第602話、謎の交信
大帝国の巡洋艦は新型らしい。俺は寄せられた報告に、いささかの驚きを受けた。これはSS諜報部に問い合わせてみる必要があるな。
敵艦の処理は航空隊に任せ、俺たちは、すでに出現してしまった敵四足魔獣の掃討を行った。
供給元を絶たれ、もはや増えないとなれば、潰していくだけである。平地に出てきたところをレプス戦車隊が戦車砲のつるべ打ちを喰らわせ、ユナが複数同時のエクスプロージョン爆撃を敢行して、敵を焼き払った。……また新技を編み出してたな、この巨乳先生。
平地では、魔術師の大魔法は重砲支援の火力に勝るとも劣らない。ただし射程は大きく劣る。
大方、処理が終わった頃、航空隊からも報告が入った。
敵巡洋艦は大破。飛び立つ前に後部のエンジン部分を攻撃し破壊。行動不能になれば拿捕もできると思ったようだが、敵艦は自爆を行い、機関部や艦橋、砲を爆破したとのことだった。
逃げ切れない。だが機密は渡さない、ということだろう。浮遊島に来ていたくらいだから、もしかすると敵は特殊部隊だったのかもしれないな。
シェイプシフター中隊、バイカースカウト、パワードスーツ隊には、残敵がいないか捜索させる。ベルさん、リーレ、リアナは、例の逃げた異形のこともあり捜索に加わる。またディーシーにも管制塔周りを引き続き目を光らせてもらった。
それを除けば、いちおうアリエス拠点の作戦は終了である。
ではでは、攻略後のお楽しみ、探索タイムである。古代機械文明時代の浮遊島である。何らかの発見はあるだろう。
軽巡グラナテから、ダンジョンコア『グラナテ』を引っ張り出し、とりあえずアリエスの制御コア端末にセットし、現在の状況確認と、設備の最低限の電力供給などを行わせた。
アリエス基地は、構造こそ違えど、キャスリング基地のような主な軍事関係施設が一通り揃っていた。
ウィリディスでは魔力を変換して、物を作るのだが、その機械版というべき生成装置が見つかった。古代機械文明でも、魔力を利用して物を作っていたという確かな証拠の品の発見といえる。
整備工場、実験場、倉庫に格納庫、艦船用ドック、レーダーに防空砲台などなど。居住区もあるが、この浮遊島自体が軍事基地として使われたのは間違いない。このアリエスも、アンバンサーとの大戦を経験したんだろうか……。
しかし、これら施設も、さすがに時代の経過から劣化が激しい。一方で、防空砲台関連の施設が、最近、というか昨日、再生処理がされて新しくなっていた。
どうやら、大帝国の調査隊が、アリエス・コアを使って施設再生をやってみたようだ。……まったく、再生するなら砲台以外のところにしてくれれば、もう少し楽に島に辿り着けたのだが。
偵察機1機と、ポッド10機の喪失分を返せ、と言いたい。
おかげで、基地内の魔力残量がほぼなくなっており、魔力の充電回復を行わないと、新たに施設の再生処置ができなくなっていた。本当、連中はいい仕事をしていったよ。
とりあえず制御室――正式にはアリエス基地司令部というらしい――に、魔力再生を施して、司令部内だけでも綺麗にして稼働状態にした。
すると、ここで思いがけない事態が発生した。
テラ・フィデリティア航空軍のIFF、つまり敵味方識別装置による問答が、司令部のグラナテ、軽巡アンバルに対して行われたのだ。
同様の信号をコピーコア搭載のトロヴァオンや、パワードスーツのゴーレムコアも受けたが、テラ・フィデリティアのコードを持っていないため返答できず、返信したのは軽巡アンバルのみだった。
アンバルのシップコアから、司令部宛てに『第二艦隊旗艦コアが、本艦と交信を求めています。返信はどうしますか?』と問い合わせがきた。
えー、と……。司令部にいる俺は、アーリィーやユナと顔を見合わせる。どうしよ?
第二艦隊旗艦だって? テラ・フィデリティアの生き残り……? いやいや大昔過ぎて、その生き残りがいるとは思えないのだが。
コアとか言っていたから、無人艦隊みたいにどこかで身を潜めていたってオチか?
とりあえず、アンバルには説明できるものならやってみろ、とその旗艦コアとやらとの交信を許可した。
いったいどこと話をするんだろう、と思って結果を待とうとするが、グラナテが交信位置を特定するのが速かった。
『アリエス一番ドックに停泊中の艦艇と、交信の模様』
「一番ドック……」
この浮遊島アリエスに艦船用ドックがあるのは知っていたが、まだ実際に足を踏み入れていない。だがそこにテラ・フィデリティアの軍艦が残っている!
「艦種はわかるか?」
『テラ・フィデリティア軍のデータが不足しているため、「アグアマリナ」に照合させます』
グラナテがそう告げ、キャスリング基地の人工コアと通信を試みる。
『判明。ディアマンテ級巡洋戦艦1番艦「ディアマンテ」。テラ・フィデリティア航空軍第二艦隊旗艦』
巡洋戦艦――俺は思わず両手を頭に乗せた。そんな俺の驚き方が珍しかったのだろう、アーリィーが「ジン?」と首をかしげた。
「その『じゅんよう、せんかん』? って何?」
「俺の知識によると、だ。バトルクルーザー。巡洋艦の上位版、超巡洋艦なんだが――」
元の世界ってのは伏せつつ、しかしそこでの記憶を掘り起こす。ミリタリー好きでよかったこの瞬間。
「戦艦並みの攻撃力を持ち、巡洋艦並みの足の速さを誇り、その分、装甲は巡洋艦並みという艦種で、まあ、戦艦以下、巡洋艦以上というところか……」
「……よくわからない」
アーリィーが眉をさげ、ユナは、相変わらずの無表情で言った。
「戦艦というのは、一番大きくて強いフネのことですよね?」
「まあ、砲力の上ではそうだ。ただ巡洋戦艦って名前から、巡洋艦というより戦艦寄りの扱いをされる」
例えるなら、火力は同等、足の速さは巡洋戦艦が上、装甲は戦艦が上といったところだ。まあ、あくまで一例であって、国によって扱いや性能のバランスも違うんだけどね。
とか言っていたら、アンバルから、俺宛ての通信がきた。
『第二艦隊旗艦が、ウィリディス軍の指揮官と話がしたいと言ってきています』
「了解した。お受けしよう」
断る理由がなかった。旗艦コアというのが果たして何なのかも気になるが、テラ・フィデリティアの遺産のひとつと言えるだろう。
アンバル同様、こちらでその力を奮ってもらえるなら、大帝国戦での活躍も見込める!
『承知しました。艦隊旗艦は、アリエス一番ドックにて司令官をお待ちします、とのこと』
……俺を、待っている?
てっきり、通信機ごしに挨拶かと思ったのだが……。まあ、いいか。グラナテが割り出した通信の発信源と場所は一致しているし、罠ということもあるまい。
「行くのですか?」
ユナの問いに、俺は「もちろん」と答える。
「ついでに、ディアマンテ級巡洋戦艦の姿を拝んでくる」
はたしてどんな姿をしているのか。ちょっと期待して席を立ったら、グラナテが気を利かせて、近くのホロパネルに、件の巡洋戦艦の外観図を表示しやがった。さっきアグアマリナから受け取ったデータなのだろうが――
……あー、そう、うん。
せっかくのワクワクが台無しだよ!




