第2031話、大帝亡き後のヴァラン
ヴァラン国の新たな大帝であるシゾーン・ヴァイナーは、爆発に巻き込まれて死亡した。
治癒魔法、その他手当は間に合わなかった。即死だったからだ。死者を蘇らせる術は、存在しないとされる。
ヴァラン国初代大帝、ゴート・ヴァイナーの国葬の日、二代目大帝も死んだ。次の帝位は、シゾーンの次男であるリェート・ヴァイナーに転がり込む。
兄であるヴェスナーは父シゾーンと共に死んだ。血筋の話をするならば、他に候補はいなかった。
オレの天下だ――リェートはしかし、それで喜ぶのはつかの間であった。これから起こる、起こすことを考えれば、王になったとて安泰ではなく、ヴァラン国もまた嵐に見舞われる。
そうした苦難が控えているとなれば、まったく楽しい気分にはなれないのである。
リェートは、各省庁長官ならびに大臣を招集し、先の国葬会場での爆破、二代目大帝の死とその後始末、そして今後についての会議を行った。
「――先の爆破につきまして、実行犯はニーヴ人でした」
警察省長官の報告に、会議室はざわついた。
「ニーヴ人? 間違いないのか?」
「最近、国内でテロを起こしていたニーヴ人武装集団、『血の報復戦線』の構成員だ。捕らえた不審者の所持品から、仲間への連絡と爆破会場の図面、さらに予備の爆弾が回収された。我らヴァランへの宣戦布告のつもりなのだろう」
警察省長官が、苛立ちを露わに言う。こういうことがあってはならない組織だが、国葬に泥を塗り、二代目大帝の命まで奪われた。長官は立ち上がった。
「殿下。この度の失態、面目次第もございません。如何なる罰も受ける所存であります」
「確かに。本来であれば腹を斬るべき失態だ」
リェートは冷淡に告げた。周りの長官、大臣たちは息が詰まったように静まり返る。
「オレは、前々からニーヴ人をこの世から殲滅せねば、ヴァラン国に未来はないと考えていた。まったく腹立たしいことだが、親父殿も兄上も、それを見誤っていた。そしてその甘さは、あの二人の命を奪ったのだ」
追放されたニーヴ人に何ができると侮った結果、眼中になかった雑魚どもによって殺された。まったくもって自業自得! まったくもって愚か! 愚かの極みだ!
リェートはしばし天井を睨んだあと、警察省長官を見た。
「ニーヴ人を放置したツケは、親父殿の命を奪った。貴様には、国内に潜伏するニーヴ人を一人残らず処分せよ。その完遂をもって貴様の罪を赦す」
「はっ、かならずやニーヴの豚どもをこの国より一掃致します!」
警察省長官は深々と頭を下げた。リェートは視線を、新たな人物に向ける。
「諜報部長官」
「はっ」
席を立つ諜報部長官は背筋を伸ばした。
「国外のニーヴ人コミュニティに対して、報復の計画を立てよ。ニーヴ人テロリストどもの温床だ。この世からニーヴ人は抹殺せねばならない!」
「承知いたしました」
「殿下――」
外務大臣が挙手した。
「国外のニーヴ人への攻撃は避けるべきかと」
周りがざわつく。王子殿下――直に大帝となる人物に対して、いきなり異を唱えるのは、彼の機嫌を損ねるのではないか、と不安になったのだ。
リェート・ヴァイナーは、前々よりニーヴ人を敵視をしており、攻撃的であることを皆が承知している。特に肉親を失い、ヴァラン国の名誉が汚されたと鼻息も荒い時に、方針に逆らうようなことを言えば、更迭どころか最悪、反逆と取られるのではないか。
「意見を申してみよ」
リェートは外務大臣に告げた。恐れながら、と大臣は答えた。
「ニーヴ人に対する報復につきましては、私めも賛成ではありますが、国外のニーヴ人コミュニティへの攻撃は、シーパング同盟に介入の口実を与えることになります」
「内政干渉だろう。我が国の問題だ」
「亡命ニーヴ人につきましては、同盟内に島を持っております。彼らはシーパング同盟に加入しており、そこへの攻撃は同盟全体の反撃を呼びます」
同盟外からの攻撃、侵略に対して同盟各国は断固戦う。同盟内のニーヴ人への攻撃は、強大なシーパング同盟軍の逆襲を呼ぶ。
「だろうな」
リェートは先刻承知とばかりに、あっさりと返した。
「同盟内のニーヴ人については、報復計画を立て、しかるべき時期を見計らい実行する」
「同盟との戦争になりますが……」
「その時は、我々が先に同盟を奇襲する」
既定路線とばかりに、リェートは迷いなく言い放った。戦争と聞いて、動揺する大臣たち。落ち着いているのは軍務大臣ほか、リェートの企みを知る者たちのみ。
「順序としては、同盟外のニーヴ人コミュニティは早々に報復する。シーパング同盟は、この件を喚き立てるかもしれんが、同盟の外のことであれば軍も動けん」
ざわめきは止まらない。
「その間に我々は同盟に対する戦争準備を終える。そしていよいよ同盟内のニーヴ人どもに正義の鉄槌をくらわせたところで、それを宣戦布告の狼煙とし、我が軍はシーパング同盟に開戦する!」
リェートは力強く宣言した。おおっ、という感嘆の声を上げる者、動揺が止まらない者など反応は様々だった。
「殿下、シーパング同盟と戦争というのは……」
外務大臣は首をかしげた。
「ニーヴ人への報復はわかりますが、何故、同盟と戦争になるのでしょうか?」
「簡単だ。奴らはニーヴ人を保護しているからだ」
リェートは言った。
「その保護したニーヴ人が、我が親父殿を殺し、ヴァランの栄光に泥を塗ったのだ。豚どもをかくまい、支援した同盟は敵だ。……もしかしたら、ニーヴ人を焚きつけているのが同盟かもしれん。奴らに武器を支援し、我が国を弱めようとしたのはシーパング同盟かもしれん。奴らこそ、我々との戦争を望んでいるのだ」
「で、殿下――」
それは飛躍しすぎでは――大臣の言葉は、リェートには届かない。
「売られた喧嘩は買わねば、ヴァラン国の名誉は保てない。我々は弱虫の国ではない。手を出されれば反撃する。……忘れるな、我々は親父殿――大帝を殺されているのだ」
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