第340話、有人航空機スピアヘッド
ジャルジー公爵を招いての晩餐。アーリィーやフィレイユ姫、ベルさん同席の晩餐会だが好評のうちに終了した。
「こんな美味い料理は初めてだ!」
興奮するジャルジー。
ちょっとホームパーティー用でさほど凝ったものは作っていない。シーフードパエリアに、野菜と肉を挟んだ小ぶりのハンバーガー、焼き鳥肉に、新鮮野菜のサラダ、カップケーキに、果物の詰め合わせ――もちろん、一人で用意するのは大変なのでクロハとメイドさんたちにも手伝ってもらったが。
「毎日、こんな豪華な食事なのか?」
「パーティー用でね。ふだんはもっと地味だよ」
「この果物も! そして柔らかなパン! 王城での料理より美味いじゃないか!」
そいつは調味料のおかげだと思うね。この時代じゃ、まだ高価だったり使われていない調味料をふんだんに使った味付けをやっている。お褒めいただいた果物やパンについては、合成素材もいいところだから最上位品質というわけではない。
「ここのフルーツはどれもとても美味ですわ……!」
フィレイユ姫が、先ほどから食べているものが偏っている気がするが……、まあいいか。
食事の締めは、もはや恒例となっているカスタードプリン。フィレイユは喜び、ベルさんもまた子供と一緒にデザートを食し、ジャルジーも初めての食感に感動していた。
それを微笑ましく見守る俺とアーリィー。
和やかな晩餐だが、何気にジャルジーはここの料理素材はどう作っているのか、自分のところでも再現可能かと質問を忘れなかった。そりゃ、毎食美味しいものが食べたいと思うよな人間なら。
彼としては、いや彼でなくても、ウィリディス屋敷はお持ち帰りしたいものの宝庫だった。
今日の所はお土産にスライムソファーを送ってやった。
・ ・ ・
昼間、ジャルジーが世間話した内容は、ベルさん、アーリィーにも伝えた。
隣国での飛竜の大量発生、フォルミードーという超巨大飛竜。それらがヴェリラルド王国へ飛来するかもしれない……。
ベルさんは楽しそうに言った。
「よかったじゃないか、ジン。お前さんの戦闘機必要論をさっそく証明する機会がきて」
「俺自身は嬉しくないぞ」
「そうだよ、ベルさん。隣の国で大変なことになっているのに、喜んじゃダメだよ」
アーリィーが言ったが、俺の本音はそこではなかったのだが。いや、確かに不幸であるし、何とかできるものならしてあげたいところだけど。
「また肝心の戦闘機がないからな。今すぐこられたら大変なことになる」
ウィリディスでは、まもなく有人飛行用の航空機が完成する。この試験が上手くいってはじめて、本格的な戦闘機開発が可能になると言っていい。ヘリのような失敗があれば、実用化も遅れる。……まあ、すでに人間が乗らない仕様のシェイプシフター機は、武装の問題を残せば完成間近にまでこぎつけているのだが。有人機より無人機のほうが先ってのも不思議な感じではある。
「もし今、飛竜の大群が襲来した場合、空中での戦力はシェイプシフター機に武装を積んで戦ってもらうということになる。……あとは、ベルさんも竜形態になれるのだから、そっちで頑張ってもらうしかないね」
「そんときゃお前を背中に乗せてやるよ」
道連れとばかりにベルさんは笑った。俺は苦笑した。
「フォルミードーという奴がどれほどのものかわからないが、いま考えている武装では太刀打ちできない可能性もある。ベルさん、本当にあんたの背中にのって聖剣使うなんてことにもなりかねない。それでしくじれば、最悪、シェイプシフターたちに体当たりしてもらうしかないな」
悪評高い特別攻撃――対戦国からは自殺攻撃などと言われた特攻。シェイプシフターを『人』と判断するなら非道な作戦であるが、モノとして扱うならその意味合いも違ってくる。
いや、何も丸ごと体当たりさせることもあるまい。変身分離できるなら、砲弾型を切り離してぶつけるでも効果がある。……そうか、それがミサイルか。
百発百中の攻撃。最初はそれを有人で行い、やがてそれを自動化。コンピューターが制御し、誘導兵器として完成する。
シェイプシフターではなく、コピーコアでできないかな。能力を必要最低限にしたやつで。
「ジン?」
アーリィーが黙り込んだ俺を心配していた。
「なに、ちょっとした思いつきだよ」
何はともあれ、まずは武器を運ぶプラットフォームである戦闘機を、完成させないことにはな。
・ ・ ・
翌日、シェイプシフター工作部の不眠不休の努力で、製作中だった有人試作航空機は完成した。
全長は9メートルほど。航空機としてはかなり小型の部類に入ると思う。俺のいた世界のジェット戦闘機はだいたいその二倍くらいあったはずだ。
矢じり型の機体は、まるでSFっぽくて俺の目には少し違和感だ。だがコンパクトにまとめられたボディは正面からの空気抵抗を考慮した結果だ。
大気中でスピードを出そうとすれば、先端が尖っていて細いほうがいい。嘘か真か、もっとも空気抵抗を受けない形を描いてと言われて、とある航空機設計者が紙に描いた図は、線が一本だけだったとかいう話を聞いたことがある。
さて、この矢じり型航空機は、スピアヘッドの名前がついている。本当はアローヘッドのほうが適切な気がしないでもないが、そこは趣味の問題だ。
胴体中央にコクピットを備え、ひととおりの操縦システムを備える。ヘリの時もそうだったが、だいぶ細かな計器が増えた。速度計や高度計といった本来なら当たり前の装備も標準装備され、事前に予習しないと理解が追いつかないようになっている。
だが搭載されたコピーコアがかなりの部分をアシストするようになっている。コピーコアを積極的に使っていこうと決めた俺である。
ディスプレイはタッチパネル対応――操縦者の指での選択をコピーコアが識別して反応する。このあたりはファンタジーが現代に追いついた。
なおSS機の運用記録から、コピーコアは自動操縦が可能となっている。最悪、パイロットが何もしなくても離陸から着陸までやってくれたりする。
もうパイロットいらなくね? そうとも言えるし、言えないかもしれない。少なくとも、現行のコピーコアは言ったことしかやらないから、作戦を立てて判断するとかできないからな。
機体を操るのは、操縦桿で上昇下降、旋回などを操作。出力を調整するスロットル、水平方向へのスライド用のラダーペダルが基本となる。実際飛んでると風の抵抗、風向きや旋回・上昇などの揚力の変化、エンジン出力の違いで挙動も変わるので、言うほど簡単ではない。
このあたりの感覚は、学生時代にやったフライトシミュレーションやゲームでイメージはできている。あくまでシミュレーターだから実機はまた違うのだが、イメージができるできないの差は馬鹿にならない。子供の頃にやったゲームだって、将来役に立つことはあるんだぜ。
格納庫東口から、駐機場へと魔法車で牽引されるスピアヘッド。この期におよんでまだ滑走路がないので、そろそろ本格的に用意しないといけないかもしれない。まあ、スピアヘッドにしろ、今後に続く戦闘機にしろ、浮遊魔法で垂直離発着ができるようにするので、降りられる場所さえあれば滑走路はいらないけどな。
そんなわけで、俺はスピアヘッドのコクピットに乗り込む。コピーコアことナビの機体チェックが行われ、オールグリーンとの返事。外装の確認をしていたシェイプシフター兵も異常なしを報せてきた。退避を指示した後、俺は魔力念話を飛ばす。
「それじゃ、行ってくる」
『行って来い』とベルさんの声。アーリィーは『気をつけてね』と魔力通信機で言った。
浮遊魔法効果による機体の上昇。これが浮遊板の応用というのだから、何が幸いするかわからないな。
航空機用魔石エンジンE-2C型が、取り入れた酸素と魔力を燃焼させ、爆発的な加速を生み出す。
ウィリディス戦闘機初の有人飛行。俺が操るスピアヘッドは蒼空へと飛び上がった。




