第2039話、魔力生命体を追う理由
ルカー・ストラーフは、アポリト文明時代の遺跡に、無人兵器を配置した。古い伝説に記される存在『魔力生命体』を求めて。
異星人――アンバンサーの技術を用いて作った無人兵器は、古い文明の跡地を見張っていたのだが、つい先日、その遺跡のひとつに侵入者があった。
こちらが遺跡を見張っていることを通報されると面倒なので、警戒部隊を向かわせたが、相手も武装しており、返り討ちにあった。
戦闘機があることから、どこぞの貴族の私兵か傭兵だろうと見当をつける。シーパング同盟系列の航空機だったらしいが、果たして何をしに遺跡にやってきたのか。
「まさか、同盟も魔力生命体を追っている……?」
ルカーが呟くと、副官は口を開いた。
「同盟が……ですか?」
「確証はない」
その侵入した機体なり、護衛の戦闘機を撃墜できれば、残骸からどこのものか調べることもできた。だが敵は、こちらの無人兵器を撃退して逃げおおせた。恐ろしく腕のいい敵だったのだろう。
無人兵器も決して性能が低いわけではない。ナチャーロ文明のゴーレム技術は、現代のそれと匹敵する高度なものだ。大陸戦争で兵器の質が爆発的に上がったために、相対的に並ばれたが、それがなければ現代の技術を上回っていたに違いない。
「しかし、魔力生命体でも追っているのでなければ、あんな遺跡にわざわざやってくるか?」
「わかりません」
副官は答えた。
「どこぞの貴族が遺跡調査をしにきただけかもしれません」
「たまたま、偶然か……」
ルカーは腕を組んだ。何とも面白くない事態だ。相手の目的がわからないというのが歯がゆくてかなわない。
その逃がした連中が、シーパング同盟に属していたら……。軍人だろうが民間人だろうが、それはどちらでもいいが、同盟軍が本格的に動き出すかもしれないのが厄介この上ないことであった。
同盟軍が動くことがないように、注意を払ってここまでやっていたのだ。大きな戦いが近づいている今、同盟の注意を引くことは避けたい。
それでなくても、ネオ・ナチャーロ穏健派勢力の町を焼き払ったことで、同盟軍諜報部が動いていたのだから。より注意深く動く必要があった。
「将軍閣下、よろしいですか?」
副官は尋ねた。
「開戦までに、魔力生命体を捕獲できるのでありましょうか?」
「……」
そんなものはわからない――ルカーは憮然とした表情になる。
その生命体は魔力でできている。膨大な魔力を持ち、また世界中の魔力と繋がって存在している。だから消えることはなく、ずっとその形を保ち、生きているという。
「その存在は、現在まで確認されておりません。さすがに……別の方法を検討すべきではないでしょうか?」
伝説、幻の珍獣――誰も実態を知らない存在。そんな夢物語を追いかけることに意味はあるのか。
「莫大な魔力を獲得できればよいわけで、幻の魔力生命体でなくても、方法さえあれば代替できましょう」
「その方法とは?」
「はい。世界樹の種子――シードリアクターなどあれば、地下のあれに『火』を入れることができます」
「却下だ」
ルカーは即答だった。
「シードリアクターは、シーパング同盟が独占している。世界樹自体、奴らの本国にしかない」
世界樹の種子も100年に一度あるかないかの代物で、狙って採集など不可能な代物である。
「稼働中のシードリアクターを奪うというのは――」
「同盟軍の注意を引くことになる。馬鹿者め」
攻勢を仕掛けるまで、存在していないように振る舞わなくていけないネオ・ナチャーロ真・武闘派である。いくら『借り物の戦力』以外を自前で揃えるためとはいえ、同盟軍に察知され、潰されてしまっては意味がない。
「申し訳ありません!」
「フン。まあ、シーパング同盟と戦争となった後なら、貴様の提案を実施するのも吝かではないがな」
もう戦争となったなら、存在を隠す意味もなくなる。戦力があって、同盟軍に隙があれば、本国に乗り込んで、シードリアクターを強奪するという手も検討に値する話である。
借り物の戦力だけで、戦争が終わるともしれず、あるいはネメジス、ヴァラン国が倒れることになった場合でも、自力で戦える戦力はネオ・ナチャーロとしても確保しておきたい。
「だが、まだその時ではない。同盟軍の注意を引かず、魔力を獲得するには、伝説の魔力生命体を捕獲することが近道ではある」
ルカーはそう言ったものの、副官の表情は浮かない。そもそも魔力生命体の存在を信じていないのだ。そんな幻を追い続けることに何の意味があるのか。
もし実在し、捕まえることができたなら、ナチャーロ文明の遺産――地下に眠る自動兵器群を復活させることもできる。
これはかつての文明が滅びた後もしばらく生産が続けられていたもので、軍隊として活用できるなら、ネメジスから提供された戦力の数倍になる規模とされる。
これだけでシーパング同盟軍を圧倒できるが、さらに禁断とされる兵器群もまた眠っているとされ、これを蘇らせるためにも莫大な魔力が必要であった。
これらを復活前に、他の勢力に奪われるわけにはいかない。故に、ルカーは共闘するネメジスやヴァラン国にも、このことを伝えていない。
秘密を守るため、シードリアクターを奪って同盟軍の注目を集めたくないというルカーの心象もわからないではないが、だからといって幻影を真顔で追うのもどうかと思う副官であった。
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