第343話、王国北部へ
冒険者ギルドへ行ったら、ギルマスのヴォード氏に「近々、王国の北方へ遠征することになるかもしれんぞ」と言われた。
ジャルジー公爵が先日言っていた隣国での『飛竜問題』かと聞けば、ヴォード氏は「なんだ、知っていたのか」と目を丸くしていた。
フォルミードーの話も出て、副ギルド長のラスィアさんが用意したモンスター資料による、超巨大飛竜の記録も見せてもらえた。と言っても古い記録だからあまり参考にならなかったけどな。落書きみたいな画はあったけど。
「Sランク冒険者でも難儀する相手だ。お前は魔術師で聖剣持ちだから何とかなるかもしれんが、オレでは無理だ」
ドラゴンスレイヤーであるヴォード氏をもって、ずいぶんと弱気な発言。いや、きちんと自分の戦い方がわかっているからこそ、相性が悪いのがわかるのだ。そうでなければSランクにまで登りつめることなどできない。
「またお前さんの英雄譚が華やかになるだろうな」
「まだ戦ってもないのに期待されても困るんですけどね」
「英雄ってのはそういうもんだ」
まあ、そうなんだけどさ。英雄歴の長いヴォード氏だが、俺もここ二年はその英雄だったからね。わかるよ。
「そちらのほうは、ジャルジー公よりお達しが来てるんで、こっちは勝手にやらせてもらいますけどね」
「なるほど、先に公爵閣下より話が来ていたか。そういうことなら、その件はお前の好きなように任せるよ。……そういえば話は変わるが、カメラをありがとうな」
「はい?」
一瞬、何のことかわからなかった。
アーリィーが撮影しまくり、ラスィアさんにカメラを所望された後、後日カメラとその写真を持っていったのだが、冒険者ギルドではさっそくカメラを採用した。
冒険者の登録書に写真を貼り付けるところから始まり、解体部門での魔獣を解体する前に記録に残したりと活躍しているらしい。最初にカメラに目を付けたラスィアさん、さすがお目が高かった。
「おかげで、新人の名前と顔が一致するようになってな。事務でのミスも減った」
「役に立ったようで何よりです」
「写真の現像に特殊な魔法紙が必要なのがネックですが――」
ラスィアさんがやってきて、紅茶を淹れてくれた。
「それを差し引いても、カメラの需要は高まっています。冒険者の中にも、記録用にカメラが欲しいという者が何人かいますよ」
「カメラの製法については、ちょっとばかり特殊ですからね……」
ダンジョンコアのコピー、その廉価版とはいえ、一般に普及させていいものかどうか。今のところ、他で作ることができない代物だし。
「秘密の製法というわけか」
「まあ、そんなところです」
「魔法使いにはよくある話だ」
ヴォード氏は深く追求しなかった。いずれ他の方法で作られたカメラが普及することを信じたい。
・ ・ ・
ウィリディスにおける航空機開発は驚異的速度で進行していた。またパイロットの技量向上も順調に進んでいる。
完成初日にカスタム化されたベルさん専用ドラケンは、圧倒的な空戦能力を見せたし、人間以上の高Gにも平然としているシェイプシフター操るファルケもまた凄まじい格闘性能、機動を発揮した。
ガーディアンモンスターとしてサフィロが登録していたグリフォンを相手に充分渡り合っていたから、問題はなさそうだ。ここまできて、まったく相手にならないようでは洒落にならないけどね。
そんな中、TF-3戦闘機が完成した。
鋭角的な機首、胴体やや後ろ、左右に二基搭載される大型魔石エンジン。そこから伸びる主翼。後部尾翼は斜めに上に二枚、下に二枚の計四枚だ。
武装は機首に二門のサンダーキャノン。胴体後部下に誘導噴進弾を積めるウェポンベイ。主翼の下にも同じく噴進弾を積めるラックを三基ずつ備えている。その積載量は、ドラケンやファルケを凌駕し、その魔力タンクも大きく随一の航続距離を誇る。
機体名は『トロヴァオン』。ポルトガル語で『雷』の意味だ。
なお、命名について捕捉すると、俺は別に外国語を多数操れるわけではない。昔趣味でラノベ作家の真似事をしていた際に、色々ネーミングを漁っていたから、そこからの流用である。だから時々、うろ覚えだったりするんだけどね。あとゲームや漫画知識ね。
完成したトロヴァオンは、早速試験飛行を行い、それから各種テスト。武器搭載量の多さから、対フォルミードー戦では切り札となる可能性が高いから、優先度が高かったのだ。
はっきり言うと、トキトモ製戦闘機の大本命がこのトロヴァオンである。
機体の重量は他の二機種より重く、それを挙動で感じるが、それに負けないパワーを持っている。
E-4型魔石エンジンは、ドラケン搭載のE-3型に出力でやや劣っているものの、二基搭載しているために合計で上回っている。さらにエンジンの噴射口は推力偏向ノズルを採用し、噴射方向を調整できるため、高い運動性能を発揮する。
たしか、ベクタードノズルというのか、俺のいた世界のジェット戦闘機でも採用されていたやつがヒントになっている。まあ正直、本家の構造については知らないので、こっちのは独自開発なんだけどね。
これを見たベルさんが、早速、愛機のドラケン・カスタムのエンジンノズルを推力偏向ノズルに変更していた。……いとも容易く行われる改造処置。
機体特性をコピーコアことナビが充分に学習した結果、マルカスやアーリィーが戦闘機の操縦訓練に加わるようになった。ナビのアシストがないと、正直乗せるのも躊躇うのだが、本人たちの希望もあるから了承している。
しかし、堅物な騎士になるだろうマルカスが、ヘリや戦闘機の操縦を積極的に学びたいというのは、俺はいまだに違和感なんだが。
気になって当人に聞いてみれば、マルカス坊やは真面目に答えた。
「主が戦場に赴くなら、同行するのが騎士というものだと思うが?」
主人が馬に乗るなら、同じく騎兵として戦い、戦闘機に乗るなら、同じく戦闘機に乗って戦場を駆ける。
なるほど、そういう考えなら納得だ。こいつは忠臣の鑑だな。部下に持つなら、かけがえのない存在かもしれない。まあ、できれば友人として接したいが。
俺もトロヴァオンに慣れた頃、例によって冒険者ギルドで一つの情報に接した。
ヴェリラルド王国北方で、飛竜の目撃例が増えていて、襲われた集落が出たそうだ。いよいよ、隣国から南下しつつあるようだった。
早速、現地に飛ぶことにした。
王城にはポータルを繋いであるが、北方ケーニギン領にはポータルを置いていないのだ。
目的地は、ケーニギン領の中心にしてジャルジーの居城であるクロディス城。先日、王都に来たが、今は戻っている。彼と会って、今後の打ち合わせをしたい。
対飛竜戦線の構築。侵入してくる敵を迎撃するための拠点が必要なのだ。
ウィリディスの地より、トロヴァオンは飛び立った。
裏話:ARC-170とT-65Xウィングを足して2で割ったような戦闘機のイメージが、トロヴァオン(外見の話)若干、F-22的要素あり。




