第342話、ベルさん、やらかしてしまう
シェイプシフターはよく働いた。
姿形の杖の使役する黒スライムたちは、食事の時間を除けば不眠で活動を続けた。それでいて作業効率が落ちることもなく、確実な仕事をやってのけた。
……正直、ブラック企業がもっとも欲しい人材じゃないかね、このシェイプシフターたちは。24時間働けます、な勢いで、食事以外に給料もいらず、文句も言わない。
とはいえ、働き続けることで身体から不純物が形成されて排出されていたが。なくなった分を補充する形で食事――つまり捕食して補っている格好だ。
彼らは、疲労した部分を自らの細胞の変身、つまり作り変えて再生させているのだが、それが不可能になった部位を不純物として吐き出しているらしい。
あまり食事しなくても身体が持つシェイプシフターにしても、やはり動き続けていると消耗するということだ。
そんなシェイプシフターたちの労働の末、スピアヘッドの飛行データ、有人機を模したシェイプシフター戦闘機の運用データなどをもとに設計された戦闘機が、魔力生成による素材と合わさって完成した。
TF-2ドラケン。
全長14.8メートル。全幅8.6メートルの機体は、真っ直ぐ伸びたボディに単座のコクピット、胴体中央に二基の空気の吸気口、後部へと伸びる二枚の主翼と一枚の垂直尾翼、一基の魔石エンジンとそのノズルから形成される。
ちなみに、TF-1は楔形の胴体を持つシェイプシフター戦闘機であり、名前は『ファルケ』である。意味はドイツ語で鷹だ。
「それで――」
ベルさんが人間形態で、完成したTF-2――トキトモ工房製戦闘機を腕組みしながら見つめる。
「ドラケンってなんて意味なんだ?」
「スウェーデンって国の言葉で『ドラゴン』って意味だよ。ドラゴンはワイバーンより強い、だろ?」
「いいねぇ、気に入った」
「おや、ベルさん。ひょっとして戦闘機に興味が?」
「なに、馬鹿でかい空トカゲとやりあうかもしれないんだろう? オレ様も戦闘機ってやつを今のうちに体験しておこうと思ってよ」
浅黒い肌、屈強な体格をした人型ベルさん。その身体なら操縦も可能だろう。いきなり操縦できるものでもないのだが、まあ、コピーコアのアシストがあれば飛ばすくらいなら問題ないか。もともと空を飛べる御仁だから、イメージは他の誰よりできてるだろうし。いやはや、頼もしいね相棒。軽くグータッチ。
「じゃあ、さっそく試運転するかね」
今日は学校も休みだからね。朝から飛ばせるぞ。
・ ・ ・
初めから模擬戦をするとか、そんな派手な機動をするつもりはなかった。
最初期ロットである一号機と二号機は、工場で組み上がったばかりの新品だ。地上での機械動作に問題はなかったが、飛行自体は初だから、安全には気を使って飛んでみる。
実際、ドラケンはスピアヘッドに比べ、速度も遜色ない上に運動性に優れ、操縦桿の動きに素直に反応を示した。パイロットへのGの負担も加速補正器が効果を発揮して、前回に比べてはるかに楽だった。
だが、ヘリにも未搭乗で飛行機に対して初だったベルさんは……やらかしてくれた。
墜落はしなかったし、彼自身ピンピンしているのだが、搭乗したドラケン一号機をオシャカにしてくれたのだ。
一度目の飛行は試運転。二度目に本格機動。順調ならその次あたりで軽い空中戦でも、と思っていた俺の思惑は完全に崩れた。
「ベルさん!」
「だってよ、自分の翼で飛べないのがこんな不自由だとは思わなかったんだよ」
ベルさんはまったく悪びれなかった。
俺は、魔王さまが乗ったドラケン一号機だったものをじっと見つめる。
完成したばかりの制空戦闘機は、空を飛んでいる間にベルさんの手で魔改造されてしまった。
なんと黒猫魔王は、飛行中に自身の魔力を機体に流し込んで、その構成を作り変えるという離れ業をやってのけたのだ。
地上に降りた後は、もとの形に見えるのだが飛行中は主翼が大きく禍々しくなっていたし、勝手に可変翼にしてしまいやがった。
スピードも俺の操縦する二号機を凌駕し、空中での旋回や上昇力など、普通にやったらGで中の人間くたばってしまうような恐ろしい機動を平然とこなしやがった。
中の人間はやわいと以前言った気がするが、高いGにさらされれば機体のほうもガタがきて、最悪空中分解だってありうる。
だがそれに対しても、ベルさんの大魔王魔力により機体の強度からまったく別物に作り変えられていた。中のコピーコアも、限りなくダンジョンコアに近いレベルに改造して。
だがコピーコアに関しては、ベルさんは謝罪した。
「いや、作り変えたらコアが壊れてしまってな。オレ様のレベルに耐えられるように作り直した」
……やらかしてくれたんじゃないか、ベルさんよ。これで「オレ様何かやったか?」とすっとぼけやがったら、ぶん殴っているところだ。
「とはいえ、俺はベルさんに文句は言わないよ」
できたばかりの新品を一機潰されてしまったことには、文句のひとつも言いたいところであるが、物事はいいほうに考えるべきだ。
新品1機と引き換えに、普通にやっていたら手に入らない高性能戦闘機を手に入れた。しかもパイロット側の魔力を投入することで機体のポテンシャルを引き上げるという、俺の中の戦闘機像の概念を壊すアイデアまでもらえたのだ。これは今後の戦闘機開発に活かせば、より優れた機体を作ることもできるようになるだろう。
「ベルさんは天才だ」
「お、おう……」
魔改造されたドラケンは、ベルさん専用としてくれてやる。おそらく他のドラケンや、次に作る戦闘機よりも性能は優れているし、そもそもベルさんにしか扱えないだろう。
「次の戦闘機とか言ったか?」
「ああ、ドラケンは制空権をとるための戦闘機だけど、それとは趣きの違う戦闘機を用意しようと思ってね」
「ドラケンとファルケだっけか。もう二つもあるのに、さらに作るのか?」
「ファルケは今のところ無人仕様。飛び道具はサンダーキャノン二門のみ。ああ、いちおう用意している対飛竜噴進弾も二、三発載せるが、小型だからスペースがなくてね」
俺は、格納庫に駐機されている三角形の機体――ファルケを眺め、それからドラケンを見る。
「ドラケンも飛竜などとのドッグファイト用に作った機体で小回りが利くが、運用面では航続距離に不安があるし、噴進弾も翼下に6発程度かな……。それにエンジンが単発だ」
「エンジンが一つじゃダメなのか?」
ベルさんがドラケンに触れながら言った。
「単発だとエンジンがトラブルを起こしたらほぼ墜落確定だからね。軍用機だとエンジンは二基搭載して、片方がトラブっても墜落しないようにするのが望ましい」
コストの問題で単発の航空機もかなりあるけどね。多少の重量増加はあっても、理想を言えば双発にしたい。
「TF-3は魔石エンジンを二基搭載する。スピードはドラケンにも負けないが、空中格闘能力では及ばない。だけどその分、噴進弾はドラケンの二倍以上は載せたいね」
あと航続距離も。その分、機体は重くなるだろうから、それが格闘能力でドラケンに勝てない要素のひとつなんだが。
「まあ、空中戦は格闘戦だけじゃないからな。一撃離脱、遠距離からのアウトレンジ――スピードや運動性が、戦闘力のすべてじゃない」
まだまだやることは多い。フォルミードーが来てしまう前に、最低限の戦力は揃えておきたいところだ。いや、来るかわからないけど、来るものと見たほうがいいだろう。
あと、対飛竜噴進弾――要するに誘導ミサイルも数を揃えないといけない。




