第341話、補正装置とミサイルウェポン
スピアヘッドの加速は申し分なかった。というか比較対象の航空機が存在しないので、感覚的なものでしか語れないが、ベルさんの飛竜形態よりも断然スピードがあっただろうことはわかる。
これならば敵飛竜に追いつき、または引き離すことも余裕でできるだろう。そういえば飛竜の時速って平均何キロくらいなんだろうね。
加速を優先させただけあって、舵の利きはよろしくなかった。一方で後部にある二枚の垂直尾翼により、ラダー操作は充分で、直進させるのは苦ではなかった。
しかしわかっていたような気でいたが、加速によるGは俺の予想以上だった。旋回性能が劣悪だったのは、ある意味幸運だった。もし調子に乗って振り回したら、Gで失神していたかもしれない。コピーコアが搭載されているから、パイロットの意識不明による墜落なんてこと自体は起きにくくなっているが……。加速しすぎて人間が死ぬこともあるのを思い出した。
人間の身体というのは、やわいのだ。
その点、シェイプシフターやコピーコアはこの程度のGなど問題としない。……なるほどね、無人機がもてはやされるわけだ。
地上に降りた後、見ていた面々からの祝福をよそに、俺は早速課題点を告げ、機体の改良と対G対策に乗り出した。
ちなみに、Gの話をしたら、ベルさんがこんなことを言った。
「そりゃお前、鍛え方が足りないからだよ」
加速の重力に耐えるなら、身体を鍛え、独特の呼吸法を学べば強くなるぞ、と。さすが自力で空を飛ぶことができる大悪魔さまだ。……そういえば、悪魔ってやつは、どこまで加速のGに耐えられるんだ?
ちょっと突っ込んでみたら、「そんなものは知らん」と黒猫の姿をした大悪魔は首をふりやがった。
「ただ速く飛ぼうとしたり、急な機動とかする時に重さがかかるだろう? だったらその時に重量を軽減する魔法で負荷を減らしてやれば、どうだ?」
「あー……」
まあ、言うほど簡単じゃねーけどな、とベルさんは言ったが、なるほど、かかるGを補正できれば、操縦者にかかる負担も軽減できるというのは道理だ。
魔法的なバリアで保護するってのもありかもしれないと思いつつ、重量を補正できる魔法文字を組み込んだ装置を開発。加速補正器と名づけたそれを有人機に搭載することでこの件に決着をつけた。
次の問題は、戦闘機に搭載する武器である。
・ ・ ・
ウィリディス屋敷の地下にある地下工場にて、戦闘機用の武器の考案、開発を行っていた。
俺はベルさん、ユナを連れて工場へ向かった。そこではすでにSS工作班が、シェイプシフター無人機をもとにした自動制御戦闘機の組み立てを行っている。
スピアヘッドによく似ているが、その胴体は楔形であり、正面や側面から見ると三角形を意識した形となっている。どこか、異星人とかが乗ってそうなデザインでもある。
エンジンはE-2型と呼ばれる大気中の魔力を吸引する装置のついたジェット推進式魔石エンジンとなっている。武装は、サンダーキャノンを二門搭載予定だ。
「で、これがそのサンダーキャノンだ」
俺は、整備用台座に置かれた全長二メートルほどの砲身とそれに接続されるドラム型のタンクからなる砲を指し示した。
「基本構造は魔石拳銃とさほど変わらない。それの火力を増大させるために、一度に発射できる電撃弾の魔力を増やし、供給する魔力用のタンクを外付けした」
「電撃の魔法を無詠唱で発射させる装置ですね」
ユナの言葉に、俺は頷いてみせる。
「そう、杖と一緒だ」
つまるところ、電撃を放つ魔法の杖の拡大延長版ということだ。
ただし、引き金ひとつで連射が可能だ。発射される電撃弾の威力から、魔石機関銃ほどの速射性能はないが。
「こいつでワイバーンを叩き落すんだな?」
ベルさんがひょいと近くのデスクに飛び乗り、しげしげとサンダーキャノンを見やる。俺は電撃砲に歩み寄り砲身に触れる。
「砲は魔力の調整で威力の強弱を設定できる。ただし威力を上げれば、その分、タンクの魔力の減りも早くなる」
このあたりは、実弾にはできない芸当ではある。一方で、威力を下げれば消費を抑えられる。
「これで飛竜くらいなら余裕を持って落とせるつもりだったんだけどな……」
「フォルミードー」
ユナがその名を呪詛のように呟く。
「伝説の巨大ワイバーン」
「実物を見たことがないから、サンダーキャノンだけでは不安なんだよね」
まさか高速飛行中の戦闘機から、光の掃射魔法を使うなんて芸当はできないからね。
「何か具体案は?」
「ベルさんが噛みつくってのはどうだ? 飛竜形態で、以前ワイバーンを喰っただろう?」
「悪くない案だな」
冗談のつもりだったんだが、ベルさんは意外と乗り気だった。
「伝説のワイバーンってのを喰うのも面白い」
「本気ですか?」
ユナが眉を吊り上げれば、「わりと」と黒猫は首を振った。俺は笑う。
「それが一番手っ取り早いとは思うんだけどね。万が一、ベルさんがいない時に対処しなくちゃいけなくなったら、別の手を考えないといけないけど」
「そうだな。フォルミードーが一匹とは限らず、別の場所を同時に襲ったら、さすがのオイラでも無理だぜ?」
「……」
フォルミードーが複数いたら――やめてくれ、それはフラグか? 俺はユナと顔を見合わせた。
「とにかく、いま考えているのは、ミサイルだ」
「ミサイル?」
今度はベルさんが、ユナと顔を見合わせる番だった。
「誘導兵器だよ。ほら、ファイアボールを誘導して敵にぶつけるってあるだろ? ああいう風に、敵を追尾して攻撃するやつ」
「それはどんな魔法なのですか?」
ファイアボールを例えに出したせいか、魔法と思ったユナが食いついた。
「魔法じゃないよ」
魔法にも誘導するタイプはあるが、普通の魔法では強力な外皮を持つ大型魔獣を抜けないことは往々にある。フォルミードー相手にそれが効くなら、サンダーキャノンでも充分だと思うがね。
「そうだな……例えるなら、狙ったら勝手に飛んで行って敵を刺す槍を想像してみてくれ」
「理解しました」
ユナは頷いた。槍が勝手に飛んでいく画というのも中々シュールかもしれない。あ、でもアニメとかで見たような気がする。
「俺が考えているのは、ロケットだ」
「あの試作の戦闘機のエンジンに使った……?」
ユナが眉間にしわを寄せれば、ベルさんが笑い出した。
「あー、あの試験中にぶっ飛んだやつな。確かに、あれが飛竜に当たればそこそこいいダメージを与えられるかもよ」
エンジン飛ばすわけじゃないんだが……。まあ、ミサイルの大半はロケット推進だからあながち間違ってもいない。
「ただ相手の外皮が硬いだろうからなぁ。直撃した後、体内で爆発するような。……爆裂魔法を刻んだ魔石を仕込むのもいいかもしれない」
「魔石を使い捨てにするのですか?」
もったいない、と言わんばかりのユナ。俺は首を小さく振った。
「だから、誘導して確実に当てようって話さ。無駄撃ちにならないようにな」
実際のミサイル兵器だって、いくらかは知らないが恐ろしく値が張る代物だと聞く。そう考えると、魔石とどっこいだと思う。
「で、その誘導とやらは、どうやるんだ?」
ベルさんが問うた。俺は相好を崩した。
「うちには、優秀なコピーコアがあるからな」




