第2044話、通路を行く
異空間操作装置(仮)の奪取を試みる。
それに成功すれば、シーパング同盟艦隊がこのノースパークに攻撃をかけた時、異空間に閉じ込めて隔離という最悪の事態は避けられる。
俺と同盟軍コマンドーチームは、異空間に浮遊するノースパーク島内を進む。円盤のような層の真ん中、一番大きなその内部を行く。
中は金属で覆われた通路になっていた。見た目の島感はなく、近未来的なものになっている。アポリト文明時代もこんなんだったな、そういえば。
通路の角から、ネメジス構成員が現れる。手にしているデータパッドに夢中だった彼だが、シーパングコマンドーがスタンモードで一発撃ち込んだ。
有無を言わせずとは、このことだ。倒れ、手からデータパッドが離れて床を滑った。さすがだ。
俺は、コマンドーの技量に素直にそう思った。一言も発さず、先導役が処理をしていく。いい手並みだ。
このまま潜入なら、俺の出番はないかもな。
この金属の通路は、円盤部の外縁に沿っていて、左手方向が窓になっていた。そこから外の景色が見えるのだが、あいにくと真っ黒な異空間しかない。宇宙のほうがまだ見応えがあったのではなかろうか。
人の通りは少ないが、完全に無人ではなかった。時々現れる不幸な通行人が、コマンドーのマルチピストルのスタンで昏倒させられていく。
薄々思っていたけど、やっぱりネメジスって軍隊だよな。武装組織がこうもユニフォームが揃っているって印象ないもんな。……偏見なのは認める。
・ ・ ・
ノースパーク中央管制室。そのモニターが、侵入者の姿を捉えた。
「Cレベル51区に、未確認の人員。10人前後」
オペレーターが振り返れば、髭の管制室長はピクリと口元を動かした。
「侵入者か!? いったいいつの間に!」
この異空間の中をやってきたことも驚きではあるが、人が少ないとはいえ監視の目はあった。それをどう掻い潜って侵入したのか。
「船などは観測されていないのだな?」
航空管制士官に尋ねる。彼は背筋を伸ばした。
「はっ、確認されているのは全て友軍のもののみです。不審船は発見されておりません」
しかし船もなしにこの異空間の浮遊物に辿り着くことなどできない。
「つまり、隠れているということだ」
管制室長は顔をしかめた。
「どこの誰かは知らないが潜入工作部隊を送り込んだに違いない」
「警報、出します」
「待て」
侵入者警報が鳴れば、詳細はともかく侵入者があることが基地中に伝わる。不幸な遭遇者はそれで減るだろう。警備部隊が潜入工作員を制圧に向かう――だが。
「警備部隊には通報しろ。だが警報は鳴らすな」
「は?」
潜入を察知されたら、敵が何をしでかすかわからない。爆発物を仕掛けられて、場を混乱させて逃走をするという手も考えられる。下手に騒ぎ立てると、かえって収拾がつかなくなる恐れがあった。
「敵は、どこへ向かっている?」
「中央動力炉か、あるいは異空間制御ユニットの可能性が高いです」
「ふむ……」
ノースパーク内の図と、工作員の現在位置を見比べる。
「中央動力炉への破壊工作は許容できない。守備隊に守りを固めさせろ。警備部隊に敵工作員を包囲して逮捕もしくは排除させろ」
「了解」
オペレーターたちはそれぞれの担当部署に命令を伝えていく。管制室長は通信端末を取り、基地司令部へと連絡を入れる。
「――私です。基地内に侵入者です。……はい。現状正体は不明ですが……はい、可能性は高いかと。……はい、シーパングの特殊部隊と思われます」
・ ・ ・
それは唐突だった。
俺たちと行動を共にしていたシェイプシフター工作員が言った。
『敵に察知されました』
「なんだって?」
フライシャー少佐は首をかしげる。
「警報は鳴っていないが、確かか?」
『はい。警備部隊が動き出しました。こちらを先回りするのと、後ろから追尾する部隊が動いています」
ここに潜入してそれなりに長いシェイプシフター工作員だ。様々なところに監視の分身を置いて、敵の動きに反応しているのだろう。
「包囲するつもりか」
特殊部隊指揮官は、俺を見た。
「どうします?」
「このまま行けるところまで行く」
俺は即答だった。ここまで来たんだ。装置を確保するか破壊はしなくてはいけない。
「帰りの心配はいらない」
異空間内の転移なら何も不安要素はないからな。
「わかりました。分隊、前進!」
フライシャーは前へと指示を出す。
「キルモードだ」
もうスタンで気絶させる必要はない。潜入がバレた以上、ここから先は殺し殺されである。
円盤部の中央へと行く通路を、俺たちは駆け足で進む。そして――
「バリケード!」
魔法杖、クロスボウ、魔石銃を構えてネメジス歩兵が待ち伏せていた。最初の一撃が飛んできたが、コマンドーたちは防御魔法具のおかげで、初手を回避した。
「ショックボム!」
フライシャーが叫び、コマンドーの一人が特殊グレネードを投げ込んだ。それは爆発すると、向こう側一帯に衝撃波を飛ばして、バリケードごと兵たちをなぎ払った。
「派手だね、どうも……」
いきなりそんなうるさくで目立つ武器を使うとか。俺の声が聞こえたらしく、フライシャーは相好を崩す。
「もうバレてますからね。コソコソよりも時間をかけずに一気に突破ですよ」
こちらは少人数。時間をかければ、敵は増え続け不利になるだけである。
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