第2037話、ストラーフの手掛かりを追う。
「ルカー・ストラーフ……?」
シェールィ・カニェーツは、その名を反芻し、そして答えた。
「いいえ、知りません」
ナチャーロ文明、最後の王妃の血を引いている娘。なおその王妃が王亡き後、当時の反乱軍の英雄クルフとやって生まれた子が、シェールィの直接の先祖だという。
ナチャーロの姫……だったはずが、一転して反逆者の子孫となって、神聖・魔法国から亡命する羽目になったのが彼女である。
白いフード付きのローブをまとい、アミール教のシスターをしている。……俺の本音を言うと、行事でもないのに教会には近づきたくない。それでも直接会いに行ったのは、シーパング本島にある教会ながら、電話がないから。
では念話で、という手もあるが、彼女たちアミール教は、俺からの念話はその場で直立不動の姿勢で応じる。何時、如何なる作業中だろうが、はたまた横断歩道を渡っている時だろうが、立ち止まって念話に集中する。
……あの時は、事故にならなかったけど、クラクションが酷かったにもかかわらず、教会関係者は念話が終わるまでその場を動かなかったという。どうかしている。その件で教会にクレームが入ったらしいのだが――
『神との交信中は、すべてにおいて優先される。当然ではないですか』
と、真顔で返されたという。まったく悪いとも思っていないということで、回り回って俺にクレームがきたのだから、それ以来、教会関係者に念話はいれないことにしている。
閑話休題。
ネオ・ナチャーロ穏健派を襲った過激派の指揮官らしい人物、ルカー・ストラーフについて、あの組織の幹部だったシェールィに聞きに行ったのだが……。
「わたしが、あの国を離れて10年経ちましたから、今は知らないことのほうが多いですよ、アミウール様」
「そうなんだろうけどね」
10年は馬鹿にならないのは認める。だがね――
「君は幹部で、そのルカーって男も、いま将軍ってことは、10年前にもそれなりの地位にいたと考えるのが自然じゃないか?」
当時は中堅幹部だったかもしれないけど、少なくとも幹部連中の中にいないと、将軍まで上り詰められないんじゃないの?
「確かにそうなんですけれど」
シェールィはわずかに首を傾け、細い指で自身の顎のラインを撫でた。
「しかし、まったく記憶にないんですよね……。わたしが国を離れた後、外部から加わった方なのではないですか?」
「外部?」
はい、とシェールィは頷いた。
「ナチャーロ文明の子孫が、あの時のグループにいた者で全員ということもありません。別のグループで活動されていた方、あるいは神聖・魔法国の存在を知った子孫が合流したのかもしれません」
「なるほど……」
「それで将軍ということは、別グループを率いるような方だったり、先祖が高名な――」
言いかけて、シェールィの動きが止まった。
「どうした?」
「ストラーフ……。ストラーフ……?」
急に首をかしげ、腕を組んで考え込む。何か引っかかったらしい。
「……そういえば、昔、そんな名前の将軍がいたかも」
「会ったことがある?」
「いえ、いえいえ。かつてのナチャーロ文明時代の話ですから、直接会ったことなどありません」
シェールィは腕をブンブンと振り回した。袖が凄い。巨大なうちわで仰いでいるみたいだった。
「その昔、ストラーフという将軍がいた……ような気がします」
「気がします?」
「申し訳ありません、うろ覚えで」
シェールィは謝罪した。なるほどね、その昔、同姓の人物がいて、その子孫らしいということか。何代も続くうちに名前も変わることもしばしばだが、シェールィの時もそうだが、案外残っているものなんだな。
ナチャーロ文明時代の資料を調べれば、先祖だ子孫だくらいはわかるかもな。それが今のルカー・ストラーフについて、詳細がわかることはないが、手掛かりにはなりそうだ。
「ありがとう。その方面でちょっと探ってみるよ。それと――」
話は変わるけど、かつての君のお仲間たち、そのルカー・ストラーフとその一味によって多くが殺された。
10年前、クルフ・ラテースの血が発覚したことで、袂を分かったとはいえ、知り合いも多かっただろう。新規に加わった者たちは知らないとはいえ、古株は皆知っていたわけで。
「……ええまあ、別れの時は、さほど厳しいことを言われたわけではありませんでしたが」
ただ、とても気まずい雰囲気で、暗に出て行けという空気はひしひしと感じたとシェールィは言った。とはいえ、その仲間だった者たちが死傷したと聞いて『ざまぁ!』というような感情は微塵も浮かばなかったようだ。
「とても残念です」
知り合いだもんな。10年前といったって、訃報を聞けば、悲しくはなる。
・ ・ ・
「ありました」
古代研究資料館の職員が、発掘資料から、ストラーフ将軍なる人物を探し出した。
「ナチャーロの東方将軍の一族で、ストラーフ家というものがあります」
資料を撮影し、それをコピー、本にまとめたものを俺は見せてもらう。
「魔鎧機『ヴァダパート』を操る操者とあります」
「ヴァダパート」
魔鎧機といえば、大陸戦争時に発掘されたナチャーロ文明時代の魔神機もどき。リーレとトモミが操った『ヴルカーン』『ガラー』がそうだったような。
名だたる将に与えられるナチャーロ文明のエース。量産型の鎧機とは、パワーも能力も異なる代物だ。
そういえば、神聖・魔法国の連中は鎧機とか魔鎧機を持っていなかったが、ナチャーロ文明の子孫というなら、こういうのを保有していてもおかしくなかったわけで……。
ルカー・ストラーフも、ひょっとしてこの魔鎧機を持っていたりする……?
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