第2030話、国葬の惨劇
ヴァラン国首都、大帝の居城。シゾーン第一王子が、新たな大帝となる。その戴冠式に向けての準備が進められていた。
先帝たるゴート・ヴァイナーの国葬も随分と仰々しくなる。
「父上は、盛大に送り出してやりたいのだ」
息子であるシゾーンは、ヴァラン国を打ち立てた先帝に対する思いがあった。初老にさしかかっている高齢の王子だが、その息子であるヴェスナー第二王子は、顔をしかめるのである。
「静かに祖父を送り出すことはできないのですか、父上」
「……何が不満なのだ、ヴェスナー?」
「不満? ええ、不満です。葬儀は祭りでない。騒ぎ立てるのは、まるで祖父を蔑ろにしているかのようだ」
「それは違う」
シゾーンは、ぴしゃりと言い放った。
「父上が偉大であったからこそ、国をあげて送り出すのだ。そしてこの国がいかに大きくなったか、それを天におわす父上にも見ていただく」
あなたの育てた国はここまで立派になったと胸を張りたい――それが亡き父への手向けになるだろう。
「お前はどう思う、リェート?」
ヴェスナーは弟であるリェート第三王子に話を振る。さして関心がなさそうに振る舞っていたリェートは、ため息をついた。
「よいのではないか。兄貴は祭りではないと言ったが、これも一つの政であろう」
「言葉遊びをしているのではないぞ」
睨むヴェスナーに、リェートは煩わしそうに手を振った。
「兄貴。爺様は立派な人だった。このヴァランを支える大樹であった。だがその巨大な柱はなくなってしまった。民はこれを不安に感じているだろう。それを吹き飛ばす意味においても、親父殿の言うことも間違ってはいない」
「リェート……」
シゾーンは次男の言い分に感心する。このような真面目なセリフは、リェートからは中々聞かれないからだ。一方でヴェスナーは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「いつになく、まともなことを言うじゃないか」
「なんだ、まるで普段はまともではないような言い方ではないか、兄貴」
「お前がまともであったことがあるのか?」
ヴェスナーは辛辣だった。これには、リェートも眉間に皺を寄せる。
「あ? 今なんて言った?」
「やめんか」
父シゾーンは、息子たちの口論をやめさせた。
「兄弟で争うのは寄せ」
「オレはまともだよ。頭を冷やすべきは兄貴の方だろ。自分の思い通りにならないからって八つ当たりはみっともないぜ」
「何をっ!?」
「やめろと言っている!」
シゾーンは声を荒らげた。
「お前たちが喧嘩をしたところで何も変わらん。無駄なことに時間と労力を使うな。葬儀については私が決めた通りにする。異議は認めん」
そう告げて、シゾーンは退出した。ヴェスナーは不機嫌なまま、彼もまた去った。
独り残ったリェートは、従者にワインを開けさせると、グラスに注がせた。
「まあ、どうでもいいさ」
どの道、父シゾーンと兄ヴェスナーの寿命はあとわずかだ。奴らが何をしようが、もはや何も影響しない。
・ ・ ・
二日後、先帝、ゴート・ヴァイナーの国葬が執り行われた。首都の中央広場には大勢の民が集まり、ヴァラン国を打ち立てた偉大なる先帝に哀悼の意を表した。
だが、そこで事件は起きた。
次の大帝が決まっていたシゾーンとその息子ヴェスナーのいた席が突然爆発したのだ。王国の高官らを数人巻き込んだそれは、ヴァランの民たちを恐怖に陥れた。
城にいてバルコニーから広場を見ていたリェートは、静かに、誰も見ていないところで、口元を緩ませた。
「殿下!」
軍の佐官が、バルコニーに駆けてきた。振り返った時には、リェートの表情は大変引き締まっていた。
「何事だ? 広場で爆発が起きたぞ?」
「はっ! 原因はわかりませんが、爆発がありました。シゾーン陛下とヴェスナー殿下が爆発に巻き込まれ――」
「なんだと!? 親父殿がかっ?」
迫真である。内心では笑い出したい衝動が込み上げてきたが、表に出すことはできない。間違っても、この暗殺に疑いを持たれてはいけないのだ。
「怪我を負ったのか!? 大事ないか?」
「現在、手当てを行っておりますが……おそらくは」
「おそらく……? なんだ!?」
言葉を濁すな、とばかりにリェートは詰め寄った。まさか生きているとは思わないし、仮に生きていても、それはそれで別の手でトドメを刺せばよいだけのこと。
今回の爆発を仕組んだ犯人として発表される者たち――ニーヴ人へのヘイトも目くらましとなるだろう。結果的に、リェートの計画への影響は小さい。今は肉親に悲報に憤る身内と王子らしさを十二分に演じればよいのだ。
「会場に行くぞ」
「殿下!? まだ危のうございます!」
佐官は止めた。
「爆発の原因はわかっておりません!」
「馬鹿者! 葬儀の場で爆発など起こるものか! これは我が国を破壊せしめんとする者どもの破壊工作だ! それくらいはわかるだろう!」
リェートは叱りつけ、そしてその足で中央広場に駆けつけた。
広場は混沌の場となっていた。兵たちが民衆を抑え、混乱の収拾に当たっている。リェートに、大臣補佐官が報告した。
「殿下。シゾーン閣下、ヴェスナー第二王子殿下が……亡くなりました」
「何ということだ……」
愕然、しかし予定通りの状況に、リェートの心臓は熱く鼓動を繰り返した。ついにヴァラン国を手中に収める日がきたのだ。
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