第2041話、いざ、敵地へ
「魔力生命体……」
当時を知っているクルフに話を持っていけば――
「何か聞いたことがあるような、ないような……」
どうにもはっきりしないお答えだった。クルフが終始首を捻っているさまを見て俺が思ったのは。
「よほどマイナーな存在だったんだろうな」
メジャーな存在だったなら、そもそもクルフに尋ねるまでもなく、当に資料が発掘されていてもおかしくはない。いや、あるにはあるが、だいぶオカルトに汚染されていて、実像が掴めないんだよな。
その上で、当時にもいた人間が知らないというんだからね。
「人々の口から、多く出ていたというものではないですね。それなら私も、もっと覚えているはずですから」
だよなー。大図書館には魔力生命体って名前はいくつか出ていたんだけど、割と後年の、それも偏った層の資料だったから、一般では言及しないものだったのかもな。
ただ君、ナチャーロ文明自体、大昔なわけで、普通に忘れていたりしないかね。
「私やその周りにとっては、そこまでキーになるような存在ではなかった、ということですね」
クルフは言った。
「ちょっと話は逸れるんですけど、魔力生命体って、団長の分身なんか、モロにそれじゃないですか?」
「?」
俺の分身体が? ちょっと想定外だったから考えてみる。
確かに、その構成はオール魔力だもんな。それで俺の思考で活動するわけで、一種の生命体と言えなくもないか。……いや、でも分身だから、これは生命体って言えるのか? うーん……。
「団長、その魔力生命体、重要ですか?」
クルフが真顔で問うた。重要かどうか? さて、それがどれほどのものかは、正直なところはわからない。
だが――
「わざわざネオ・ナチャーロが探しているんだぞ、気になるだろう?」
何に使おうとしているかって。俺は気になるね。
「目的があるはずなんだ。大体、膨大な魔力を持つ存在なんて、魔術師からしたら使い道があり過ぎて困るくらいだ」
そして大抵、ろくな使い方がされない。現状、限りなく黒であるネオ・ナチャーロの過激派連中が、そんなものを平和利用などするものか。
「無人機を置いて見張らせるくらいだ。何かしらの兵器の素材などに利用する気なんじゃないか」
「人を割けないから機械に見張らせる……。確かに執着は感じます。何に使うか、彼らの中では明確なのでしょう」
「どうか、それがろくでもないものではありませんように」
俺たちは祈るだけだ。一番いいのは、敵の手に魔力生命体が確保されないことだろう。
・ ・ ・
シーパング同盟軍は、ネメジス軍の拠点、ノースパークへの侵攻を計画した。
まだ正式に宣戦布告をされたわけではないが――そもそもネメジス軍は、国家というより武装組織という扱いであった――、すでにシーパング国内外で、テロ、破壊工作など事件になっていたから、報復行動は可能であった。
同盟議会にも、すでにネメジス討伐の許可がおり、出撃が命じられた。しかしいざノースパークへ、とはいかない。
かの場所は異空間にある。その出入り口については、情報提供によって判明しているので、行くこと自体は可能だ。
だが軍司令部の高級参謀たちは、慎重だった。
もしネメジス軍が異空間制御の技術をもっていた場合、同盟軍艦隊が乗り込んだところで、異空間を閉じて戦わずして戦力外に追いやられる可能性もあったからだ。
実際に、ネメジスがその技術を有しているかはわからない。情報提供によれば、ノースパークはアポリト文明時代に造られたもので、その異空間についても当時のまま。ネメジスは後からやってきたもので、勝手に住み着いているようなものである。
だが、念には念を入れる。一歩間違えれば、艦隊消滅という大惨事にもなりかねない。司令部参謀たちも、敵を侮って送り出した艦隊が全滅など望んではいないのだ。
そこで敵情収集を兼ねて、潜入工作部隊を派遣することになった。
シーパング同盟軍特殊コマンドーチームと、英雄魔術師ジン・アミウール――つまりこの俺が、ノースパークへ潜入する。
「アミウール閣下と共に任務につけること、光栄です」
コマンドーチームの隊長、フライシャー少佐は敬礼した。うんまあ、よろしく。
「君たちの邪魔はしないように頑張るよ」
「ご謙遜を。特殊作戦においては、閣下以上に実績のある者はいないでしょう」
三十代後半。長身で、肌が浅黒く、しかしスマートな指揮官はそう言った。声に溌剌とした力があって、俺の勝手な想像だけど、おそらく少佐は体育会系。元の世界でなら、アメフトとかやってそうな体つきをしている。
コマンドーチームと顔見せの後、特殊工作艇に乗り込み、いざ出発。ステルス機能付きの小型快速艇は、母艦を離れ、ノースパークの存在する異空間入り口に差し掛かる。
コクピットから、目的座標に接近の声が聞こえ、フライシャーはそちらに足を向けた。
「こんな峡谷の奥に入り口とは……」
「低高度に雷雲あり」
どす黒い雲が広がっている。時々、雷が走る。その音はさながら竜の咆哮のようであった。俺もパイロットの席の後ろから、外を見る。
「竜の園というらしい。ほぼ年中、雷がなって真っ暗だから、地元の人間も近づかないんだそうだ」
元の世界にも南米に、一年の大半で雷が観測される場所があったっけ。カタトゥンボの雷だったかな。
「おっかないですね」
フライシャーは首を横に振った。
「だから近づけなかったし、わからなかったんでしょうな」
小型快速艇は、黒雲と渓谷の間の闇へと、ゆっくりと接近した。
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも掲載中!
オーディオブック1巻配信中。どうぞよろしくお願いします!




