第2032話、避けられないもの
ヴァラン国の国葬で起きた事件は、ただちに周辺各国にも伝わった。
王様――大帝が変わるほどの大惨事だ。今後の外交にも絡んでくることだから、すぐに周知されるものである。
当然、気になるのは、次の指導者がどういう人間で、政策はどうなるか、である。周辺国との関係、思想など、過去の発言などを掘り返して、ヴァラン国がどうなるか推測する。
「……次の大帝は、リェート・ヴァイナー。25歳」
シーパング同盟情報局、グレーニャ・ハルは、俺にその写真を見せた。
「初代大帝の孫。大帝を継いだ二代目大帝の次男……」
「長男は、二代目大帝と共に爆死……」
シーパングの報道も数日この話題を取り上げていたから、大体知られている話だ。
「犯人は?」
「ヴァラン国の公式発表では、ニーヴ武装組織による爆弾テロということになっているのだわ」
「本当のところは?」
「調査中。本当にテロなのか、まだ確証は得られていない」
つまり、あちらの公式発表しかソースがないということだ。公式発表が、必ずしも正しくないのが国や政府、その他諸々というものである。
「ただ、よくない方向に向かっているのだわ。ヴァラン国はニーヴ人に対して無制限の殺人許可法を出してきた」
なんだそりゃ。その昔、ヴァラン国成立前に、ニーヴ人の虐殺をやったという前科がある。いやな予感しかしないね。
「ニーヴ人を殺しても罰せられない法律」
「また虐殺がしたいのか、彼らは」
実に不愉快極まりない。民族紛争をこじらせると、この馬鹿法がまかり通るからいけない。……しかし、あの国、もう国内にニーヴ人はいないのでは?
「しかも対象は国外も含まれる」
「は?」
聞き違いかな。国外も、と言ったか?
「ヴァラン国の外にいるニーヴ人も対象。つまり――」
グレーニャ・ハルは思い切り顔をしかめた。
「あなたの作ったニーヴ人たちの島に、ヴァラン人が乗り込んで、そこで殺人してもお咎めなし、って話」
「そんな話が通ると思うか?」
本当に正気を疑うね。無茶だよ。グレーニャ・ハルは肩をすくめた。
「通るわけがない。シーパングでそんな殺人やらかせば逮捕されるし、抵抗すれば鎮圧だってされるわ。でも、これはヴァラン国の法だから、それで逮捕された者は罪に問うのは内政干渉で、外交問題だと抗議するそうよ」
「ふざけた法だ。こちらの国と法を侵害している。その悪法自体は、他国の主権を侵害している。まともな国のやることじゃない」
これはある意味、戦争だぞ。ここまで不快な話はそうそうない。
「無茶な話ではあるし、同盟議会内でも反発の声は出ている。これは他国に自分たちの法を強制させているのだから、無礼にもほどがあるっってね」
グレーニャ・ハルは眉をひそめた。
「つまりは、そういうことよ。ヴァラン国はネメジスとネオ・ナチャーロと共に戦争を仕掛けようとしている。この法は、ヴァラン国のニーヴ人への意思表明であり、同時に同盟の不快感を煽り、国家間の対立を作ろうとしている」
そしてその関係悪化を口実に国内を、シーパング同盟憎しへ駆り立てる。
戦争をやるにも大義――理由がいるわけだ。指導者が戦争をすると言ったところで、家臣や民がついてくるかは別問題。表向き動員はできても、士気がなければその軍隊は見かけよりも弱い。
要するに、指導者は部下、民衆をやる気にさせないといけないわけだ。そこで敵を作り、そいつが悪いとすることで、一体感を形成する。先祖の代からの恨みというのは、権力者からしたら利用しやすいもののひとつである。
とある国が一定の国を名指して非難するのも、自分のところの民の不満を外側に向けさせたり、戦争かそれに近いことを仕掛やすくするための下準備だったりする。
「あまりに強気過ぎるんだよな」
まともに考えれば、ヴァラン国の法を他国に強要ができるわけがないとわかりそうなものである。
それを承知でやるとしたら、国内向けのアピールか、同盟と不仲にさせることで戦争に突入もやむなしの空気を作るための無茶ぶりか。
「まあ、ヴァラン国が、ネメジスとつるんでいるという話が、今回の件でより鮮明になったというか。裏で繋がっている連中のことを考えれば戦争……本気だな」
ヴァラン国の政権の動きは、戦争準備とみて間違いないだろう。
「情報局のほうで、同盟議会に伝えたほうがいい」
俺が言えば、グレーニャ・ハルは腕を組んだ。
「軍との共有はしているけれど、議会がこの話をしたとしても、先手が取れるとは限らないのだわ」
「それはそうだろう。同盟軍は防衛型の軍隊で、こちらから仕掛ける軍隊じゃない」
他国に攻め込む時は、その国に攻撃された後、というのが建前だからね。
「だからといって、先制されて軍隊半減なんて間抜けもできんわけだ。攻撃をしないからといって、無策でいいわけではない」
政治家は前線に勝手ばかり言うからな。戦争回避、兆候がみえても、こちらから攻撃するなと言っておきながら、いざ被害が出たらそのことに文句を仰る。大衆も政治家も、鳥頭だから、自分たちが何を言っていたか、すぐにお忘れになられる。
「やりきれないな」
「何がかしら?」
「たぶん、ギリギリまで戦争回避で世の中は動くと思う。それで回避されるなら、万々歳だが……」
仕掛けようとしている奴以外は、誰もが戦争なんかしたくない。あれだけ人の死を見てきたんだ。ああいう光景なんぞ、二度とみたくない。
「だが、すでに片方が戦争決定で動き出した。奇跡を信じたところで、もう確定している以上、戦争回避の努力が無駄になる。それがわかっているとなると、戦争になるまでの時間が、ひどく虚しくならないか?」
次期大帝、リェート・ヴァイナー。彼はネメジスとネオ・ナチャーロと組んでいる。
シェイプシフター諜報部が得てきた情報と考え合わせると、父シゾーン爆殺は、ニーヴ人テロリストではなく、リェートの陰謀の可能性が高いな。
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