第448話、領域の守護者
スフェラが斥候のシェイプシフターを放ち、同時に雑魚モンスターを掃除したので、進むのが楽になった。
「主様、目標の魔法甲冑を確認。同フロアに岩色の肌を持つ巨人種族が一体います」
小型偵察体からの報告を、スフェラが俺たちに知らせた。想定どおり、巨人族がいた。マッドがスフェラを見る。
「甲冑の様子は?」
「巨人によって分解されているようです」
「分解……」
マッドが絶句し、俺もまた言葉を失った。ベルさんが首をかしげる。
「新しいおもちゃはお気に召さなかったらしいな」
「分解――」
三角帽子の魔女エリサが顎に手を当てる。
「ねえ、スフェラ。分解というのはどういうことかしら? ベルさんの言うように気に入らなくて壊しているのか、それとも、調べようとして解体しているのか?」
「お待ちを」
スフェラは目を伏せる。俺たちは顔を見合わせた。エリサが妙なことを言っている。巨人が魔法甲冑を調べようとして解体だって?
「どういうことだ?」
「だって分解って言っても、いろいろな意味にとれるじゃない?」
「相手は巨人だろ?」
リーレが鼻で笑った。
「脳みそまで筋肉な蛮族だと思ってるんだけど、違うのか?」
「巨人族だって、頭のいいやつはいるものよ」
エリサは穏やかに答えた。
「とくに妖精族にも分類される巨人となると、魔法は使うし、結構やっかいだったりするのよ」
何だろう。俺はフラグが積み上がってくように感じる。……今回の巨人はそれだと?
「報告します」
小型分身体と連絡をとっていたスフェラがパッと目を開けた。
「巨人族、フロアからロスト」
「……消えた?」
「どういうことだよ!?」
「おそらく魔法の類いかと。目視確認できなくなりました」
さっそくフラグ回収ってか?
「ただ消えただけなのか、それとも転移か?」
俺はエリサに問えば、彼女はその麗しい唇に指を当てた。
「妖精族なら転移も可能だけど、巨人族で……もし、魔法甲冑を解析しようとしているのだとしたら、そいつは」
トロールか、スプリガン――
そうエリサが言ったまさにそのとき、背筋にぞくりとしたものが走った。
振り返る。ゆらり、とそこに見慣れないモノが立っていた。
巨人ではない。一メートル半程度の高さのドワーフのような姿。手にした巨大な槌――え?
俺、なんでいまこいつをドワーフみたいだって思ったんだ?
「気をつけて!」
エリサが叫んだ。リーレが反射的にグローダイトソードで、ソイツに斬りかかった。が、漆黒の魔法剣は空を切った。
「あ……?」
ドワーフに見えたそれは消えた。だが巨大なシルエットが浮かび上がり――
「リーレっ!」
ベルさんの警告と同時だった。巨大な槌がリーレの上半身にぶつかり、彼女の身体を吹き飛ばした。岩の壁に人体が当たる鈍い音が響き、ひびが入る。
槌を持って立っていたのは先ほどのドワーフもどきではなかった。全高3メートルを超える岩色肌の巨人だった。ギロリと黄色い目が電灯のように光る。
「醜い顔!」
ベルさんが叫ぶと、マッドと、先導から戻ってきたリアナがライトニングバレットを連続して叩き込んだ。
光弾は数発確実に巨人の頭や肩に当たった。一瞬ひるんだかに見えた巨人は、次の瞬間、塵のように消える。
「間違いないわ、スプリガンよ!」
くるわよ、とエリサ。
狙われたのは、マッドだった。瞬きの間に、彼の身体に影が降りる。大槌を振り下ろさんと構えた一撃に、とっさに身構え避けようとしたが手遅れ。
俺が魔法障壁を張らなければ、ね。
ガキンと大槌が見えない壁に当たり跳ね返った。その反動の隙を、ベルさんは見逃さず、デスブリンガーで巨人――スプリガンの背中を襲った。
そのとき、パチリと何かの音がした。
刹那、俺の目の前にデスブリンガーの刃が迫っていた。
「おおっと!?」
「な!?」
とっさに身体をひねり、紙一重で突きをかわした。ベルさんも兜の奥で驚きの声を上げた。
「あぶねぇっ!? なんでお前がいるんだよ!?」
「はぁ!? 突っ込んできたのはベルさんだろうが」
「二人とも落ち着いて! チェンジリングよ!」
エリサの声。
チェンジリング。それって俺の世界じゃ、妖精が人の子供をさらって別の子供や妖精を置いていくってやつだったような。
「入れ替えの魔法か!」
ベルさんが歯がみした。あ、そういう意味なのか。スプリガンが、自分と俺の位置を入れ替えたために、俺がベルさんの攻撃を受けそうになったということか。何それ、厄介。
「って、そのスプリガンは――ベルさん、後ろだ!?」
俺とベルさんをまとめて潰そうと、スプリガンが大槌を振り上げる。だがそこを銃を持つ二人が射撃し阻害する。光弾は当たっているのだがダメージを与えたようには見えない。
スプリガンが槌から片手を放して振った。すると洞窟内に風が吹き荒れ、周囲の者たちがひるんだ。風の魔法か!
吹き飛ばされそうな暴風を受けて、リアナとマッドが後退させられる。
「……後ろがお留守よ、妖精さん」
フッとエリサがスプリガンの背後に浮いていた。その背中には悪魔の羽根。
「こんな形をしているけれど、この子、幽霊に近いのよね……」
すっとエリサがスプリガンの背中に触れる。するとスプリガンが悲鳴を上げた。その巨体がみるみる小さくなっていき……その身体も薄くなっていく。
やがて、スプリガンは大槌を残して消滅した。羽根を羽ばたかせながらゆっくりと降りたエリサは、ずれていた三角帽子の位置を直す。
「どう考えても悪霊の類いの精はまずいわね。顔の醜さは精の味にも影響するのかしら?」
「あー、エリサさん?」
何かやったのは間違いないのだが、何をやったのだろうか。
「吸精」
エリサは妖艶に微笑んだ。
「それの応用で、妖精の身体を構成している魔力を吸い取ったのよ」




