第2034話、最初の一歩は
その日、シーパング同盟軍司令部の高級参謀が、俺を訪ねてきた。
軍とか仕事の話だろうから、家ではなく事務所のほうで話を聞こうか。
「――アッシュ・クリーク大佐。こちらはセーノ・カッターレ中佐です」
「どうぞ、よろしく」
自己紹介を終えて、テーブルを挟んで向き合う。お菓子をどうぞ。腰を据え、会談は始まる。
「閣下は、今回の状況はどこまでご存じでしょうか?」
クリーク大佐は尋ねた。がっちりした体躯。背丈は高く、しかし顔つきは穏やか。赤毛は短めに、清潔に刈り揃えていて、広報などの仕事も絵になりそうな男である。
「どこまで、と言うと――」
ネメジスという存在と、それとヴァラン国とネオ・ナチャーロが組んで、同盟に戦争を挑もうとしていることとか?
「さすが、ご存じでしたか。では話が早い」
俺が知らなかったら、どこまで話すつもりだったのかな? 一応、一般に公表していない、できない情報や軍機もあるだろうに。
「これは司令部から許可を得て、開示する話ではありますが、くれぐれもご内密に願います」
「心得た」
つまり軍事機密に関係する話も含まれているわけね。理解した。
「同盟軍としては、近いうちに起こりうる戦争に対して、被害を可能な限り減らす方向で、作戦案を練っております」
そうだろうね。議会は戦争を回避したいようだが、それが避けられなくなった時、対策の一つもなくては困る。戦争になる、ならないにしろ、軍は防衛計画や反撃計画を考えるものである。
いざことが起きた時、迅速に行動できるように。……理想を言えば、それが現実にならないほうがいいわけだけど。
「――現状、ネオ・ナチャーロについては情報が不足しており、こちらとしても後手に回らざるを得ません。ヴァラン国は、政治的な対応が絡むため、先制攻撃は困難であります」
そこで――クリークは言った。
「すでに我が同盟に対して攻撃を仕掛けてきたネメジス軍に対して、報復を行います。これにつきましては、国家ではなく武装勢力であること。反撃になるために、政治的にも問題になりにくいという点から推奨されます」
クリークが合図すると、カッターレ中佐がノートパソコン型データパッドを操作し、俺にそれを見せた。
「彼らの同盟については不確かではありますが、すでに敵として攻撃してきたネメジスをまず叩いてしまえば、残り二つの繋がりも解消されます。あわよくば、彼らも戦争を諦めるかもしれません」
そうだといいんだがね……。俺はそこで口を開いた。
「情報局から話は行っていると思うが、ネメジス軍の拠点――ノースパークは異空間通路を通った先にある」
「はい、閣下。ですので、まず閣下に案を聞いていただこうと思いまして、こちらに参上した次第です」
クリークは頷いた。データパッドの画面に、シミュレートが表示される。異空間に同盟軍艦隊が入り、ノースパークを攻撃するという簡単なアニメーションだ。
絵も簡単だが、作戦自体も難しいことはない。同盟軍の主力艦隊が侵入し、防衛してくるだろうネメジス艦隊を撃滅。その後、ノースパークに陸上戦力を上陸させて、制圧する。
シンプルだが確実な戦術だ。マニュアル通り過ぎて、面白味に欠けるが。
正直、異空間でなければ俺に話を持ってくるまでもない作戦であった。
「――司令部ではこの作戦について検討したのですが、いくつか懸念もあります」
「だろうね」
「敵の戦力について、まだまだわかっていないことが多いため、投入戦力は開幕から全力に近い力をたたき込みます。つまり、一撃粉砕です」
戦力を逐次投入して各個撃破される愚を犯さず、最初から全力で攻撃する。単純明快だが、真理でもある。戦力の集中は戦いの基本だ。
「ですが、それだけ戦力が集まった時、もし異空間の出入り口が閉じてしまうという事態が発生した場合、我々は袋のねずみとなります」
「まさに」
最近、アポリトソフォス学校でもあったね。異空間食堂の出入り口が閉じてしまって、生徒たちが一時的に閉じ込められてしまったやつ。あれ、結局、原因がまだわかっていないんだったな。
「敵は異空間を拠点にしているので、もしかしたらその出入り口を自在に操る装置なりを持っている可能性が考えられます。そうなってしまえば、我々は主力艦隊を丸々喪失してしまうことになります」
司令部参謀だけあってよく考えている。そこまで事態を予測しているというのは。
「そこで閣下にお尋ねします。ノースパークのある異空間、その出入り口を操作できるでしょうか?」
もし可能であるなら、この作戦はただちに認可され、主力をもちいた一撃粉砕作戦は実行されると言う。……うーん、そうだな。
「あのノースパークの異空間については、俺が出したものではないから、制御できるかについては、やってみないとわからない」
異空間の出入り口を作るのは、繊細なものだ。学校のランチスペースは、俺が作ったものだから、どう触ればいいかわかっていた。どこの誰が作ったかわからない異空間の出入り口となると、調べないことには何とも言えない。
「正直に言って、難しいな。仮に制御できれば問題ないが、できない場合はノースパークに乗り込むこと自体が危険だ。いや、ネメジス軍が異空間を制御できる場合、と言うべきか」
それができるなら、おそらく彼らは同盟軍艦隊の襲撃を予期して、ノースパークから司令部施設と軍を撤退させるだろう。そこへ同盟軍艦隊がのこのこやってきたら、異空間を閉じて、艦隊を隔離する。
同盟軍の戦力を大きく除外すれば、ミリタリーバランスが崩れ、ネメジスとその同盟は、より楽に戦争を仕掛けることができるだろう。大規模な戦争を避けるための攻撃で、むしろ大戦になってしまうのは、皮肉が過ぎる。
「なるほど、それはまずいですね」
クリークは複雑な表情になる。懸念がそのまま、作戦どころか同盟崩壊の一助となってしまうかもしれないという話に、司令部参謀らも陰鬱な気分になる。
ノースパークのことなら、俺より詳しい奴に話を聞くべきだろうな。
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも掲載中!
オーディオブック1巻配信中。どうぞよろしくお願いします!




