第335話、エンジンテスト
魔石式ジェット推進エンジン――対飛竜用戦闘機に搭載するエンジンについて、そう呼称しておく。
大まかな仕組みを説明するとこうだ。魔力を流し、それをエンジン内の燃焼室で爆発させ、発生した燃焼ガスを後方へ噴出し、その反作用で推力を得る。
かなり乱暴な言い方をすれば、爆発魔法を連続して発生させ、そのエネルギーで飛ぶというわけだ。
それを聞いたベルさんは、皮肉げに口もとを歪めて言った。
「まるで、屁で空を飛ぼうって言ってるように聞こえるぜ?」
「その屁に充分に推進力があって、それを連続でかませることができれば、空だって飛べるんじゃないかね?」
俺も皮肉で応酬した。
魔法による爆発ということは、エンジン内の燃焼室にはミスリル合金を使用すれば、耐久性には問題ないだろう。ミスリルは魔法に対してほぼ無敵の金属。爆発の魔法では傷一つつかない。手に入れるのが難しい希少性の高い金属であるが、サフィロの魔力生成ならば入手は可能だ。……恐ろしく魔力を消費するが、いにしえダンジョンの魔石を魔力に変換すれば問題ない。
まず最初に作ったのは、ロケットエンジン――推進剤を噴射してその反動で推力を得るタイプのエンジンだ。ここでいう推進剤とは、つまり魔力である。先のジェット推進の説明どおり魔力を燃焼ガスに変換して推進力を得る。
学校が始まってしまったので、昼以降にウィリディスに戻っての製作活動となった。
午前は授業、時々、冒険者ギルドに顔を出して、その後にエンジンを作る。ユナやシェイプシフター工作班と、俺が書き上げた設計図をもとに部品を組み立てる。
それで完成した試作航空機用魔石式ロケットエンジンを、格納庫東口の外でさっそくテストをした。
端的に言うと、第一回稼動試験の際、わずか5秒の燃焼時間にも関わらず、固定器を振り切って、ロケット弾よろしくエンジンがすっ飛んだ。
まさしく爆発的推進力だった。ギャクかよ、と俺は思ったが、あいにくとこの失敗がいかに滑稽か、それに気づいた者がいなかったので、突っ込まれなかった。……何か言ってくれてもいいんだぞ、ユナよ。
・ ・ ・
エンジンの組み上げを弟子たちに任せる一方で、俺はダンジョンコアを使って、地下格納庫を拡張、本格的格納施設として改修を加えた。
最初に作った広さでは、すでに手狭だった。魔法車のほか、試作型ヘリがすでに七機も存在している。今後、航空機を作ったら、入りきらなくなるのは明白である。
範囲指定で地面を削り、床、壁、天井を張りかえる。今後増えるだろう航空機その他などを考えると、かなり広くとったのだが、まだ狭くなるだろうことは想像できる。
これは地形のせいでもある。ウィリディス屋敷のある小山をくり貫いて、その北東から東側を当てたわけだが、小山のスペースには限界がある。となると、地下一階層分大きくするか、あるいは北東出入り口の先、つまり隣の小山をぶち抜いて、第二格納庫として作るしかない。……ま、そちらは必要になったら考えよう。とらぬタヌキの皮算用。
俺が地下の大格納庫を拡張作業を監督していると、カメラを手にアーリィーがやってきた。
「何だか異世界に迷い込んだみたいだね」
……ここが俺にとっては異世界なんだが、という皮肉は胸のうちに留めておく。いつか、彼女にも俺が異世界から来た人間だって説明する日が来るんだろうか。
カメラをまわしながら、金髪ヒスイ色の目の少女は、格納庫を見回す。
「荘厳な神殿みたい……」
俺個人としては未来SFの格納庫的なものを目指したんだがね。
規則的に天井に埋め込まれた魔石照明は、その光度が強く、地下格納庫に充分な光を提供する。まあ、北東口と東口を開けておけば、昼間晴れていれば、そこそこ光が入ってくるんだけどね。
「ジン」
アーリィーがカメラを向けてきたので、俺はピースサイン。画像を写真に残す音、例えるならシャッター音が聞こえた。最近、すっかりカメラ小僧、いやカメラ少女だね、アーリィー。
なおこのピースサインも、最近のウィリディスでの流行りだったりする。カメラで取られるとき、そうしなければならないという決まりはないんだけどね。
……最初に始めたのは俺だけど。
「ジンは未来に生きてるなぁ」
アーリィーは、俺の隣でしみじみと言った。
「ボクたちの思いもしないことをどんどんやってのけるんだもん。凄いよ」
「ありがとう」
素直に礼を言っておく。俺はアーリィーの肩を抱き寄せる。
「そういう君も、最近は色々積極的に取り組んでるみたいだ」
「あれこれ我慢しなくていいからね。やりたいって思ったら、ここでは何でもできるし」
「何でも?」
「何でも……」
アーリィーが俺の肩に頬を寄せる。
「あなたには感謝してる」
「俺もだ。……でも」
「でも?」
「最近、君がヘリの操縦に取り組んでるけど、ちょっと心配だな」
積極的なのはいいのだが、ヘリを動かしてみるとか、お姫様はアグレッシブだ。最初会った頃とはえらい違いである。
「空から見える景色に興味があるんだ」
「カメラ?」
「それもあるけど」
アーリィーは身を離し、俺の顔をじっと見つめる。
「子供の頃、空を飛びたいって思っていたから、それもあるかな」
それって、自由のない王子生活から抜け出したい的なやつかね。性別を隠し、あまり外に出られず、制限も多かっただろう幼少の頃のアーリィー。……なるほどね。
「無茶だけはしないでくれればいいさ。空を飛ぶってのは危険が付きまとう」
「あなたもね、ジン」
アーリィーは俺の頬を指でつついた。
「ボクだって、心配してるんだからね」
「善処します」
これから戦闘機を作ろうという人間である。できれば当然、それに乗るつもりだし。それでなくても、肩書きは一応冒険者で魔術師。荒事に首を突っ込むことは不可避である。
その時、格納庫の一角、工房に繋がる通路が開いた。
今回の試作エンジンが完成したので、運ばれてきたのだ。移動用のトレイ――先日作った無人自走魔法車の上に、円筒の試作エンジンが載せられている。このトレイ車はコピーコアの運転で動くが、人間が運転できるスペースはなく、巨大なホバーボードに車輪をつけたようなシルエットをしている。
ユナとシェイプシフターたちがトレイ車のまわりにつき、俺を見たので頷いてやる。
「さて、アーリィー。君にも少し手伝ってもらおうかな。エンジンの実験の様子をカメラで撮影してもらいたい」
「えーと……」
アーリィーは自分用カメラを見下ろして、微妙な表情を浮かべたので、俺は言った。
「もちろん、撮影は資料用のカメラで撮る。君の思い出カメラに仕事の映像は残さないよ」
「うん!」
元気なお返事。俺たちは、ユナたちと合流し、東口から表へと移動する。
「距離は置くけど、防御魔法具は持ってるね? 爆発なんてことはないだろうけど、用心は必要だ」
「そういえば、第一号は吹っ飛んだよね」
アーリィーが苦笑した。俺も肩をすくめた。
「今度は大丈夫だと思うよ」
たぶんね。
※エンジンの説明について、将来的には大気中の空気やそれに含まれる魔力も利用するので、ロケットではなくジェットとしております。




