第2040話、かつての記録
シーパング本島、大図書館。いつ来ても静かな場所だ。
俺は、ここで働いているガニアン司書に会いにきていた。かつてのリヴィエルの追放王子も、今ではこの図書館の主である。
「魔力生命体……」
「心当たりはあるかな?」
俺が尋ねると、ガニアンは少し考える素振りを見せた。
「まあ、いくつか。半分オカルトに足を突っ込んでいるんですが」
へぇ。アーカイブ端末にぶち込む前に、出てくる辺り、彼の記憶力は抜群だな。シーパング島へ亡命して以来、趣味である読書と知識の収集の蓄積は、まさに塵も積もれば山となる。
そこらの学者先生より深い知識の持ち主であり、『教授』とつい呼びたくなるが、かつての国では反乱を起こした大罪人ということで死刑――つまり死んだことになっているので、遠いシーパングにあっても、有名にはなりたくないそうな。……それはそう。
「オカルトか。どんな姿をしているんだ?」
「難しいですね」
地下書庫への階段を下りながら、ガニアンは眉をひそめた。
「それというのも、証言や記録が、様々なので。闇夜にぼんやり光る人型だとか、あるいは四足の獣の姿をしていたとか」
「……」
「黒い火の玉のようなものが、すっと頭の上を通り過ぎた、なんてものもあります」
「それ、幽霊と混同していない?」
俺が率直にコメントすると、ガニアンは苦笑した。
「ええ、おそらく。証言や資料の何割かは、他のものと見間違えたか、誤認でしょう。ただ、はっきりしたことはわからないんですよね。なにぶん、どれが正解かわかっていないので」
それな。正解がわからない。ツチノコをはじめとするUMAの類だな。
しかし、ネオ・ナチャーロと思われる一団は、その魔力生命体を追っていた。姿は不明とされているが、なにか、存在するという確証を持っているのかもしれない。
地下書庫へ到着する。機密性の高いもののほか、保存状態に注意を払わなければならないものなどが揃う。
「比較的真面目な説の話をすると、我々がゴーストと認識しているものは、実は魔力生命体ではないか、というものがあります」
幽霊とごっちゃになっている、ではなく、そもそも幽霊が魔力生命体という説。
「これは、ジン様が魔法の教育の際に、ゴーストは魔力の集合体だから、浄化魔法でなくても、魔力を消費してやれば消えるという話から着想を得た説らしいのですか」
「俺が言った話から?」
それは……まあ、確かにゴーストは、憎悪や恐怖という感情が魔力に結びついて、そのアストラル体を構成している、というのは、教えを乞う者たちに教えてきたけどさ。まさか、そこから魔力生命体の正体――説までなっているのは意外だった。
「より深いところだと、アンデッド系は、種類によりますが魔力生命体、あるいは半魔力生命体といえる存在ではないか、というのもありました」
霊体であるゴーストのみならず、スケルトンな死体が動く系も、それらを動かしているのは魔力である、というのである。そこで俺は思った。
「そうなると、吸血鬼って、魔力生命体じゃないか?」
変身や分離合体などをする吸血鬼。その体の構成は魔力故に、大きさや形は自由自在。スティグメ帝国の吸血鬼たちは、魔力そのものだ。
「! 確かに」
ガニアンは自身の顎に手を当て、考える。
「なんということだ。吸血鬼は、魔力生命体だった!?」
「新説だな」
なるほどね。確かにその界隈で言われているものの例にならえば、吸血鬼も当てはまるというわけだ。
ただ、ネオ・ナチャーロが追っているものは、それとは少し違う気がする。
そもそもだ、そんなオカルト話の例に上がるようなものを、遺跡に機械を置いて見張らせるとか、ちょっと考え難いんだよな。
「ちなみに、一番古い文献や資料は?」
「調べてみましょう」
奥の調べ物スペースの端末を使うガニアン。画面に該当の本が表示される。
「パーシアンルゼフの古代生物記」
「……何だか外れくさいな」
サイの角の化石を見て、ユニコーンの角だ、とかいう類いのにおいがプンプンする。
「実際に見てみないとわかりませんよ」
ガニアンは、そう注意した。だよな。今のは俺の偏見だよ。
「お持ちします。お待ちを」
ガニアンが椅子から立ち上がると、該当の本を取りに言った。俺は椅子に座ると、検索ワードを打ち込む。
ナチャーロ文明、魔力生命体――
「出た」
いくつかヒットした。それぞれの簡単な概要に目を通す。古代文明の発掘調査からわかったことをまとめたものが数点。あからさまに娯楽にふったようなオカルト本が2冊。うーん……。
俺が唸っていると、ガニアンが戻ってきた。
「お待たせしました。記載されているのは、このページですね」
早速、拝見。パーシアンルゼフなる研究者が印した内容によれば、ナチャーロ文明の魔法資料に、『魔力生命体』という名前がいくつも出ているとあった。残念ながら、その姿は書かれていなかったらしく不明。ただ、その生命体の魔力で、一都市の必要魔力を余裕で満たしたとか。
「……これが本当であれば、そこらのゴーストや吸血鬼とは別物だな」
いくらなんでも、都市一つのエネルギーを提供できるような魔力を、これらが持っているとは考え難い。
「こういった資料は、本当にあったのか、聞いた話なのか、はたまた空想なのかで話が変わってきますね」
ガニアンは言った。
「著者の空想だと書いてあればいいですけど、そうでないと本当か嘘なのか判別しようがないですね」
「……やっぱり、当時を知る人間に聞くのが早いか」
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