第2036話、ネオ・ナチャーロ過激派
「ここのところ、君とはよく話しているね」
俺が言えば、グレーニャ・ハルは画面越しにもわかるくらい眉をひそめた。普段から淡々としていると言われる彼女だが、俺の前では割と表情はわかりやすい。
『私と毎日会うのは嫌かしら?』
「仕事が関わらなければね」
でも残念、用もなく君がかけてくることなんてない。面倒がほぼ確定しているんだ。
それより、画角と背景、そして画面が若干震えているところから見て――
「移動中かい?」
『そう。それ込みで、貴方にも連絡しておこうと思ったのだわ』
「旅行のお誘いかな? それとも、俺に見せつけるつもりか?」
冗談を言えば、グレーニャ・ハルは澄ました顔で言った。
『旅行のお誘いよ。暇だったら来て』
マジですか。彼女の言葉は、本気なのか冗談なのかわからないから困る。
「ちなみにどこだい?」
『場所のデータは転送する。ネオ・ナチャーロ――神聖・魔法国の隠れ町』
「なんたる偶然!」
俺もそのネオ・ナチャーロのことで、最新の情報を問い合わせようと思っていたところだ。
「で、なんでそこに向かおうとしているんだ?」
もしかして、今回のネメジスと組んでいる連中のことで、ネオ・ナチャーロ側から何か証言が得られたのか?
『前々から、神聖・魔法国は要注意監視対象だったのだけれど――』
グレーニャ・ハル曰く、十年前の怪獣騒動の時から。あの連中がまたもよからぬことを企まないか、密かに見張っていたという。
……まあ、当然だな。それだけのやらかしがあるわけだし。俺も見張るように言った記憶から、誰かが監視しているということは知っている。
『その監視対象の一つである隠れ町が、襲撃を受けたの』
「襲撃……?」
それは穏やかではないな。
「敵は? 誰が襲ったんだ?」
『監視の報告では、相手はネオ・ナチャーロ。つまりは、内紛ね』
内紛……。ネオ・ナチャーロがネオ・ナチャーロに襲いかかったと。
「片方は、ネメジスやヴァラン国と組んでいる連中ということになるのかな」
『おそらくそうでしょうね。……現場を検証しに向かっているのだけれど、来る?』
「行きましょう」
俺は席を立った。送られてきた座標と映像を確認して、お出かけである。
・ ・ ・
それは周りを岩山に囲まれた窪地にあった。立ち並ぶ四角い建物が至るところに建てられていて、建材は石をブロック状にしたものを使っていた。
残っている建物を見れば、割としっかりした造りなのだが、如何せん襲撃の後だけあって破壊の跡が生々しい。
血の臭いが空気に混じっていた。動いているのは、シーパング同盟情報局の構成員たち。周囲の監視、生存者の捜索、破壊状況の検証などをやっている。
「どんな様子だ?」
俺が尋ねると、局員から話を聞いたグレーニャ・ハルが説明した。
「生存者は十名。もっとも、無傷の人間はなし。全員、ほぼ瀕死。手当はしているけれど、半分助かれば御の字で」
「……」
それはまた徹底的にやったものだ。襲撃したネオ・ナチャーロの連中は。同胞だったはずなのに、こうまでやるものなのか。
「対立の原因は、やはり主義主張の問題か?」
「おそらく。この隠れ町は、前々から他国と干渉せず、独自に発展してきたから、差し詰め穏健派。攻撃してきた連中は、ネメジスとヴァラン国に協力する過激派というところでしょうね」
ふむ……。怪獣騒動から十年。それまで無事にやってきたというのに、世界情勢がキナ臭くなってきたらこれとは。
「いったい何があったんだろうね」
怪しいな。タイミングがタイミングだけに。
グレーニャ・ハルは考え深げな顔で言う。
「ネメジスと動きを連動させているのであれば、口封じじゃないかしら?」
「口封じ、ね」
過激派連中の情報が、穏健派からシーパング同盟などの余所に伝わらないように、か。徹底しているな。
「つまりは、外部に漏れては困るということだ。こりゃ、ヴァラン国だけじゃなく、ネオ・ナチャーロもほぼ同じ時期に仕掛けてくるな」
同盟は組んだが、攻撃のタイミングはバラバラ、様子見なんてこともあるだろうが、情報漏洩を気にする辺り、ネオ・ナチャーロ過激派の行動も近い。
「で、情報局は過激派の動向はどこまで掴んでいるんだ?」
ネオ・ナチャーロの監視の中で過激派かどうかは知らなくとも、動いている者たちを追っているんじゃないか?
「いくつか追っているのだけれど、過激派かどうかは不明。見張っている限りは、どれも穏健派的立ち位置にあるけれど」
グレーニャ・ハルは顔をしかめた。つまり、ほとんど掴めていない、ということか。
「とりあえず、今、わかっているのは、ここを襲った主犯くらいね」
写真を渡される。うわ、筋肉質で強そうな男。
「ルカー・ストラーフ。ネオ・ナチャーロ戦闘部門を担う将軍」
「魔術師ってふうには見えないな」
いかにも戦士、という外見だ。魔法第一主義のネオ・ナチャーロの系譜からすると、ちょっと印象違いなんだよな。
「彼の戦闘部隊が、ここを襲った。味方だと思っていたから、住人たちも為す術なかったみたいよ」
「昨日までここを守るお巡りさんだったのが、いきなり襲ってきたら、まあ、そうなるな」
ネオ・ナチャーロ過激派。将軍ということは、こいつはリーダーか?
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