴代の艦長が使ってきたという部屋は、いたって普通の個室といった感じで、机や椅子や簡易な書棚の他、応接用のソファーなどがあった。


 ディアマンテは、壁に埋め込まれた機械を操作しながら「コーヒーはいかがですか?」と聞いてきた。


「こちらでは魔力、と言うんでしたね。その生成品ではありますが――」


 差し出されたコーヒーは、なるほど、俺がウィリディスでお世話になっている魔力生成品だった。共通点が見つかり、親近感を抱く。


 魔力生成での食材や料理作りは、ウィリディスでもやっていると言ったら、ディアマンテも「そうですか!」と柔和な笑みを浮かべた。


 それからは、これまでの話。テラ・フィデリティアが存在していた頃より、長い年月が流れた現在と、その世界について。

 俺はディアマンテに語った。……といっても、俺自身、さほどこの世界の歴史に詳しいわけではないが。


 そして現在の情勢。大陸支配を目論む大帝国とそれに対抗する国々。ここヴェリラルド王国。忘れてはならない。最近のアンバンサー戦役についても。


「アンバンサー……」


 案の定というべきか、異星人の名前が出たとき、ディアマンテの表情が険しくなった。


「その存在を察知していたなら、すぐに駆けつけねばなりませんでした」


 それがテラ・フィデリティア航空軍の存在理由。

 幸い、アンバンサー戦力は、俺たちウィリディス軍とヴェリラルド王国軍により壊滅した。


「今のところ、奴らが再度現れたという話はありません。正直にいえば、あなた方テラ・フィデリティアがアンバンサーと戦っていたのは、遙か昔の話。今現在、奴らがどうなっているか、知る術はありません」


 俺は、コーヒーを口に運ぶ。ウィリディスでの生成品より苦味が強い。だが喋って喉が渇くので構わず飲む。


「案外、先日現れたのが、この世に存在した最後のアンバンサーだった可能性もある……」

「そうであることを願います」


 ディアマンテは瞳を閉じた。


「テラ・フィデリティアも今や存在しません。私たち兵器は、アンバンサーや侵略者から人類を守護するのが存在理由。そう考えるなら、私たちはこのまま静かに眠っているべきなのかもしれませんね」

「……」


 あわよくば、古代機械文明の戦闘兵器を対大帝国戦に投入できたら、と考えていた俺である。


 しかし旗艦制御コアともなると、人間のように考え、自らに与えられた使命、規範を守ろうとしているように思う。


 そうなると、ちと、ディアマンテは諦めたほうがいいかもしれない。人類を守護するという存在理由から推測するに、おそらく人間同士の戦いには、関わり合うことをよしとしない気がする。


「――それで、トキトモ閣下にお伺いしたい」


 ディアマンテは背筋を伸ばした。


「あなたは、もしくは、あなた方ヴェリラルド王国は、私たちをどのように扱うおつもりですか?」

「どのように、とは?」


 俺が考えていたことを読んでいたかのようなタイミングだった。まさか心が読めるとは思えないが、慎重にもなる。


「先ほど申し上げたとおり、テラ・フィデリティア航空軍はすでに存在しません。私たちの主人はなく、その所有権は、私たちを発見し、こうして交渉しているあなた方にある」

「……つまり、航空艦、それも巡洋戦艦というオーパーツを手に入れて、何をするのか、させようとしているのかを知りたい、と?」

「左様です、閣下」


 所有権云々と言い出したか。冒険者ルール、ダンジョンで回収した物は、その回収者のモノになる――まさか、これもそのルールに該当するんだろうか?


 俺は、じっと、ディアマンテの顔を見つめた。

ディアマンテ級巡洋戦艦:テラ・フィディティア航空軍で使用されたバトルクルーザー。戦艦級の火力と、巡洋艦並みの高速性能を誇り、高速戦闘艦隊を編成、アンバンサー軍と交戦した。


※艦隊旗艦を務めるディアマンテのシップコアは旗艦コアという上位型にアップデートされており、指揮下の艦艇のシップコアを従属回路により、同時制御が可能である。



全長:271メートル 

機関:インフィニーエンジン(魔導機関)Mk-Ⅸ

武装:35.6センチ(14インチ)連装プラズマカノン×6

   5インチ高角連装光線砲×20基

   40ミリ光線機銃×24基

   5連装ミサイルランチャー×4基

   8連装ミサイルランチャー×3基

艦載機×8

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