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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2045/2056

第2035話、一歩を踏み出すために


「ノースパークを構成する異空間の操作ですか……」


 マーカント監督――かっこ、うろ覚え――は、俺の問いに首をかしげた。


 彼の映画スタジオ。本日の撮影が終わったところである。とった画の確認作業があるというクルフ君の貴重な時間を、俺は拝借している。


「それまた何故……と聞いたらいけませんかね。ネメジスに仕掛けるおつもりですか?」

「ネメジス、ヴァラン国、ネオ・ナチャーロ。現状から見て、どれを一番殴りやすいかと考えたら……わかるだろう?」

「それはそうですな」


 元大皇帝であるクルフである。政治の話も、戦争の話もわかる男だ。


「結論から言ってしまえば、私にも扱えませんよ。理由? あの異空間を作ったのは私ではないからです」


 なるほどね。自分で作ったものじゃないから制御もできませんよ、ってことだ。俺がアポリトソフォス学校のランチスペースについて抱いた感想と同じだ。


「ノースパークの異空間を作った人は……?」

「大昔に亡くなりました。我々と違い、不老ではなかったので」


 だよな。アポリト文明がいつの時代だって考えれば、エルフなどでもなければ無理……いや、エルフだって特別な処置なしでは不可能という話だ。


「そうなると、問題になってくるのは――」

「ネメジスが、あの異空間を操作できるか、ですね」


 クルフは俺より先んじてそれを口にした。


「私の時は奇襲ということもあったのですが、あの空間自体には何も起きませんでした。ただ、あれをネメジスが制御できるとすると……」


 危ない。わかっている。シーパング同盟軍の作戦本部も同様の危惧を抱いていた。


「お前が一度襲撃しているからな。秘密の拠点のつもりならそれがバレた時点で、別の場所へと撤退するのが自然だ」


 自軍は撤退させ、二度目の攻撃を受けた場合、ノースパークの空間を閉じて、襲撃者を異空間に閉じ込めるなんて作戦も思いつくわけだ。


「連中が異空間を制御できないなら、そのまま仕掛けたとしても、被害はないでしょう。ネメジスに仕掛けるなら、まず連中が異空間をどうこうできるか探る必要があるでしょうな」

「やはり情報か」


 情報は戦いを制する。まさに、知らずにいれば最悪の場合を想定して身動きできないが、危険がないと分かれば一気に叩きにいけるのだから。


「先行の偵察部隊がいるな」


 敵地に潜入し、異空間操作の有無を確認する。もしその手段が機械を使った装置などがあれば、それを奪取することで、敵に異空間を閉じられても操作し返して脱出もできるだろう。



  ・  ・  ・



 クルフと別れた後、俺は早速、シーパング同盟軍のアッシュ・クリーク大佐に連絡を入れた。


 こちらとしては異空間をいじる人材がいないことが判明したので、それに代わる提案をしておく。


 異空間を操れる術をネメジスが保有しているかの調査。なければ作戦本部が考えているような、ノースパークへの全力攻撃が実行できる。操る方法があるなら、それを奪取することで、こちらが逆に利用できるようにする。


 それを聞いたクリーク大佐は大喜び。俺に感謝を言いつつ、計画を練りますと通信を終了した。


 ふむ、これでいざドンパチが始まるまで俺の出番はないかな。……まあ、好きで戦争をしているわけではないし、可能なら避けたいがね。


 さて、俺は、アポリト文明の遺跡に潜伏していた円盤と六脚機械、ついでに謎戦闘機のことに思考を向ける。


 円盤にはネオ・ナチャーロの紋章があり、そこから推測するにあの謎戦闘機もネオ・ナチャーロのものという可能性が高い。


 ……ネオ・ナチャーロね。


 自分たちの国を自力で作ろうと向かった者たちは、シーパング同盟と事を構える様子はなかったが……。あれから10年も経てば、人も考え方も変わるか。


 怪獣騒動を鎮圧されて、一度は諦めた彼らが再び世界征服に目覚めたか、一部のヤベー思考の者たちの仕業か。


 あの魔術師至上主義者たちが、その他と組むイメージがないが、他を利用して漁夫の利を得ようとするパターンは考えられる。


 かつての俺のいた世界、第二次世界大戦でソビエト共産主義者は、ドイツとイギリス、日本とアメリカを争わせることで、共産主義外の勢力を弱らせるという工作を行った。


 あれだけ共産主義を敵視していた者たちが揃って潰し合いになり、あまつさえ共産党スパイにそそのかされたアメリカはソ連にレンドリースという名の物資、武器援助を提供した。


 戦後、お支払いいただく制度だが、ソ連は見事にそれを踏み倒して、第二次大戦後は、東西冷戦の主役に躍り出た。世界中が危険だとわかっていたのに、終わってみたら二大強国の片割れに収まっているのだから性質が悪い。

 ウィンストン・チャーチルも、蒋介石も、東条英機も、スターリンとソ連共産党が危険だとわかっていた。フランクリン・ルーズベルトは、彼の取り巻きの共産党シンパの口車に乗って支援をした。


 ソ連からすればどいつもこいつも敵だったが、裏工作で上手く敵を弱体化させることに成功したわけである。


 ネオ・ナチャーロは、怪獣騒動を利用した漁夫の利を得ようとした前科がある。自分の手を汚さず、美味しいところだけ持っていこうとしたところが。


 今回のシーパング同盟に戦いを挑もうとしているのが、彼らの総意なのか、一部の過激派の暴走なのかはわからないが……この辺りも、探っていく必要があるだろう。安易に決めつけるわけにもいかないということだ。


 と、そこへ、シーパング情報局、グレーニャ・ハルが俺に連絡を寄越してきた。奇遇だね、俺もちょうど君と話をしたいと思っていたところだ。

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