第2033話、親父たちの晩餐
「戦争か……」
ジャルジー・ヴェリラルド王は天を仰いだ。俺の家で、晩餐にきていた彼の家族、そして先王のエマン。
夕食の後、ベルさんも交えて、俺たちは目の前に迫る危機について話し合う。
「ヴァラン国の連中の悪法には、オレも腹を立てていたが……」
ヴェリラルド国内で、ニーヴ人だから殺してもいい法に従い、ヴァラン人や殺しをしたい阿呆が町中で殺人をやらかしたらと思うと、民族は違えど腹立たしい。
公然と殺人を見せられるヴェリラルドの民の気持ちを考えろ、とジャルジーは怒るのである。トラウマ、精神的被害に対して、ヴァラン国は賠償、謝罪その他で償う気はあるのか。
「無茶苦茶をやると思ったが、なるほどな。こちらの態度を硬化させることで、それすらも戦争の際の言い訳に利用しようというわけだ」
シーパング同盟が、ヴァラン国に対して敵対的な姿勢を見せているとか、過剰反応、もしくは難癖をつけて、民に戦争一歩手前の状態にし、始まったら始まったで仕方ないというムードを作る。
「実に狡猾だな」
エマン先王が言えば、ベルさんも頷いた。
「理由なんてのも、連中からしても建前なんだぜ。何でもいいからとにかく戦争しようって口実作りさ」
嫌だねぇ、そういうところばかりやる気があるってのもさ。
ジャルジーは首を捻る。
「その次の王になるヴァイナーは……」
「リェート・ヴァイナー?」
「そう。そいつ、まだ若いんじゃなかったか? 歳はいくつだ」
「25って聞いたな」
何なら資料くらいは読んでいるんじゃないかね、ジャルジーよ。
「戦争は、一応知ってる世代か」
ジャルジーは唸る。ベルさんは酒を継ぎ足した。
「ガキの頃なのは違いねえな。戦争が終わっても、ニーヴァランカは内戦状態だったんだろう? 何もかもなくて、苦労した世代じゃないか?」
「貧しさ故に、力を求めたか」
エマン先王はお茶を飲む。酒は一日一杯までと自粛しているらしい。いい歳でもある。
「その根源は?」
「ニーヴ人への恨み、でしょうか」
俺が言えば、ジャルジーは頷いた。
「そうだな。そもそも、今回の人様の国を跨いだ法も、ニーヴ人絡みだからな。正当軍と大帝軍の戦いも、ニーヴ人とヴァラン人の戦いだったわけだから」
「彼の祖父が、ニーヴ人を虐殺したが、まあ恨みがあったんだろうね」
酒のつまみに、お刺身は贅沢か。我が家は日本食は普通。エマン先王も生魚が食べられるようになった口である。
「議会の方は、戦争は回避したいと思っている」
ジャルジーは一杯を呷った。
「だがネメジスの件も含めて、向こうが準備をしているのなら、こちらも先手を打つべきという声もある」
火事になる前に、ボヤのうちに鎮圧しましょうってやつだ。それでシーパング同盟の民に被害が出ないのであれば、先制攻撃もやむなしというね。
「すでに議会にも、ネメジスの軍備の写真やシーパングでのテロの資料が提出されている。ネメジスに対して、表向き知られている情報はないから、テロ鎮圧という建前で軍を動かそうって流れもな。ただ、ヴァラン国とネオ・ナチャーロの協力関係については、まだ確証に至る情報が足りないといって、二の足を踏んでいる」
「実際、どうなのだ?」
エマン先王が尋ねた。
「戦争確定というが、ヴァラン国の軍隊は動いているのか?」
それがあれば、同盟議会でも対応せねば、という空気にもなる。俺は首を横に振る。
「軍の情報局も含めて、現状、動きはなしです。国境の軍が増強されたとか、大規模な部隊の移動など観測されていません」
「そこなんだよな」
ジャルジーは言った。
「ヴァラン国が明確に戦争準備をしている、それを匂わせる動きがまったく掴めていない。だから、本当にヴァランが戦争をするつもりなのか、議会は自信がない」
だから、同盟議会もヴァラン国に対して意見がまとまらないわけだ。それっぽい雰囲気をしつつも、ヴァラン国は戦争を仕掛けてこない、あるいはネメジスらに加わらないのではないか、という憶測を呼ぶ。
フリだけしているところに攻撃して、実はその気がなかったのにやむなく戦争しなくてはならない状況にしたくはない。
「それで」
エマン先王は首をかしげた。
「ヴァラン国の軍備は、シーパング同盟と戦えるだけの戦力があるのか?」
十年前のニーヴ人虐殺の横やりが入って以来、軍備増強に邁進していたヴァラン国である。その戦力も、独自に空中軍艦、航空機、魔人機など取り揃えている。
「形としてはそれなりに。シーパング同盟以外の国が相手ならば、かなり優勢に戦える能力はあります」
「同盟軍に対しては?」
「その性能はまだ及ばない、という評価です」
他国から技術を入れているとはいえ、肝心のシーパング同盟には後追い状態。最新の軍からの公開資料でも、まだ互角には程遠いとあった。
ただ――
「ネメジス側の技術、兵器の提供があるようなので、格下と見るのは危ない。リェート・ヴァイナーの諸外国に対する強気な態度も、兵器の質、量の底上げがあったからかも、とも考えられます」
「そうだな。普通、同盟に対して喧嘩を売るなど、よほどのことがないとやろうとはおもわん」
ジャルジーが眉間に皺を寄せた。勝機があるか、どうにもならないが抵抗しなければという追い詰められての行動でもなければ。……現状、シーパング同盟はヴァラン国を追い詰めるような行動はしていないので、後者はない。
「ネメジスとネオ・ナチャーロという同盟者が、ヴァランを後押ししているかもしれない」
「そう考えるなら――」
ベルさんが口を開いた。
「そのどっちかを潰して、連中が結託できないようにしたら、戦争は避けられるかもしれねえな」
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