第336話、ロケットを抱えて飛ぶ
魔石ロケットエンジンの試験は順調に進行した。ミスリル製のおかげか、亀裂が入ったり壊れたりというトラブルもなく、耐久性の面では問題点は見つからなかった。
あとは推力と、消費する魔力についてだ。
推力に使う爆発をマシマシにすれば、魔力の消費は大きくなる。搭載魔力を使い果たせば、その推力を生み出すこともできなくなる。
これは俺のいた世界でも同じだ。巡航速度は燃費がいいが、全速力で飛べば燃料の消費が早くなって、長時間飛んでいられなくなる。
燃費の向上については改良をしていく方向だが、とりあえず五、六分程度しか飛べない飛行機でも、空中での機動試験などはこなせる。
そこで、実際にエンジンを載せた飛行機を作り、それで試験する。ヘリのとき同様、最初は無人機で実験だ。……哀れシェイプシフター君がテストパイロットを――と、ここで少し方法を変えてみた。
というのも、シェイプシフターが機体を操るのは同様だが、無人機使用なら、何もコクピットを作る必要はない。
つまり大きなシェイプシフター君に、飛行機の形に変身してもらい、後部にロケットエンジンを抱えて飛んでもらうのである。
俺は開発関係者――つまり、ユナと、シェイプシフターを提供するスフェラ、ダンジョンコアのサフィロにその案を打ち明けた。
一見、非常に馬鹿げた案ではある。黒スライムを戦闘機に化けさせて、エンジンを載せて飛ばそうなんて。
が、空中での機体制御をシェイプシフター自身が行うことで、舵の利き、機体の反応、翼の形状をダイレクトに反映できる。シェイプシフターが機体の形状を変えていくなら、いちいち実験のためのボディを製作する手間が省けるというメリットもあった。部品の節約、製作時間の節約――すなわち、経験値収集が早くなり、短期間での航空機開発ノウハウの蓄積が期待できた。
なお形状の変化などは、サフィロ提供のコピーコアも一緒に載せることで記録に残す。最適なデータだけではなく、無駄のある飛行データも残すことは、それ以後の研究にも役に立つ。
航空機の形状は、俺が適当な図面をいくつか描いて、それを元に飛ばしながら修正してもらう。……なに、シェイプシフター君は墜落した程度では死なない程度に物理耐性がある。
初飛行は、ロケットの推力を低めにシェイプシフター飛行機を飛ばした。ボディ重量がとても軽いために出力低めでもよく飛んだ。ウィリディス上空を真っ直ぐ飛んで、緩やかに旋回。それを繰り返し、およそ三分ほどで駐機場に降りてきた。
エンジンを切って、グライダーのように滑空する。着陸というより、鳥が着地するような感じで、その時の形状は明らかに飛行機のそれと違ったのだが……まあ、そもそもちゃんとした滑走路とか作ってないし、初飛行だからそこは目をつぶろう。
地上に降りた後、シェイプシフター飛行機君に、飛行の感想を聞く。……飛行機に話しかけるとか、ファンタジー過ぎる光景であるが仕方ない。
なお、飛行機の機首からの景色はコピーコアが記録していたので、実際に飛んだらどう見えるかの映像も見ることができた。……大半は空で、時々地表が少し映った程度だけどな。
試験記録のバックアップを取りつつ、飛行実験は何度も繰り返された。最適化は、スフェラとサフィロのほうで何とかなりそうなので、俺はエンジンの開発のほうに戻った。
ロケットエンジンは第一段階。本番は、ジェット推進エンジンにある。
ロケットは内部燃料を消費するだけだが、この世界で開発するジェット推進エンジンは、大気中にある空気と魔力を取り込み、それを燃焼に利用する。つまり、内側の魔力タンクのみならず、外からも魔力を取り入れるのだ。
これにより燃焼魔力の消費を軽減させ、かつ燃焼の力自体を下げることなく行う。使用魔力の効率化。航続距離――飛行時間と言ってもいいが、それをかなり伸ばすことが可能となる計算である。
そういう意味では、厳密なジェットエンジンとは違うんだけどね。
・ ・ ・
平日はアクティス騎士学校に通い、アーリィーと一緒にお勉強。
なのだが、真面目に勉強を受ける気などさらさらない俺は、授業内容記録用のノートにエンジンのことやら、正式版ヘリコプターの図などを描いたりして過ごしていた。
相変わらず俺とアーリィーの席は教室最後尾にして最上段だから、俺が描いているものについて見ることができるのはアーリィーくらいなものだ。
だが講義の際、教卓位置から動かない教官たちには、俺が熱心にメモをとっているように見えるのだろう。
だからか、担任のラソン教官からは校内で顔をあわせようものなら――
「どうだね、ジン君。来年、正式に教官になるというのは?」
などと言われる始末だ。
「今度は教官向けに魔法講習をやってもらえないかね?」
「……あー、考えておきます」
すでに冒険者ギルドで、冒険者向け魔法講習で教官の真似事をしている俺である。あっちはよくて、こっちはダメと断り難いのは日本人の性か。
この国でも英雄に片足突っ込んでいる俺である。連合国にいた頃は、戦争真っ只中だったから前線にいる頃は気にならないが、一度後方に下がると、この手の依頼や頼みごとに多くさらされた。……だからさ、英雄なんてなるものじゃないんだよ。
「ところでジン君、ひとつ気になっていたんだが」
ラソン教官は、アーリィーを見る。すっかり女子騎士生制服姿が板についている元王子様がいた。
「アーリィー様は何をしているのかな?」
「撮影です。新しい魔法具でして」
ここでも撮影少女は健在だった。学校始まって数日は大人しかったものの、今では休憩時間に学校の色々な景色や生徒たちの行動を撮影してまわっているのだ。……まあ、じきに撮る物も少なくなるだろう。最初だけだ、こういうのは。
講義は昼で終わり、午後は自由時間。部活の勧誘はないが見学していって欲しいという、あわよくば助言をもらいたい生徒たちを避けるようにさっさと下校。
この日は、冒険者ギルドに顔を見せる日なので、ポータル経由で青獅子寮からギルドへ。……なお、撮影少女は冒険者ギルド内を撮影しようと、新しいコピーコアに換えたカメラ持参でついてきた。……うちの嫁がカメラにゾッコンな件について。
ギルド長のヴォード氏は、執務室で俺を歓迎した。
「久しぶりだな、ジン。元気にしていたか?」
「ええまあ。……前に来たのは一週間前ですが」
「久しぶりなのは間違いない。毎日来てもいいんだぞ」
「そうやって、俺に仕事を押し付けようって魂胆でしょ。その手には乗らない」
家作りに忙しいと言って逃げているが、俺は王都ではSランク冒険者である。重大な厄介ごとがあれば、即お声がかかってしまう立場にある。
「家ができたら、招待してくれよな」
Sランク冒険者の大先輩であるヴォード氏は言うのである。何枚か紙を手渡してきたので、それを拝読。
「今度、美味しいコーヒーをお持ちますよ」
「コーヒー?」
「……あー、ご存じない?」
紅茶にしておけばよかった、と思いつつ、俺はヴォード氏と情報交換を兼ねての雑談。次のギルド主催の冒険者向け魔法講習の日程を確かめ、この日は退席した。
副ギルド長のラスィアさんにも声をかけたが、ダークエルフの副ギルド長は、ギルド内を撮影しているアーリィーについて俺に聞いてきた。
いちおうの説明をすると、彼女はカメラに興味を持ち、ひとつ手に入らないか相談してきた。
エアブーツのとき同様、新たな金の匂いでも感じたのかもしれない。別にラスィアさんは守銭奴でも金に意地汚いわけではないが、副ギルド長としてギルド運営に携わる手前、この手の話を逃さないだけだと思う。
まあ、カメラ自体、コピーコアに適当なケースをつけただけだから用意するのは難しくない。ただ撮影したものを表示したり、写真として残すには魔力紙とか、おまけが色々必要になってくるんだけどね……。




